SDGsに適したフレキシブルな間取り[第2回]

「建築家具」で、空間を区切る!

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可変的な間取りを実現する3つの方法

【2】家具で仕切る

 可変的な間取りを実現するための2つ目の方法が「家具で仕切る」です。部屋を仕切る機能しかない間仕切りよりも、他の機能をあわせ持つ家具で仕切るほうが、メリットは大きいのです。

「例えば、収納機能のある『棚』を使うなど、壁や建具にない機能を持つもので空間を仕切るといいでしょう。底にキャスターがついていると移動が簡単なので、自由度は増します。また、長いソファをLDKの中央に置くと、リビングとダイニングキッチンを分けられます。ハイバックチェアで食事の場所を囲うという方法もあります」

 このように、暮らすための領域のゾーニングは、家具でもできるわけです。実際に鈴木さんの事務所の間仕切りは、ほとんどが移動できる家具で、自由度が高くなっています。

建築家具(開いた状態)(写真:齋藤さだむ)

【3】建築家具を使う

 3つ目が、建築家具を使用する方法です。聞き慣れない名称ですが、「建築家具」とはどのようなものなのでしょうか。

「先ほどの家具で間仕切る方法を拡張して、部屋をつくる家具を建築家具と呼んでいます。建築家具とは、家具の機能と、場所を生み出す建築の機能をあわせ持つ道具です。仕事、食事、睡眠に対応した3つの建築家具があれば、必要な時に必要な建築家具を持ち出せば、そこが目的に叶った部屋に変わります。これが私の考える“究極の可変的な間取り”を実現するための、お勧めの方法です」

 そもそも、鈴木さんの言う“究極の可変的な間取り”は、日本の昔ながらの和室の暮らしにあると言います。

「畳の部屋には、押入れがあります。朝起きて、布団を畳んで押入れにしまって、ちゃぶ台を出して食事をして、仕事道具を出して働いて、仕事が終われば、布団を敷いて1日が終わる。客が来れば、押入れから座布団を出して、その後、泊まるとなれば布団を出して敷けばいい。このような、日々の暮らしの変化を支えていたのが押し入れです。つまり1つの部屋を、時間や目的に応じて、食堂に、仕事場に、寝室にすることができました」

 もう1つ、昔の日本の暮らしを支えていた重要な設備がありました。それは蔵です。
 1年の四季の気候の変化に合わせて、すだれや敷き物を変えたり、お正月や雛祭りや、10年に一度の大きなイベントのための道具は蔵にしまってあり、その都度、出して使いました。

 必要に応じてふすまを取り払って蔵にしまえば、6畳は12畳になりました。このように、和室のフレキシビリティは、押し入れと蔵が支えていていたのです。

「これによって、100年でも何世代でも使っていける、究極の自由度と持続可能性が生まれました。私は、昔の日本の和室は可変性の高い住まいの究極の姿だと言っていますが、それはこういうわけなのです」

 しかし、現代の日本においては、特に都市部の住宅の多くで押入れが少なくなっています。ましてや蔵などは、望むべくもありません。

「まさにそこが問題なんです。昔の和室のような自由度と可変性を生み出すためには、どうすればいいか。考え抜いて出した答えが、『部屋を生み出す家具』という概念です。それは家具でありながら、同時に部屋のような場所を生み出すので『建築家具』と名付けました」

 鈴木さんは、食事、仕事、睡眠に対応して、3つの建築家具を考案しました。

【建築家具1】モバイルキッチン

モバイルキッチン。昔のちゃぶ台のように、部屋に持ち込んで開くと、そこがダイニングキッチンになる。(写真:齋藤さだむ)

【建築家具2】フォーダウェイオフィス/ホームオフィス

フォーダウェイオフィス。開くと単なるデスクと本棚と椅子が出てくるだけではなく、「囲われる」ため、個室のようになる。(写真:齋藤さだむ)

2019年には建築家具「HOME OFFICE」を発表。2022年3月、進化したHOME OFFICE 2022をニューノーマルの暮らしをデザインするYODOKO+から発売した。(写真:山田新治郎)

【建築家具3】フォーダウェイゲストルーム

フォーダウェイゲストルーム。開けばベッドルームになる。ただの折りたたみベッドではなく、部屋として囲われたプライベート空間をつくることが可能。サイドテーブル、パジャマなどを置く場所も。経済的余裕から、ゲストルームをなかなか用意できない人にも有効。(写真:齋藤さだむ)

建築家具と同一空間における
時間別多用途利用のイメージ

AM 8:00「キッチン」 を 移 動 して 開く。IH ク ッキングヒーターでお湯をわかし、カフェオレとバゲットで朝食。

PM2:00「オフィス」を部屋の中央に移動して開くとそこが書斎になる。メールをチェック。

PM11:00「ベッド」を移動して開くとそこが寝室になる。照明を消して就寝。

「食事をしたくなった時、ちゃぶ台の代わりにモバイルキッチンを持ち出せば、そこはダイニングキッチンに様変わりします。仕事も、これまで書斎には机が必要でした。ところが、部屋のすみにフォーダウェイオフィスをしまっておき、必要な時に必要な場所に持ち出し、開けば、そこが書斎になるのです。仕事が終わったらフォーダウェイオフィスを閉じてしまい、ふとんの代わりにフォーダウェイゲストルームを持ち出せば、そこが寝室になります。このように、まるでかつての和室のように、一つの部屋を時間別に使い分けることが可能になるのです」

 次回は、鈴木さんが手がけた事例と、可変的な間取りに適した住まいや空間について、解説していただきます。

SDGsを動画で学ぶ:
「内田篤人のSDGsスクール!」

www.youtube.com/channel/UCyLpj6fbC4Q8sXYu8o_2x3Q/featured

LIXIL SDGsアンバサダーの内田篤人さんと一緒に、SDGsというテーマを分かりやすく学び、 楽しい実験や体験を通じて、皆さんと一緒に知識を身につけていただくYouTube番組です。

≪お話をうかがった方≫

鈴木敏彦(すずき としひこ)さん

工学院大学建築学部建築デザイン学科教授、株式会社ATELIER OPAファウンダー。1958年東京生まれ。工学院大学建築学科修士課程修了。黒川紀章建築都市設計事務所、フランス新都市開発公社EPAmarne、早稲田大学建築学専攻博士課程、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科助教授、首都大学東京システムデザイン学部准教授、工学院大学工学部建築都市デザイン学科教授を経て現職。空間の移動性と可変性をテーマに領域横断型デザインを実践している。北欧建築・デザイン協会副会長。アジアデザイン大賞グランプリ、A’DESIGN AWARD 2016、D&AD Awards 2020/Graphite Pencil、DNA PARIS DESIGN AWARDS 2021他受賞多数。著書に、『世界で一番美しい建築デザインの教科書』(エクスナレッジ)、『建築プロダクトデザイン/暮らしを劇的に変えるモノと空間の設計思想』(講談社)、『ヤコブセンの建築とデザイン』(TOTO出版)、『黒川紀章のカプセル建築』(Opa Press)などがある。

文◎山下久猛
撮影◎大平晋也
写真提供◎鈴木敏彦

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