自宅の耐震化でSDGsに貢献![第4回]

住まいを凶器としないために

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防災リフォーム

予算に合わせたお勧めの耐震工事

図版提供:日本木造住宅耐震補強事業者協同組合

 前回、さまざまな耐震補強工事についてご紹介しました。では工費はどのくらいかかるのでしょうか。

「一般的なリフォームの場合は大抵、いくつかの決められた料金プランがあります。しかし、耐震補強工事は工事の内容やどの程度耐震性を高めるかによって金額は大きく変わります。例えば同じ壁を3カ所補強する場合でも、一つひとつ施工のしやすさや使われている素材で違ってきます。いわばオーダーメイドの工事なのです。私もよく『いくらでできますか?』と聞かれるのですが、即答が難しい。ただ、参考までに、木耐協が実施したアンケート調査の結果では、耐震工事を行った方の平均額は167万円、中央値は140万円でした」

 また、一般財団法人日本建築防災協会では、工事費用の概算を求める計算式を公表しています。耐震診断結果と目標とする強さで概算費用を出すことができるので、参考にしてみてはいかがでしょう。

耐震工事の費用を抑えるコツ

 それでも極力費用を安く抑えたいのが人情というものでしょう。方法はあるのでしょうか。

「それなら耐震診断の時(連載第2回)でもお話ししましたが、水まわりなどをリフォームする時に取り組むと、割安で耐震工事ができます。例えば、浴室のリフォームをする時、基礎の腐れが見つかったりするんです。そのリフォームが済んだ後に耐震補強工事をすると、再び壁や床を開けなければいけません。壁などのリフォームも同様です。

 実際に、『先日リフォームをしたばかりなんですが耐震補強工事をしたい』という連絡をもらうこともあります。これは非常にもったいない。ですので、全体的な費用を抑えるためにはリフォームを考える時に耐震補強工事もすることを強くお勧めします」

 また、ほとんどの自治体で、耐震診断・補強設計・耐震改修工事に補助金を受けられる制度があります。加えて、耐震改修に係る所得税・固定資産税の特別減税制度もあります。費用を少しでも抑えるため、これらの制度をうまく活用しましょう。

 実際に耐震補強工事を行う業者はどのように選べばよいのでしょうか。

「耐震診断と同じく、専門的な知識や技術、ノウハウをもち、なおかつ施工経験豊富な施工業者を選ぶことをおすすめします。耐震技術認定者の有資格者や建築防災の受講修了証をもっている人がいる会社なら安心でしょう。自治体でも、耐震補強の補助の相談をすると、工務店のリストを見せてくれることがあります。その中から選んでもよいでしょう」

「やってよかった」を1人でも増やしたい

 最後に、実際に家の耐震化について迷っている方へのアドバイスをいただきました。

「防災には住宅の耐震性確認や家具の転倒防止などの『事前』と、備蓄品を準備したり家族の集合場所を決めておいたりといった『事後』があります。まずは命を守る。そのために必要なのが『事前防災』であり、中でも最も重要なのが『住宅の耐震化』です。

『でも、耐震補強にはかなりのお金がかかるし……』と、踏み切れない人も多いでしょう。確かにある程度のお金がかかるのは事実です。しかし、被災した場合にもお金がかかります。自宅の耐震補強にかかる費用と、被災後の再建にかかる費用を考えてみましょう。

 まず耐震補強して地震後も住み続けられた場合。先ほどもお話した通り、私どものアンケート調査によると、耐震工事の平均額はおよそ160万円でした。
 次に、地震で住宅が全壊してしまった場合。国の調べによると、東日本大震災の全壊家屋の新築費用は、平均約2,500万円。このうち公的支援として受給できたのは、善意による義援金をあわせても約400万円にとどまりました。つまり、差額の2,100万円はどうにか用意しなければならないわけです。

 さらに、建て直し費用以外にも引っ越しや家財の買い直しなどにもお金がかかる上、新たに住宅ローンを組む場合には『二重ローン問題』にも直面します。大地震で住宅が倒壊すと、甚大な経済的負担が発生するのです」

「以前、阪神・淡路大震災の語り部の方が、こんなことを言っていました。『自宅の倒壊で亡くなった人に話を聞けるなら、自宅の耐震化をやっておけばよかったと言うだろうな』と。

 何か起きなければわからないけれど、起きてからでは遅いこともあるんですよね。『いつ起きるかわからない大地震』は『いつ起きても不思議ではない大地震』なんです。その大地震に対してどこまで備えるかは、皆さんの考え方次第ですが、事前防災の専門家である私たちは、1人でも『やっておけばよかった』という人を減らし、『やっておいてよかった』という人を増やしたいと考えています。

 アンケートを取ると『大地震は起きるとは思っているけれど、自分だけは大丈夫』と思っている人が多いんです。昔から家は人生で一番大きな買い物といわれています。家族が幸せに過ごすはずの夢のマイホームが、まさか家族を殺す凶器になると思っている人はいないでしょう。

 建ててから50~30年経過し、今後も住み続ける予定のある方は、万が一のことがあった時に『耐震補強をやっておけばよかった』と後悔することのないよう、今からできることはしていただきたいですね」

SDGsを動画で学ぶ: 「内田篤人のSDGsスクール!」

www.youtube.com/channel/UCyLpj6fbC4Q8sXYu8o_2x3Q/featured

LIXIL SDGsアンバサダーの内田篤人さんと一緒に、SDGsというテーマを分かりやすく学び、 楽しい実験や体験を通じて、皆さんと一緒に知識を身につけていただくYouTube番組です。

≪お話をうかがった方≫

関励介(せき れいすけ)さん

日本木造住宅耐震補強事業者協同組合 事務局長。1974年岩手県生まれ。大学卒業後、国際会議や学会の運営・事務局業務を経て、2002年から現職。組合員(工務店)への情報提供、耐震研修、一般消費者向け耐震セミナーなど、組合の運営全般を担当している。

文◎山下久猛
撮影◎大平晋也
写真提供◎Shutterstock

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