SDGsに適したフレキシブルな間取り[第3回]

事例を大公開! これが可変的な住まいだ!

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「建築家具」を使った家づくり

 まずは、鈴木さんが手掛けた「建築家具を使用した可変的な間取り」を、2つ紹介してもらいましょう。

【事例1】インフィル「動く家」

 建築家具だけで、マンションのワンルームをつくった事例です。
 部屋の中央に、衣服などが入る収納を置いて、それによって空間を仕切り、それぞれを「ベッドルーム」と「ダイニングキッチン」としています。収納は開くと壁になりますが、開かずにいても、ちょっとした壁として機能します。

 また、キッチン自体が可変的です。料理をつくる時はキッチンになるのですが、料理をしない時、例えば仕事や打ち合わせする時などは、シンクを隠すことで、ダイニングテーブルとして使用できます。

「しかもこのマンションの改装は、壁や固定間仕切りがなく、すべて家具でできているので、一度スケルトン(柱や壁のないまっさらな状態)にしたら、あとはキッチンも含め、家具を置くだけです。そのため、工事期間がスケルトンにする時間が一番長く、それ以外は数日でできてしまいます。施工コストに関しても、メインは解体費のみ。トータルのコストはそれほど変わらないかもしれませんが、資金を建築家具に回すことができるので、自由度の高い、可変的な間取りの特別な場所をつくることが可能となるのです」

インフィル「動く家」。左がワンルーム形式、右が個室形式。 (写真:齋藤さだむ)

動くキッチンが間取りを変える「HOUSE U」。(写真:齋藤さだむ)

【事例2】HOUSE U

 広い居住空間の中央に建築家具(可動キッチン)を配置し、LDKの機能配分に自由度をもたせた事例です。
 可動キッチンのシンク周辺はステンレスですが、カウンター部分は収納家具のように仕上げています。左半分にキッチン設備を納め、右半分には食器などを収納できます。
 カウンターを伸ばした状態で使うと3.6m。キャスター付きの収納部分を90度回転するとL字型になり、180度回転するとアイランドキッチンに変わります。

「施主の方は、日常的にはカウンターを伸ばして使い、来客の際にはカウンターを折り曲げて料理を並べ、部屋を広く使っているようです」

究極は、柱も壁もない広いワンルーム

 そもそも、可変的な間取りを実現するための理想的な住居とは、構造的にはどのようなものなのでしょうか。

「究極は、柱も壁もない広いワンルームです。これなら、可動式の間仕切りで自由にレイアウトができるからです。逆に、耐力壁で部屋が小分けされている住居は、壁を取り除いたり、位置を変えたりできないので、可変的な間取りにするのは難しいでしょう」

 耐力壁がない場合、住居の強度や耐震性に不安を抱く人もいるかもしれませんが、外側の構造体を強化することで十分確保が可能だということです。

 ただ、家族で暮らせる広いワンルームという物件は、あまりないのが現状です。その場合は、建築士に自分の希望を伝えて新築するか、リフォームやリノベーションが必要となります。予算に余裕があれば前者でも構いませんが、後者がお勧めだと鈴木さんは言います。

「RC造のマンションの構造体は床と壁、中は間仕切りでできているので、基本的に簡単にリフォームしやすいといえるでしょう。既存の床、壁、天井を取り除いてスケルトンにすれば、まったく新しい間取りをつくることができます。床下配管にすれば、どこにでもキッチンや浴室を移動可能です。

 よって、部屋を可変的な間取りにするために必要な費用としては、まず細かな間仕切り壁を取り除き、スケルトンの状態をつくる工事費。次に、床下に配管スペースを持つ高さの床を敷く工事費。これらの費用は、500万円も出せば事足りるでしょう。

 ですので、例えば都心で新築の5000万円のマンションを買うよりも、2000万円で中古のマンションを買ってフルリノベーションをしたほうが、半分ほどの費用で、可変性のある住心地のいい住まいがつくれると思います」

 一方で、柱や梁、筋交いがあって、構造的に抜けない柱があったり、細かい部屋割りで内部の壁を構造壁としていたり……、という木造の家は、リフォームしにくいと言えます。

「しかし、木造は構造形式までもやり直すことが可能なので、そこまでやれば、改修の自由度はRC 造以上と言えるでしょう。例えば、大きな鉄骨の梁を1本入れれば、間の柱は取れます。マンションでも戸建てでも大きな決断となるでしょうが、実行すると、今までとは違った豊かで楽しい暮らしが生まれると思いますよ」

15年ごとの更新が必要

 ただし、このレベルの改修となると、費用もかさみます。そこで、将来を見据えて資金を積み立てておくことが重要となります。

「多くのマンションでは、設備の交換や外内装の整備などの大規模改修は、15年程度のサイクルで行われます。同じように住宅も、15年くらいで老朽化したり、住む人たちのライフスタイルが変化したりするので、マンションと同じサイクルで大規模な間取りの変更などを含む、大きな改修を予定することが求められます。

 そのためには、マンションと同じように、大規模改修の工事費を積み立てておくことが肝要です。15年後の大規模改修を見据えて、そのための費用を貯金していれば、これが可能となります。住宅は1度買ったら何もしなくていいわけではなく、定期的な更新をしなければなりません。それが、長く住むための秘訣なのです」

 次回は、鈴木さんが提唱する、ライフステージの変化に対応可能な未来の間取りについて解説していただきます。

SDGsを動画で学ぶ:
「内田篤人のSDGsスクール!」

www.youtube.com/channel/UCyLpj6fbC4Q8sXYu8o_2x3Q/featured

LIXIL SDGsアンバサダーの内田篤人さんと一緒に、SDGsというテーマを分かりやすく学び、 楽しい実験や体験を通じて、皆さんと一緒に知識を身につけていただくYouTube番組です。

≪お話をうかがった方≫

鈴木敏彦(すずき としひこ)さん

工学院大学建築学部建築デザイン学科教授、株式会社ATELIER OPAファウンダー。1958年東京生まれ。工学院大学建築学科修士課程修了。黒川紀章建築都市設計事務所、フランス新都市開発公社EPAmarne、早稲田大学建築学専攻博士課程、東北芸術工科大学プロダクトデザイン学科助教授、首都大学東京システムデザイン学部准教授、工学院大学工学部建築都市デザイン学科教授を経て現職。空間の移動性と可変性をテーマに領域横断型デザインを実践している。北欧建築・デザイン協会副会長。アジアデザイン大賞グランプリ、A’DESIGN AWARD 2016、D&AD Awards 2020/Graphite Pencil、DNA PARIS DESIGN AWARDS 2021他受賞多数。著書に、『世界で一番美しい建築デザインの教科書』(エクスナレッジ)、『建築プロダクトデザイン/暮らしを劇的に変えるモノと空間の設計思想』(講談社)、『ヤコブセンの建築とデザイン』(TOTO出版)、『黒川紀章のカプセル建築』(Opa Press)などがある。

文◎山下久猛
撮影◎大平晋也
写真提供◎鈴木敏彦

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