SDGsで自由研究![第2回]

買い物編……チョコの生産者はだれ?

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学ぶ子育て

最も身近で手軽に取り組める「買い物」

「前回、テーマはできるだけ身近なものにした方がいいとお話しましたが、子どもたちにとって買い物は最も身近な行為の一つでしょう。そこで日常的によく買う好きな商品の中から、どのような物を選ぶとSDGsに貢献できるのかを調べます。そして、貢献できるものがわかったら、実際に買ってみて、使ってみると良いでしょう。

 例えば子どもが大好きなチョコレート。その原料となるカカオを収穫するために、「現地の子どもたちが学校に行かせてもらえないまま、みんなと遊んだりすることもできずに、一日中労働させられているケースもあります。

 そんな現状を知ることにより、『児童労働によって収穫された原料で作られた製品よりも、児童労働とは関わりのないカカオを使って作られたチョコレートを選んだほうが良い』と自分自身で気づけば一歩成長といえるでしょう。まずは現状を知ることが重要なのです」

 事実を知った子どもは、児童労働とは関わりのないカカオで作られたチョコレートを買いたいと思うでしょう。すると次に、「じゃあ、そのようなチョコはどうやって買えばいいの?」という疑問が生じて、調べはじめます。

 そうすると「エシカル消費」や「フェアトレード」という、SDGsに関係の深いキーワードが出てきて、学んでいくことでしょう。不公平や搾取とは無縁のチョコだと思えば、いつもよりおいしく感じるかもしれません。

「近年、日本でも格差が広がっているので、若い世代ほど不公平感や人権問題に敏感になっています。今までは『安ければいい』と思っていたのが、『その商品の裏側にあるいろんな問題が自分たちとつながっている』と知ることで、だれかが不幸になる物は買いたくないと思う若い世代が増えていると感じています。

 このようなエシカル消費は、SDGsの1(貧困をなくそう)、3(すべての人に健康と福祉を)、8(働きがいも経済成長も)、10(人や国の不平等をなくそう)、12(つくる責任、つかう責任)、16(平和と公正をすべての人に)など、たくさんの目標達成に貢献できます」

 エシカル消費やフェアトレードについては「今日からできる! 誰でもできる! SDGs入門[第2回]」 をご参照ください。

動物実験をしていないリップクリーム

「以前、中学校で、エシカルコンシューマーの授業をしたことがあります。これは人権や社会のことを考えて買い物をする人を指す言葉です。

 この授業では、『持続可能な社会を実現するために、物を買う時はメーカーや色、デザイン、価格だけでなく、環境や人権、未来なども考慮してください』と話しています。決して『環境や人権、未来だけで選びなさい』と言っているわけではありません。そうすると今、必要なのに条件にあったものが無いからいつまでも買えない、ということになってしまうので、今あるものの中から、少しでもそれらの要素が入っているものを選んで買うようにしてくださいということです。

 事前にこのような話をして、生徒に『持続可能な社会を実現することを念頭に置いて商品を選んでください』というお題を出したところ、ある生徒は、動物実験をせずに作られたリップクリームを買ってきました。選んだ理由を聞くと、『自分の家ではペットを飼っていて、家族の一員だから』と」

 買い物ではその人の価値観が表れます。価格を気にする人は「安さ」を最優先に選ぶでしょうし、ブランド志向の人は、自分好みのショップ以外に目を向けることはあまりないでしょう。

 では、もしも「動物実験をしているか、いないのか」が重要な価値観になったらどうでしょうか。それまでは価格やブランドで選んでいたとしても、インターネットで調べたり、商品説明を読んだりするのではないでしょうか。

「実は、動物実験をしていない化粧品にはウサギのマークが付いています。自分で調べながらこのことに気づいた生徒は、次からはマークを確認して買うようになります。このように、『この商品はどんなふうに作られているんだろう』と思いを馳せるだけで、選ぶものがずいぶん変わってくるものです。

 そして、『皆さんが動物実験をしていない商品を買うようになれば、作る側も、売れるほうの商品を作るようになるでしょう』と話すと、自分たちの選択で社会や世界を変えられることに気がつくわけです」

環境問題にも関連

 買い物は多岐に渡るので、SDGsのさまざまな目標と関連します。

「紅茶を買う時も、ペットボトルに入ったものより、フェアトレードのリーフティーティーバッグを使って家で淹れて飲む方がプラスチックごみを減らせるし、現地の生産者の人権を守ることにも貢献できて、お金も節約できます。

 お菓子も、一つひとつプラスチックの袋で包装されているものをやめて、簡易包装のものや紙で包装されているものの方が、ごみを減らせます。また、ノートも古紙配合率が高いエコマークやリサイクルマークがついているものを選ぶと資源の節約につながり、森林を守ることにも貢献できます。

 このように、買い物をテーマにすると、購買行動がSDGsに深く関係していることに気づき、自分で調べ、実際に購入して使うことで、SDGsの目標達成に貢献できることを実感として学ぶことができます。しかも身近ですぐに取り組めるので、自由研究には最適と言えるのです。このような子どもたちが大人になると世界は変わると信じています」

 子どもたちにはそのようなヒントを与えて、自由研究では「どのような商品が社会の問題とつながっていて、どのような問題に関心があるのかという視点で買い物をしてみる」というテーマにしてみるのもいいでしょう。

SDGsを動画で学ぶ :「内田篤人のSDGsスクール!」

www.youtube.com/channel/UCyLpj6fbC4Q8sXYu8o_2x3Q/featured

LIXIL SDGsアンバサダーの内田篤人さんと一緒に、SDGsというテーマを分かりやすく学び、 楽しい実験や体験を通じて、皆さんと一緒に知識を身につけていただくYouTube番組です。

≪お話をうかがった方≫

下村委津子(しもむら しづこ)さん

NPO法人環境市民副代表理事。1997年、フリーランスアナウンサーとして担当していたラジオ番組で、COP3(地球温暖化防止京都会議)について毎日報道していたのをきっかけに環境活動に目覚め、NPO法人環境市民に加入。以後「日本の環境首都コンテスト」を10年間実施、環境教育やグリーンコンシューマー活動などを展開。2017年、副代表理事に就任。現在はメディアと環境NGOの双方を知る者として、より正確な情報と真意をわかりやすく多くの人に伝えられる役割を担いたいとの思いで、持続可能な生産と消費の実現を目指して活動中。そのほかNPO法人持続可能な開発のための教育推進会議 (ESD-J)、一般社団法人市民エネルギー京都理事、NPO法人FEE Japan(国際環境教育基金)理事、NPO法人アントレプレナーシップ開発センター理事、京都市廃棄物減量等推進審議会審議員、龍谷大学政策学部非常勤講師なども務めている。

文◎山下久猛
撮影◎山田紗基子
撮影協力◎京都ペレット町家ヒノコ
写真提供◎photoAC/Shutterstock/PIXTA

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