今後のライフステージの
変化に応じた間取りの例
鈴木さんからは前回、ライフステージ・ライフスタイルの変化に応じた「間取りの変化」という問題に対して、「15年ごとの大規模改修」というお話しをいただきました。
今回、それ以外の解決策を、実際の建築作品を例に提示してくれました。
【1】部屋のカプセル化
「私は、部屋を独立させて建築ユニットとすることが、『可変性』という点で、よりダイナミックな解決方法になると考えています。1969年、私の師である建築家の黒川紀章は、ホモ・モーベンスという、移動しながら働き、暮らす人物像を提示し、きたるべき情報化社会の主役になるだろうと予言しました。
そしてホモ・モーベンスの住まいはカプセルだと宣言し、1970年の大阪万博で、そのコンセプトモデル住宅を展示し、その2年後、カプセルの集合住宅として『中銀カプセルタワービル』をつくりました。翌年には、4つのカプセルを部屋として組み合わせた住宅として『カプセルハウスk』を実現しました」
その後、インターネットやパソコン、携帯電話などの普及によって、いつでもどこにいても仕事ができる環境になりました。しかし、黒川氏が予言したような世の中にはなりませんでした。ほとんどの人が、決められた時間に会社へ通勤して働くという状況は変わらなかったからです。
それがコロナ禍によって、なかば強制的にリモートでの仕事を強いられ、それが可能であることがわかりました。
これにより、オンラインでどこでも仕事ができ、複数拠点を行き来するなど、人々のライフスタイルは劇的に変化しつつあります。まさに黒川氏の予言どおり、ホモ・モーベンスの暮らしが現実になってきたわけです。
「部屋が独立したカプセルになれば、住宅の間取りは母屋となる部分をリビングとして、欲しいカプセルを周囲に配置させることによって完成します。つまり、間取りをカプセルの入れ替えで自由につくれるようになるのです(下図参照)。例えば子どもが独立したら、子ども部屋のカプセルを切り離して中古カプセルとして販売し、その代わりに趣味の部屋カプセルに入れ替えることも可能です」
カプセルのように移動、脱着、交換可能な部屋による間取りの概念図。
【2】自走する部屋TSUBO-CAR
カプセル建築がより進むと、「部屋自体が移動するようになる」と言います。
「カプセル建築のさらなる可能性は、完全自動運転技術との組み合わせにあると考えています。それによって、部屋のカプセルが自走することができるようになれば、私たちの暮らしは大きく変わります。その一案が『自走する部屋TSUBO-CAR』です」
日々、進展する自動運転技術の最終目標は、「運転手が待機する必要のない、真の意味での自動運転(レベル5)」です。
これが実現すれば、住居と自動車の境界は曖昧になるに違いありません。
自走する部屋 TSUBO-CAR (動画はこちらで)
次世代カプセル建築の自動制御エレベーター(作図:小泉健三/鈴木研究室)
『黒川紀章のカプセル建築』(鈴木敏彦、山田新治郎、Ops Press)より
【3】EVカプセル高層集合住宅
そして、そのコンセプトを集合住宅にしたのが「EVカプセル高層集合住宅」構想。リビング、キッチン、バス・トイレなど、動かせない基幹住居部分と、書斎、寝室などの自走するEV(電気自動車)カプセルをドッキングした、ファミリータイプの集合住宅です。
各戸には最大3つのEVカプセルが連結され、家族構成やライフスタイルの変化に応じてカプセルの入れ替えや、日常的に部屋ごと移動することが可能。
EVカプセルは、リチウムバッテリー、タイヤ、インホイールモーターなど駆動関係がカプセルの床下に装備され、カプセル内にはハンドルや運転席はありません。
基幹住居部分から瞬時に着脱可能で、カプセルエレベーターで昇降し、国土交通省が定めたレベル5の完全自動運転機能で目的地まで自走します。
「暮らしのイメージとしては、子どもが生まれたら子ども部屋のカプセルを増やし、独立したらカプセルごと取り外します。親の同居が必要になれば一部屋増やし、郊外に設けたセカンドハウスの基幹住居へ週末に気分転換に移動したりもできます。歩行困難な人でも、部屋にいながらにして病院まで移動でき、そのまま診察を受けることができます。EVカプセルは、高齢者や障害者などの弱者が社会と能動的につながることを助け、弱者が暮らしやすい社会の創造に貢献できるのです」
右のイラストは、鈴木研究室で構想した「EVカプセル高層集合住宅」の概念図です。
この仕組みをカプセルと組み合わせると、中銀ビルのような形のカプセルの部屋を自由に出し入れして、くっつけたり離したりできるそうです。
これなら自由度がとても高く、どのようなライフステージ・ライフスタイルの変化にも対応できるはずです。実際、このようなシステムを採用したカーパークがドイツにあるとのこと。遠い未来の話というわけではないようですね。
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