都市の持続可能性。鍵を握るのが「間取り」!?
人は年齢を重ねるにしたがい、結婚、出産、子どもの成長・巣立ち、親との同居など、ライフスタイルは大きく変わります。快適で無駄のない生活を継続するためには、それに応じて、間取りなど住居のあり方も変える必要があります。
しかし、その都度、建て替えや大規模リフォームをすれば、経済的にも大きな負担となります。新しい建築資材やエネルギー等を使用しなければならず、環境にも優しいとはいえません。
その点、「可変的な間取り」なら、家族構成や生活の変化に応じて、大規模リフォームをせずとも間取りを自由に変えられます。空間の移動性と可変性をテーマに領域横断型デザインを実践している建築家の鈴木敏彦さんも、都市という観点から「可変的な間取り」はSDGsに適していると言います。
「建築は、老朽化などの物理的な理由よりも、住む人の暮らし方とインテリアの間取りの関係性に不都合が生じた時に寿命を迎えます。つまり、家族構成やライフスタイルの変化に間取りが対応できない時に、建築は壊されるのです。建築が壊されると、その地域の景観も変わります。
しかし、間取りの可変性などの自由度があれば、不都合は解消され、建築は維持されます。言い換えれば、間取りの可変性が、都市の持続可能性を支えているのです。つまり、可変性のある自由な間取りは、SDGs開発目標11の『持続可能な都市』(包摂的で安全かつ強靭で持続可能な都市及び人間居住を実現する)に貢献できるのです」
可変的な間取りにすると、例えば子どもが成長して巣立ったら子ども部屋の仕切りを取り払い、リビングと結合させ、より広い空間でゆったり過ごす……、ということが簡単にできます。
また、親と同居することになった場合も、リビングに仕切りを設けて親の部屋をつくることが、大規模な工事なしに可能となります。
さらに可変的間取りのメリットについて、鈴木さんはこう語ります。
「1軒の住宅で3世代、100年間暮らすと考えると、当然、家族構成や暮らし方など、ロングスパンでたくさんのことが変化します。それだけではなく、1年の中で暑い時と寒い時があったり、突然お客様が来て泊まる日もあったりします。このように、日々の暮らしの中でも、さまざまな状況の変化に対応しなければならないのが住宅です。当然ながら、そうした細かい変化に合わせて、その都度住宅を根本的に変えることはできません。しかし、間取りの可変性や自由度があれば、これらの暮らしの変化に柔軟に対応でき、長く快適に住み続けることができるのです」
可変的な間取りを実現する3つの方法
では、住居を短期的・長期的な変化に応じて変えられる可変性と、自由度の高い間取りにするための具体的な方法としては、どのようなものがあるのでしょうか。鈴木さんによると、大きく分けて3つの方法があるそうです。
【1】可動間仕切り
まず1つ目が「可動間仕切り」です。最大のメリットは、簡単かつフレキシブルに空間がつくれる点にあります。大がかりな工事もなく、部屋と部屋を区切る「間仕切り」を、自由に取り外したり動かせたりできるので、場面に応じて過ごしやすい環境をつくることができます。
例えば、リビングで家事や仕事をしたい時は、そこだけを独立した空間にすることも可能です。
また、家族構成の変化に合わせて可動間仕切りで部屋を分けることもできます。
例えば、子どもが小さいうちは広い部屋で遊ばせ、一人部屋を持ちたくなる年齢になったら部屋を2部屋に分けることも可能。
子どもの成長に合わせて柔軟に部屋のレイアウトを変えることができるのも、可動間仕切りの大きな魅力です。
よく使われる可動間仕切りには、3つのタイプがあります。まず1つは、床から天井を区切る「ハイパーテーション」。静寂さがほしい時や、完全に部屋を分けたい場合に使われます。
2つ目が、衝立などで仕切る「ローパーテーション」。パーテーションと天井のあいだに空間があり、お互いの部屋の空気を感じつつ、スペースを分けたいときに便利です。
3つ目は、キャスターなどがついていて楽に移動できる「移動パーテーション」。一時的に空間を区切りたいときなどに使用されます。
可動間仕切りを利用したリフォーム方法には、明るく開放感のある雰囲気を保てる半透明な可動間仕切り、安価で開閉が容易なので必要に応じて間切りを利用できるアコーディオンカーテンなどがあります。
可動間仕切りにかかる費用は、本体と設置費で約30万円~50万円ほど。アコーディオンカーテンであれば、1万円~20万円ほどと、より安価にできます。
例えばLIXILの「ラシッサ」なら、大空間をリビング、寝室、書斎などの用途に合わせて使い分けできます。
間仕切りを開けた状態。広々としたワンルーム広間に。
間仕切りを閉めた状態。個室(寝室)が3室できる。
「究極の可動間仕切りの家は、20世紀前半のオランダで建てられた、リートフェルト設計のシュレーダー邸ですね。シュレーダーの教育方針で、家族のコミュニケーションを重視し、すべての間仕切りが可動式になっています。昼間はすべての間仕切りを取り払って個室をなくして、広い1つのリビングルームになります。
ただ、間取りが変わるわけではなく、間仕切りがなくなるだけなので、家族構成の変化に、完全には対応できません。また、将来的に可動間仕切りの設置位置自体が気に入らなくなる可能性もあるので、可動間仕切りだけでは、完全な可変性のある間取りの実現は難しいと言わざるをえないでしょう」
究極の可動間仕切りの家・ヘリット・トーマス・リートフェルト設計のシュレーダー邸(1924年)ユトレヒト(オランダ)
パブリックゾーンとプライベートゾーンが間仕切りを動かすことによって変化するプラン。青い床の部分はパブリック・スペース(リビング、ダイニングなど)、オレンジ色の床の部分はプライベートな寝室。
『世界で一番美しい建築デザインの教科書』(鈴木敏彦、松下希和、中山繁信、エクスナレッジ)より
「可変的な間取りを実現する3つの方法」のうち、残る2つについては、次回解説します。
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