「介護」の視点から考えるリフォーム[第3回]

自立を助けるキッチンづくり

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老後介護リフォーム

「電化」は必要か?

 高齢の方のためのキッチンリフォームというと、多くの方が考えるのが「電化」です。特に、古いガステーブルはセンサーなどの安全装置がなかったり、あっても片方だけだったりで、事故が起きやすいというイメージがありました。

「いまは安全装置もしっかりしていますから、ガステーブルだから危険ということはないと思います。IHに変えると、従来のガステーブルとは違うコツが必要だったりして、使いづらさを感じるお年寄りもいらっしゃいます」という太田さん。

「それでもIHを」と思われるなら、一度、家電量販店などで売っている1口のIHクッキングヒーターを使ってみたり、料理教室でIHコンロを体験してみたりしてはどうでしょう。IHは安全性だけではなく、掃除のしやすさなどのメリットもあります。使いこなせるようなら、導入によって普段のキッチンまわりの作業は快適になります。

椅子に座っての調理を考える

 太田さんは、熱源よりも、むしろキッチンそのものの高さを考えることを提案してくださいました。

「ご年配の方は、長時間立って水仕事や調理をするのが大変です。いまは椅子に座りながら作業をできる、やや低めのシンクもあります。大がかりなリフォームをするなら検討するといいと思いますね」

 LIXILのシステムキッチンでも、車椅子の方や、椅子に座って調理をしたい方のためのシステムキッチン「Well Life(ウエルライフ)」シリーズがあります。ビルトインの食洗機もラインナップされ、車椅子でもアクセスしやすいように、コンロやシンクの下に足が入る設計になっています。

「注意したいのは、椅子に座って調理する際に、キャスター付きの椅子や、重心が上にある不安定な椅子で作業をしないことです。ちょっとした動作でバランスを崩して、転倒する危険性があります」

ウエルライフ


車椅子の方でも安心して使える「Well Life(ウエルライフ)」シリーズのキッチン。

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収納は手が届く範囲に

 車椅子ではなくても、年齢を重ねると大変になるのは「収納」です。重い鍋や食器はもちろんのこと、小さなものでも食器棚の上のほうや、頭上の収納から出し入れするのは大変です。踏み台は転倒の危険性があるので避けるべきです。

「目の上より高いところ、そして膝より低いところの収納スペースには、頻繁に使うものを入れないようにしましょう。下にある重いものを持ち上げようとすると、腰を痛めてしまったり、うっかり手を滑らせて足の上に落としたり、けがの原因になることもあります」と太田さん。

 LIXILのシステムキッチンには、高いところにある収納をワンタッチで下まで下げることができる「オートダウンウォール」というユニットがあります。こうしたものを取り入れることでも、安全に家事を行うことができます。

生活に合わせてサイズを小さく

 リフォームを機に、不要な調理器具や長年使わない食器などを断捨離するのもいいでしょう。3年使っていない調理器具や、結婚式の引き出物でもらったままの食器を処分することで、荷物はかなり少なくなるものです。

 歳を重ねると、調理に手間がかかって大変なものや、いっぺんに大量にできるものは作らなくなります。使い慣れたお鍋も、持て余してしまうかもしれません。適切な大きさのものに買い換えるのもいいでしょう。

「冷蔵庫に大量に食料品を買い込んでも、使い切れずに捨ててしまわなければならない、という方も結構いらっしゃるようです。自分が買い物に行けるサイクルを考え、どういった食材を買うのかも含めて生活を見直すことで、ものが減り、キッチンの動線が楽になります」

家族みんなでごはんを作る楽しさを

「キッチンは主婦の城」という考え方が長らくありました。リフォームをするときにも、キッチンについて夫はあまり意見を言わず、妻がすべてを決めるケースがほとんどです。
 けれど、ご家族の中で、誰が要支援・要介護になるかはわかりません。それまで妻だけが料理をしていた家庭で、夫が料理をしなくてはならないことになる可能性は大きいのです。

 それなら、介護があるなしに関わらず、いまのうちに、夫も一緒にキッチンに立つ習慣を付けてはいかがでしょう。皿洗いや、できた料理を盛り付けたり、皿を並べるだけでもかまいません。
 妻がこなす家事がどれだけ大変か理解できますし、将来、自分が家事をしなければならないときのためにもなります。一緒に何かを作業をする時間が増えることで、会話も増えます。ひとりでいるより、誰かと会話をするほうが脳が活性化され、活動的になります。

「リフォームをすることで、離れたところに住むお子さんが、お孫さんを連れてくることが増えるケースがあります。家族との交流が増えることで、要介護の方の自立の気持ちも後押ししてくれます。何より、お孫さんと一緒に料理を作ったりするのは楽しいですよ」

 キッチンをリフォームすることで、単に日々の作業を楽にするだけでなく、生きることの楽しさを実感できるのではないでしょうか。

 次回は、お風呂とトイレ周りのリフォームについて伺います。

〈お話を伺った方〉

太田浩史さん

板橋区上板南口商店街振興組合理事、 一般社団法人日本福祉環境整備機構代表理事、上板橋のコミュニティカフェ併設デイサービス「キーステーション」勤務。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
イラスト◎河田ゆうこ
画像提供◎PIXTA/Shutterstock

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