
昨今、学校教育でも積極的に取り入れられているSDGs。自由研究の題材にすれば子どもたちが持続可能性について身をもって学べるいい機会となるでしょう。そこで、長年、学校の生徒や教員に対して環境教育を行っているNPO法人 環境市民 副代表理事の下村委津子さんに「自由研究のテーマとしてのSDGs」について解説していただきました。
子どもたちが自由研究でSDGsを扱うことにはどんな意義やメリットがあるのでしょうか。
「まず、子どもたちを含めほとんどの人たちは、SDGsと聞くと、『世界をよりよく変えよう』とか、『世界の困っている人を助けよう』とか、『世界の課題を解決しよう』という世界規模の活動だとイメージするので、自分たちの生活や人生とはあまり関係のないことだと思いがちです。
でも実はそうではなくて、意識することはなくても、私たちの毎日の暮らしは世界で起きている問題と、必ずどこかでつながっているんです。だからSDGsを身近なものとして考えて、それを少しでもよくしたいと思って行動することが、自分自身はもちろん、世界の人たちが幸せになることにつながるんです。SDGsを自由研究のテーマにすると、それに気付けるきっかけになる可能性があるのでとても有意義なのです」
SDGsは身近な問題であるというのは、「今日からできる! 誰でもできる! SDGs入門[第1回]」 でもご紹介しました。その詳細について、授業で先生の話をただ聞くだけよりも、自分自身で考えたり調べたり作ったりする自由研究の方が、より理解が深まると言えるでしょう。
「特に多感で純粋な小中学生の頃の体験は後の人生に及ぼす影響が大きいので、この時期に自由研究という形で実体験をともなう学習をすることの意義はとても深いと思います」
とはいえ、子どもたちに「自由研究はSDGsをテーマにしてみれば?」といきなり勧めても、どのように取り組めばよいか戸惑うでしょう。どのように研究を進めていけばよいのでしょうか。
「基本的なプロセスとしては、【1】SDGsについて調べる→【2】社会問題を見つける→【3】取り組むテーマを決める→【4】実行する、というふうに進めればいいでしょう」
それぞれのフェーズをもう少し詳しく解説します。
【1】SDGsについて調べる
SDGsが生まれた経緯や17の目標と169のターゲットについて調べます。
【2】社会問題を見つける
食糧不足や貧困問題、人権問題、ごみ問題などさまざまな国や地域が抱える問題や、地球温暖化や海洋汚染などの地球規模の課題を見つけます。
【3】取り組むテーマを決める
その中から興味のある、解決したいと思うテーマを決めます。
【4】実行する
テーマが決まったらインターネットや図書館を使って調べたり、実際にその問題に関わっている人に聞くなどして調査します。また、実験したり作ったりして、その結果を最後に結論としてまとめます。
一番重要な「テーマ決め」は、どのようにすればいいのでしょうか。
「買い物や節電、節水、プラスチックごみなど、日々の暮らしの中で自分が最も身近に感じて、かつ簡単に取りかかれそうなことから選べばいいと思います。そして調査や実験などを経て導き出されたことを最後に結論としてまとめます。このプロセスによって、普段の生活の中の自分たちの行動によって、未来がどう変わっていくのかが想像できると思います」
例えば、買い物ならペットボトルを買うのをやめて水筒にすることでプラスチックごみを減らすことができれば、将来海がきれいになって海洋生物たちが元気に暮らせるようになるかもしれないと想像できます。
また、「RSPO認証」(適正に管理されたパーム農園から採れたパーム油で作られた製品にだけ与えられる認証)がついた商品を買うことで、地球上の熱帯雨林を守ることにつながり、そこに生息する動物が絶滅から救われるかもしれないと思うこともできるかもしれません。
「冒頭にお話した通り、『ちっぽけな自分の日常生活なんて世界とは関係ない』と思っていたとしても、SDGsを自由研究のテーマにすれば、『今こういうふうに行動することが、世界をよりよく変えていける』と気付くきっかけとなるでしょう。SDGsを自分ごととして認識できることこそが、自由研究でテーマにすることの最大の意義なのです」
次回からは自由研究のテーマの選び方や進め方など、具体的な事例を紹介していきます。
LIXIL SDGsアンバサダーの内田篤人さんと一緒に、SDGsというテーマを分かりやすく学び、 楽しい実験や体験を通じて、皆さんと一緒に知識を身につけていただくYouTube番組です。
NPO法人環境市民副代表理事。1997年、フリーランスアナウンサーとして担当していたラジオ番組で、COP3(地球温暖化防止京都会議)について毎日報道していたのをきっかけに環境活動に目覚め、NPO法人環境市民に加入。以後「日本の環境首都コンテスト」を10年間実施、環境教育やグリーンコンシューマー活動などを展開。2017年、副代表理事に就任。現在はメディアと環境NGOの双方を知る者として、より正確な情報と真意をわかりやすく多くの人に伝えられる役割を担いたいとの思いで、持続可能な生産と消費の実現を目指して活動中。そのほかNPO法人持続可能な開発のための教育推進会議 (ESD-J)、一般社団法人市民エネルギー京都理事、NPO法人FEE Japan(国際環境教育基金)理事、NPO法人アントレプレナーシップ開発センター理事、京都市廃棄物減量等推進審議会審議員、龍谷大学政策学部非常勤講師なども務めている。
文◎山下久猛
撮影◎山田紗基子
撮影協力◎京都ペレット町家ヒノコ
写真提供◎photoAC/Shutterstock/PIXTA