フィンランドのほんわか温かい食堂の物語
ご覧になった方も多いと思いますが、まずは「かもめ食堂」の基礎知識からスタートしましょう。
舞台は北欧、フィンランド。自然豊かなヘルシンキに小さな食堂を開いた日本人のサチエが、この物語の主人公です。店を開いたものの、地元の人は訝しげに店内を覗くだけ。食器や机をひたすら磨く日々が続きます。そんな中、はじめて来店したお客さんは、日本のアニメが大好きな青年トンミでした。
その後、旅行で現地を訪れた日本人女性のミドリが食堂を手伝ってくれることになりますが、店に来るのは相変わらずトンミだけ。しかも、お客さん第1号ということで、サチエはトンミからお金を取りません。ミドリが販促活動を勧めても、食堂を気軽に立ち寄れる場所にしたいというサチエは提案に乗りません。
過去に同じ場所でカフェを営んでいたマーティが忘れ物を取りに店へ忍び込んだり、主人が出ていったことでヤケ酒に走ったリーサを介抱したりと、地元の人や旅行者の日本人と何気ない交流をしているうちに、店の馴染みもだんだん増えていきます。
旅行の荷物をなくしてしまった日本人女性のマサコも食堂の手伝いに加わり、はじめはガラガラだった客席も、最後には満席に。何気ない日常が淡々と描かれているにもかかわらず、いつのまにか物語に引き込まれてしまう不思議な魅力を持った作品です。
北欧の自然を感じさせる素朴でシンプルな空間
壁に取り付けられた横長の棚が北欧テイストのポイントの1つと横山さん。
「かもめ食堂」と聞いてまずイメージするのは、やはり物語が展開される店内でしょう。空色の腰壁に、木の風合いを生かした家具、入口に並べられた植物……。北欧の豊かな自然を感じさせる素朴でシンプルな内装がとても素敵です。「腰壁や家具、植物ももちろんですが、もう1つ、北欧テイストを感じさせるのに重要な役割を担っているものがあるんですよ」と横山さん。
「それは棚です。キッチンの壁に取り付けられた横長の棚、これが北欧テイストのポイントの1つになっているんです。映画の中では北欧ブランドの食器や調理器具をきれいにディスプレイすることで、実用品をお洒落なインテリアとして上手に生かしていますね」
曲木家具が生み出す、ゆるやかな時間
「家具や食器、調理器具など、店内に置いてあるものはいずれも強い個性を放つものではありませんが、洗練されたデザインのものばかりです。シンプルであるがゆえのこだわり、とでも言うのでしょうか。主人公であるサチエの飾らない性格や、凛とした雰囲気が見事に表現された空間だと思います」と横山さん。
その中でも横山さんが特に注目するのが、客席に設置されたテーブルと椅子です。「明るい色味の木を選んでいるので、軽やかさと清潔感が出ていますね。そして、よく見るとテーブルや椅子には曲木が使われています。
曲木とは、水蒸気で柔らかくした天然木や一枚板を鉄の金型にはめ込んで形を変える工法で、温かみのある曲面をつくれる特徴があります。そして、ゆるやかな曲線美を持つ曲木家具に囲まれていると、時間までゆるやかに流れていくように感じます。ゆっくりと食事を楽しんだり、コーヒーを飲みながらほっとひと息ついたりするのに、ぴったりのインテリアコーディネートですね」
柔らかな自然光とペンダントライトの合わせ技
「光」にも工夫が溢れていると横山さんは語ります。映画では、店内に自然光が十分に差し込んでいるように見えました。しかし、食堂の両隣には建物があり、しかも奥行きが深いため、店内は暗くなりがちなのです。
「そこで、正面の全面ガラスとキッチン上部の吹抜けからの自然光を取り入れ、鏡で反射させることで、たくさんの光がお店の中に入る工夫がされています。吊り下げられているペンダントライトもお洒落ですね。全体を照らすダウンライトに対して、ペンダントライトはどちらかというとポイントで使う照明器具なので、効果的に使えば素敵な雰囲気を出してくれます。
キッチン側には手元にしっかり光を集めるためにシルバーのペンダントシェードを、客席側には柔らかな光で食事を楽しんでもらうためにフロストガラスのペンダントシェードをと使い分けがされています。見た目も素敵ですが、実用性もきちんと考えられたコーディネートですね」
映画「かもめ食堂」の世界をインテリアコーディネートの観点から見てきましたが、いかがでしたでしょうか。次回は、「かもめ食堂」の世界観を自分のお部屋に取り入れるためのヒントをご紹介します!
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