連載 映画に学ぶインテリアコーディネート[11]マイ・インターン ≪前編≫

アンティークとモダンが融合した「ブルックリンスタイル」

空間
リビング・寝室・居室
関心
インテリアデザインリフォーム

歳の差40の友情物語

 まずは「マイ・インターン」のあらすじを見ていきましょう。
 舞台はニューヨークのブルックリン。ファッション通販サイトを立ち上げ、瞬く間に成功者となった女性社長のジュールズがこの物語の主人公です。お洒落なオフィス内を自転車で颯爽と移動し、分刻みのスケジュールをこなしています。

 しかし、この成功の裏でジュールズの家庭を守る専業主夫のマットは、自分の時間が取れないことに不満を抱えていました。彼がその不満から浮気をしていることをジュールズは知っていましたが、自分のために仕事を辞めて専業主夫となってくれた彼を責められないでいます。

Twocoms / Shutterstock.com

 そんな中、ジュールズの会社でシニアインターンの受け入れが始まります。採用されたのは、印刷会社を定年退職して隠居生活を送るおじいさんのベンでした。彼は妻に先立たれていながらも、アグレッシブに日々を過ごし、自分の経験を役立てられる場所を探していました。

 はじめは最新ビジネスの職場で浮いていたベン。ジュールズも社員も彼の扱いに困っていましたが、彼の勤勉さや誠実さを知ると、周りの見る目が変わり、必要とされる存在になっていきます。やがて、ジュールズの運転手も兼ねることになったベンは、彼女の家族とも仲良くなっていきます。

 ある日、ひょんなことからマットの浮気を知ったベンは、ジュールズの家庭の問題を解決させるため、ジュールズとマットそれぞれに「何を大切にするべきなのか」を問いかけていきます。

 会社も家族も大切にしたいジュールズでしたが、家族との時間を優先することを決め、かねてから提案されていた外部CEOの採用を了承します。それを聞いたマットは会社を訪ねて自分の過ちを謝罪し、「自分のために大切な会社を犠牲にしないでほしい」と自分の気持ちを伝えます。
 マットと分かりあえたジュールズはCEOの件を考え直し、最後にお世話になったベンを訪ねていきました。
 年齢も性別も違う2人の友情をコミカルに描いた映画です。

NYブルックリンスタイルのオフィス

 この映画の舞台となったブルックリンは、工場の倉庫や古い建物が立ち並び、のんびりとした雰囲気を感じさせる街。
 近年ではクリエイターやアーティストが集まってきたことで、流行の発信地としても注目されるようになりました。

「古いものを生かしながら上手にリメイクする」というのが、ブルックリンスタイルの考え方。
 そして、ジュールズの会社のオフィスはブルックリンスタイルそのもの。
 年季の入ったレンガの壁や、むき出しの配管をそのまま生かし、スチールとガラスを使った間仕切りをしたり、家のリビングを思わせるお洒落なソファやテーブルを置いたりと、モダンでお洒落なオフィスに仕上げています。

 近年、日本でもアイアン調の黒フレームとガラスの間仕切りを取り入れたスタイリッシュな雰囲気の部屋が人気を集めています。
 また、スタイリッシュな雰囲気に仕上がるだけでなく、ガラスを使って仕切ることで、境界をつくりながらも空間を広く感じることができるのもメリットの1つです。

白いタイルに木調の棚。
明るく清潔感のあるキッチン

 続いて、ジュールズの家を見ていきましょう。
 注目したいのは1階に広がるリビング・ダイニングとキッチンです。
 部屋は間取り的には分かれてはいるものの、1つの大きな空間としてつながりがあるため、開放感にあふれた使い勝手のよい構造になっています。

「キッチンには以前『かもめ食堂』を取り上げた際にもご紹介した“魅せる収納”が使われていますね。白いタイルの壁に木調の棚があしらわれ、明るく清潔感のある印象のキッチンです。また、ジュールズの娘・ペイジがキッチンのワークトップで朝食をとっているシーンがありますが、ワークトップがゆったりと広く、簡単な食事ならキッチンで済ませられるのも便利ですね。

 ダイニングにはモダンなペンダントライトがあしらわれ、テーブルも赤い花でスタイリングされています。このようなちょっとした工夫で食卓が華やぎ、毎日の食事も家族の語らいがあふれた楽しい時間になると思います」と横山さん。

時間をかけてつくられた、
落ち着きある大人の部屋

 最後にベンの部屋を見ていきましょう。
 彼の部屋には重厚感のある木製のアンティーク家具が並び、白い壁とのコントラストによって存在感がより際立っています。
 時間をかけてつくられた、落ち着きある大人の男性の部屋という印象です。

「寝室でもキャビネットに大理石の天板が付いていたり、テーブルランプのベースが陶器だったりと、重みを感じる素材を使うことで、安定感や高級感が演出されます。天板や陶器を明るい色にすることで、濃い色の木調家具とも上手くバランスをとっています。

 ベッドにある数多くの飾り枕も空間へのこだわりを感じます。一見して邪魔に見える飾り枕も、読書をするときの背もたれになったり、台にしたりと、実は意外と使い勝手がよいものです。ベッドに入るのが楽しみになりそうな、心地のよい部屋になっていますね。

 老舗のテーラーを思わせるクローゼットには、お店のようにシャツが整然と陳列され、頭から足先まで完璧な身だしなみにこだわる彼の性格が表現された空間になっています。また、自動回転式のネクタイハンガーのように、ちょっとした遊び心が加えられているのも素敵ですね」と横山さん。

 映画「マイ・インターン」の世界をインテリアコーディネートの観点から見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
 次回は、「マイ・インターン」の世界観を自分のお部屋に取り入れるためのヒントをご紹介します!

 

Lasissa

自分にぴったりの服を選ぶように、インテリアにも私らしさがほしい。毎日を過ごすたいせつな場所だから、思い通りの空間にしたい。インテリア、自由自在。私らしさを、かたちに。ラシッサ。

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お話を伺った人

横山朱美さん

美空間プロデューサー(二級建築士・インテリアデザイナー)
オフィスデザインから始まり、JV現場事務所や工務店勤務を経てハウスメーカーのインテリアコーディネーターとして活躍。2011年に設計事務所を開設し、三井ホーム㈱と提携して、リフォームの設計からインテリアまで幅広く手掛ける。やさしい煌めきの空間づくりを目指し、1000件を超える物件を提案。近年は総合広告商社(株)AAPと提携しホテルのリノベーションなどインテリアデザイン案件を手掛けながら、専門学校の講師として後進育成にもあたる。『リフォーム&リノベーション インテリアコーディネーター名鑑』に掲載される。

文・イラスト◎菅沼遼平 画像提供◎Shutterstock.com

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