連載 映画に学ぶインテリアコーディネート[9] ラ・ラ・ランド〈前編〉

夢を叶える「前」と「後」の部屋の変化に注目!

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インテリアデザインリフォーム

切なくも美しい夢追い物語

 日本のメディアでも大きく取り上げられたので、ご覧になった方も多いのではないでしょうか。まずは「ラ・ラ・ランド」の基礎知識から始めていきましょう。

 舞台はロサンゼルス。主人公のミアは映画スタジオのカフェで働きながら女優を目指しています。日々オーディションに挑戦するものの、なかなか芽が出ないミアはある日、場末のバーでピアニストのセブ(セバスチャン)の演奏に心を打たれます。

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 彼は古き良きジャズを愛し、いつか自分のジャズバーを持ちたいという夢を持っていましたが、彼もミアと同じように売れない日々を過ごしていました。2人はそれぞれの夢を応援するようになり、次第に惹かれ合っていきます。

 2人の関係は良好でしたが、セブは開店資金に苦労し、ミアはチャンスをつかめずにいました。
 そんな中、セブが資金作りのためにしぶしぶ入ったバンドが成功を収め、自分の店を持つという夢が揺らぎ始めます。

 本来の夢からずれていく現実に、2人の関係もすれ違い始めます。ミアも一人芝居の公演で勝負をかけますが、客入りの悪さと酷評にすっかり自信をなくし、夢を諦めてしまいます。

 しばらくして、セブのもとにミアの公演を見ていたキャスティング担当者からスカウトの知らせが届きます。もう一度オーディションを受けるようセブに説得されたミアは夢への思いを再起させ、再びオーディションへ挑戦します。
 2人はお互いの愛を確かめ合い、再びそれぞれの夢に向かって歩んでいく決意を固めます。

 5年後、ミアは大女優に、セブも自分の店を持つという夢を叶えていました。しかし、ミアと結ばれていたのはセブではなく、別の男性でした。
 ある日、ミアはパートナーとともにセブの店を偶然訪れます。

 店でセブの演奏が流れると、ミアとセブは2人が結ばれるという、叶わなかった未来を思い浮かべます。言葉を交わさない2人は、別れ際にお互いの気持ちを確かめるように見つめ合い、それぞれの日常へと戻っていきます。
 叶った夢と叶わなかった夢――。切なくも美しい2人の恋の物語です。

多彩なカラーを使った
ミッドセンチュリーテイスト

「ラ・ラ・ランド」でまず注目したいのが、その多彩な「色使い」です。
「映画の中では衣装や照明だけでなく、お部屋の中にも多くの色が取り入れられています。

 特に、物語前半でミアが暮らしているシェアハウスでは、緑とピンクのバスルームをはじめ、赤と白のストライプのソファやブルーの壁など、ロサンゼルスで夢を追う若者たちの勢いが表現されているような色使いです。

 そんな多彩な色使いの中で特に印象的なのが、セブの寝室に置かれた椅子や、ジャズバーのソファなどに見られるミッドセンチュリーテイストの家具。
 本来、レトロな木調の家具や陶器の装飾品など、材質やテイストがバラバラなものを1つの空間に置くと違和感が出てしまいがちですが、ミッドセンチュリーテイストの家具と上手く調和させることで絶妙なバランスをとっています。

 ミッドセンチュリーの家具とはその名の通り、主に1950年代に作られた家具のこと。柔らかな曲線や機能性の高さが特徴で、現代の家具や装飾品とも相性がよく、どんなお部屋にも合わせやすいテイストが魅力的です」と横山さん。

夢が表現されたミアの部屋

 さて、ここからは主人公のミアとセブの部屋を見ていきましょう。
 映画の中で夢を追う2人ですが、夢を叶える前と、夢を叶えた後で住んでいる部屋の雰囲気がガラリと変わります。2人のそれぞれの部屋のコーディネートについて詳しく見ていきます。

 まずはミアの部屋です。
「夢を叶える前のミアはシェアハウスに住んでいて、お部屋の壁一面に貼られた女優のイングリッド・バークマンの写真が印象的でした。まっすぐに女優を目指す彼女らしさが表現されています。普段目にする場所に目標の存在やお気に入りのものがあるとテンションが上がりますよね。

 お部屋の壁紙やクッションにはシンプルな花柄が使われ、女性らしさを演出しています。花瓶に生けてあるお花も場面ごとに差し替えられ、季節感を大切にしている細やかな心遣いも素敵ですね。彼女のお部屋もシェアハウスの共用スペースと同じように、青いベッド、赤いポスター、ピンクのクローゼット、パープルの姿見と実に多くの色が使われ、明るいお部屋に仕上げられています。

 一方、女優として成功して家族と暮らすようになった家では、白をベースにしたゴージャスな雰囲気のお部屋に変わります。ここでも鮮やかな色彩の花や果物を指し色とすることで、華やかで明るい印象のお部屋になっています」

無骨で質素なこだわりの空間

 つぎは、セブの部屋を見ていきましょう。カラフルで明るいミアの部屋とは対照的に、売れないピアニスト時代の彼の部屋は明るい色がほとんどありません。装飾品もわずかで、引っ越しの際の段ボールがそのまま放置されているといった状態です。

 そして、リビングの中心にはピアノとレコードプレイヤーがドンと置かれています。
 一見すると殺風景な部屋に見えますが、セブにとっては大好きな音楽に没頭するために余計なものをそぎ落とした空間ということなのでしょう。

「寝室も至ってシンプルですが、日本ではベーシックではない横長の窓が個性的でスタイリッシュな印象を与えています。また、リビングは目立つ色がほとんどありませんが、寝室は小さなスタンドライトやテーブルランプ、シーツ、壁に貼られた写真などにブルーが使われており、それがほどよいアクセントになっています。

 夢を叶えたセブのお部屋は、今まで雑多に置かれていたレコードや写真がすっきりと整理され、こだわりを感じるミッドセンチュリーテイストの椅子が置かれています。目に付くこだわりの家具が1つあるだけでも、お部屋全体のグレードが上がって見えますね。

 キッチンにはひと際目を引くブルーの冷蔵庫が置かれ、さりげなく使われている食器もブルーで色味やトーンをきちんと合わせている点が素敵です」と横山さん。

 映画「ラ・ラ・ランド」の世界をインテリアコーディネートの観点から見てきましたが、いかがでしたでしょうか。
 次回は、「ラ・ラ・ランド」の世界観を自分の部屋に取り入れるためのヒントをご紹介します!

お話を伺った人

横山朱美さん

美空間プロデューサー(二級建築士・インテリアデザイナー)
オフィスデザインから始まり、JV現場事務所や工務店勤務を経てハウスメーカーのインテリアコーディネーターとして活躍。2011年に設計事務所を開設し、三井ホーム㈱と提携して、リフォームの設計からインテリアまで幅広く手掛ける。やさしい煌めきの空間づくりを目指し、1000件を超える物件を提案。近年は総合広告商社(株)AAPと提携しホテルのリノベーションなどインテリアデザイン案件を手掛けながら、専門学校の講師として後進育成にもあたる。『リフォーム&リノベーション インテリアコーディネーター名鑑』に掲載される。

文・イラスト◎菅沼遼平 画像提供◎Shutterstock.com

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