連載 映画に学ぶインテリアコーディネート① アメリ〈前編〉

多彩な「赤」がつくる究極のガーリー・ルーム

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観る人みんなが幸せになる「アメリ」

 2001年に公開され、観る人みんなが幸せになる“アメリ現象”と言われる大ブームを巻き起こした「アメリ」。映画館やDVDで観た人も多いと思いますが、まずはストーリーを簡単にご紹介しましょう。

(c) Alamy

 物語の舞台は、パリの下町・モンマルトル。そして、主人公のアメリは、「クリームブリュレの焦げをスプーンで割ること」や「豆袋にこっそり手を入れること」など些細なことに楽しみを見出すちょっと変わった女の子。

 アメリがそんなふうになったきっかけは、幼い頃から両親の愛を感じられず、人との関わり方を学ぶ機会が失われていたことにありました。アメリはうまくいかない現実から目を背け、自分の空想や妄想の世界へ逃げ、そこから出られないまま孤独な大人になってしまいます。

 しかし、人が喜ぶ姿を見たアメリは、不器用ながらも人の幸せのために行動するようになり、やがて自分自身の幸せにも向き合いはじめます。そして、アメリは懸命に自分の殻を割り、ついに自分自身の幸せを見つけるのです。

ガーリーとアンティークの絶妙なバランス

「アメリ」と聞いてまず思い浮かぶのが、この真っ赤なベッドルームでしょう。妄想が大好きなアメリの、まさにお城ともいえる空間です。

 ベッドルームには、アイアンのベッドやフリルをあしらったランプシェードなど女の子が憧れるアイテムがぎっしり。よくよく見ると、支柱にブタがあしらわれているランプがあったり、ベッドの上にはエリザベスカラーをつけた犬の絵が飾られていたりと、けっこうリアルでシュールなものも多いのですが、それが部屋全体として見たときに、かえって可愛らしさを引き立てています。

「可愛らしいアイテムばかりを揃えると、甘ったるい印象になってしまいがちです。でも、アンティークの味わいを随所に入れることでぐっと空間が引き締まり、大人の女性が見ても魅力的なベッドルームになっています」と横山さん。ガーリーとアンティークの絶妙なバランス――、それが多くの女性を魅了するポイントなのでしょう。

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赤と緑と青――、アメリのカラー・マジック

 では、つぎに色を見てみましょう。映画「アメリ」のイメージカラーと言えば、赤と緑。部屋のいたるところに、この捕色関係の2つの色が使われています。

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「特にベッドルームやリビングは真っ赤です。部屋全体に赤を置いてしまうと、くどかったり、暑苦しい印象になったりしがちです。でも、アメリのベッドルームやリビングは、そんな印象を受けませんよね。

 その理由は、明るすぎず、鮮やかすぎない、落ち着いた赤を使っていること。さらに、補色である緑や青を効果的に配していること。それが、くどさや暑苦しさをうまく回避し、空間によい意味での緊張感を与えているのです」と横山さん。

 また、アイアンのベッドにベロア生地のソファ、陶器の置物など、質感も柄もバラバラなものを「赤」をキーワードにトーンを変えて重ねているのもアメリの部屋の特徴。「どことなく不思議な空間に入り込んだ感じを演出するために、あえて柄や質感が異なるものを集めたのだと思いますが、それぞれが主張しすぎることなく、ひとつの世界観をつくり上げているのはすごいですね」

タイルが織りなす、レトロポップな世界

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 これまでご紹介してきたように、「アメリ」と言えば「真っ赤な部屋」が印象的ですが、じつはそれだけではありません。例えば、キッチンは赤とアイボリー、洗面室は白など、部屋ごとに色のコンセプトや魅力的なポイントがあるのです。

「キッチンは、テーブルや戸棚などの赤を基調としながら、アイボリーの壁がとても明るい雰囲気を演出しています。キッチンの前面には、赤・白の市松模様の少し大きなタイルと、さらにその上に白・黒の市松模様の小さなタイルが貼られていて、それがレトロポップなアクセントになっています。洗面所の床にも黄色と薄緑のタイルが市松模様に敷き詰められていて、さわやかで軽やかな印象を与えています」と横山さん。

 映画「アメリ」の世界を、部屋やインテリアという観点から見てきましたが、いかがでしたでしょうか。次回は、「アメリ」の世界観を自分のお部屋に取り入れるためのヒントをご紹介します!

お話を伺った人

横山朱美さん

美空間プロデューサー(二級建築士・インテリアデザイナー)
オフィスデザインから始まり、JV現場事務所や工務店勤務を経てハウスメーカーのインテリアコーディネーターとして活躍。2011年に設計事務所を開設し、三井ホーム㈱と提携して、リフォームの設計からインテリアまで幅広く手掛ける。やさしい煌めきの空間づくりを目指し、1000件を超える物件を提案。近年は総合広告商社(株)AAPと提携しホテルのリノベーションなどインテリアデザイン案件を手掛けながら、専門学校の講師として後進育成にもあたる。『リフォーム&リノベーション インテリアコーディネーター名鑑』に掲載される。

文・イラスト◎菅沼遼平 画像提供◎Shutterstock.com

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