連載 映画に学ぶインテリアコーディネート③ Sex and the City〈前編〉

「キャリーらしさ」を演出する壁色の選択肢

空間
リビング・寝室・居室
関心
ライフスタイルインテリアデザインリフォーム

 毎回、国内外の魅力的な映画を1つピックアップし、そこに登場する部屋や空間をテーマにインテリアコーディネートの極意をご紹介する本連載。素敵なお部屋づくりのヒントが満載です!
 さて、今回取り上げる映画は、2008年に公開された「Sex and the City」。ファッションやライフスタイルに新たな流行を生み出し、日本でも多くの女性を虜にした作品です。
 今回はこの「Sex and the City」に登場する部屋の魅力について、インテリアデザイナーの横山朱美さんにお話を聞きます。

働く女性のバイブル「SATC」

 ご存知の方も多いと思いますが、まずは「Sex and the City」の基礎知識からはじめましょう。
 映画「Sex and the City」は2008年に公開されましたが、「Sex and the City」はもともと1998年から2004年にかけてアメリカのケーブルテレビで放映されたドラマです。

(c) Everett Collection / Shutterstock.com

 舞台はニューヨーク――。街の恋愛事情を赤裸々に綴るコラム「Sex and the City」を連載するライターのキャリーが、この物語の主人公。恋に仕事に大忙しのキャリアウーマンです。
 そして、本作のお楽しみがキャリーのコラムのネタにもなっている、女友達3人との歯に衣着せぬ内輪話。キャリー、シャーロット、ミランダ、サマンサの4人の恋愛観の違いがコメディたっぷりに展開されていきます。

 映画は、ドラマシリーズの完結から4年後の物語。主人公のキャリーは10年つき合っている投資家のビッグと同居をするためのアパート探しをはじめます。キャリーが気に入った予算オーバーのペントハウスをビッグは即決。そして、ビッグにあっさり結婚を切り出され、結婚式の準備がトントン拍子で進んでいきます。

 しかし、あっさりしたプロポーズに不安を覚えるキャリー、そしてちょっとした勘違いから結婚に不安を感じはじめるビッグ。2人の気持ちは少しずつすれ違うようになります。亀裂は深まり、破局の危機を迎えるキャリーとビッグですが、女友達3人の熱く固い友情に支えられながら、2人はついに本当の愛のかたちを見つけるのです。

キャリーの部屋は、驚きの間取り!

 キャリー、シャーロット、ミランダ、サマンサ――。4人の女性たちはそれぞれ魅力的な部屋に住んでいますが、いちばん気になるのはやはり主人公キャリーの部屋でしょう。「そして、キャリーの部屋の中でも真っ先に注目してほしいのが、その間取りです」と横山さんは言います。

(c) Everett Collection / Shutterstock.com

「上の図面のように、彼女の部屋には扉や仕切りがほとんどなく、エントランスからキッチン、リビング・ダイニング、ベッドルーム、そして洗面室・浴室、さらにクローゼットまで、ぐるりと回遊できる間取りになっているんです。

 映画の中では、キャリーがウォークスルークローゼットをランウェイに見立てて、ファッションショーをするシーンが出てきますが、普段の動線の中で大好きな服や靴が自然と目に入る部屋のつくりは彼女にぴったり。お店のディスプレイのようにお洒落な雰囲気もあってとても素敵ですね」

 一般的な日本の住宅ではなかなかこういう間取りはありませんが、マンションなどのリフォームを考える際には1つの選択肢かもしれません。ウォークスルークローゼットはさておき、ぐるりと回遊できる間取りはバリアフリーとしても有効だと思います」

 

 

キャリーの審美眼が創りあげた、上質な大人の空間

 さて、映画「Sex and the City」では、ビッグとの結婚が白紙に戻ったことから、キャリーは一度引き払ったアパートへ戻り、部屋をリフォーム。そして、リフォーム後の部屋は、年齢を重ねて人間として、女性として磨かれたキャリーのように、洗練された大人の空間へと生まれ変わりました。

「壁紙が鮮やかなブルーに刷新され、クラシックな家具がゆとりをもって配置されています。ブルーが印象的ですが、さわやかな雰囲気というよりは、高級なクラシック家具と相まって上品で優雅な雰囲気に仕上がっていますね。ベッドルームの壁に飾られた絵や、ベッドの足元にあるオットマンなどが、大人の女性ならではの余裕を演出しています。

 それぞれの家具が同じコンセプトで統一されているわけではないのですが、部屋全体で見ると見事に調和がとれている。キャリーのファッションと同じように、彼女の審美眼に裏打ちされた、上級コーディネートですね」と横山さん。

ミラー素材が放つ、ゴージャス感

 その大人の上質な空間の中で、存在感を放っているのがベッドルームに設置された全面ミラー張りのドレッサーです。

「洗面室で済ませてしまいがちなお化粧を楽しくしてくれそうなドレッサーは、全面ミラーの面材で高級感がありながらもシンプル。デザイン性に加え、機能性も追求したドレッサーは、まさにキャリーらしい選択と言えると思います。

 また、光が大きなミラーに反射することで、輝きのあるゴージャスな雰囲気が出ますし、部屋をより広く明るく見せる効果もあります。輝きのあるものは、それだけで気分を上げてくれますよね」

全体の調和を考えたラグ使い

 キャリーの部屋でもう1つ注目したいのが、そのラグ使いです。
「ベッドルームにはボタニカル柄、ウォークスルークローゼットにはエスニック柄と、単調なフローリングの床にラグが華やかさを加えています。

 一方で、リビングには目を引く柄物のソファがあるので、バランスを考えて無地のものが使われています。部屋全体での調和というコンセプトが些細な部分にまで貫かれている。洗練された彼女のイメージがとてもよく表現されていると思います」と横山さん。

 映画「Sex and the City」の世界をインテリアや間取りという観点から見てきましたが、いかがでしたでしょうか。次回は、「Sex and the City」の世界観を自分のお部屋に取り入れるためのヒントをご紹介します!

お話を伺った人

横山朱美さん

美空間プロデューサー(二級建築士・インテリアデザイナー)
オフィスデザインから始まり、JV現場事務所や工務店勤務を経てハウスメーカーのインテリアコーディネーターとして活躍。2011年に設計事務所を開設し、三井ホーム㈱と提携して、リフォームの設計からインテリアまで幅広く手掛ける。やさしい煌めきの空間づくりを目指し、1000件を超える物件を提案。近年は総合広告商社(株)AAPと提携しホテルのリノベーションなどインテリアデザイン案件を手掛けながら、専門学校の講師として後進育成にもあたる。『リフォーム&リノベーション インテリアコーディネーター名鑑』に掲載される。

文・イラスト◎菅沼遼平 画像提供◎Shutterstock.com

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)