密着! 東儀秀樹のLIXILショールーム初体験 [番外編]

今も昔も、LIXILのタイルは世界の傑作建築を支えているんですね

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LIXILショールーム東京の「プロ専用コーナー」

 LIXILショールーム東京には、プロユーザー向けの大きなビルや特別な建築物の外装に使われるタイルの展示コーナーがあります。
 古代から現代まで、タイルは建物の内外に広く使われてきました。
 そして当連載の第9回「タイル建材篇」でもご紹介しましたが、LIXILのタイル建材は、常滑焼(愛知県)の窯元がルーツ。100年以上の歴史があり、日本のあらゆる建築物を彩ってきました。

 中でも歴史的に名高いのが、1923年に竣工し、建築家フランク・ロイド・ライトの傑作として知られる旧帝国ホテルの外壁や内装に使われたタイル
 1967年から翌年にかけて解体されましたが、玄関部分は愛知県犬山市の明治村に移築されて、そこで実物を観ることができます。

 その外壁の数百万個に及ぶタイルを手がけたのは、伊奈製陶(現LIXIL)の創業者、伊奈初之丞(はつのじょう)・長三郎父子でした。

 ライトは完璧主義者で、その要求はとてつもなく高いものでした。
 形、色や光沢はもちろん、ひっかき溝を入れたメインの「スクラッチレンガ」ほか、装飾レンガが2種類、そして通常の形とは異なる「装飾異型レンガ」が2種類)の計5種類を作らせました。

 2人は常滑焼きの技術をタイルに生かし、約3年をかけて、旧帝国ホテルのための外装タイルの開発・製造に取り組み、建築界の巨人の難題に応えたのです。

 そして、その技術やノウハウは、現在のLIXILに脈々と受け継がれています。

ひとつひとつに、世紀を超えた職人技が息づく

 特別注文品のタイル建材エリアは、一般フロアの通路を奥まで進み、特別な扉を開けた先にあります。そこには、いままでご紹介してきたショールームとはまったく違う風景が広がっていました。オフィスのような空間に並んでいたのは、実際の建築物に使われた膨大な数のタイルやレンガのサンプルです。

「えー、スゴイですね。まさか、これほど多彩なサンプルが、この場所に用意されているとは思いませんでした」

 真っ先に手に取ったのは、素焼きならではの明るい煉瓦色のテラコッタ陶板や、中空のルーバー形状に焼いたテラコッタルーバーです。素朴な風合いがなんとも魅力的。
 これらは高温で焼き上げた後、空気を完全に遮断し「むし焼き」にする伝統的な燻化(くんか)工程で、生地表面に深みと風格のある酸化膜を形成させる「いぶし瓦」の技術を用いたそうです。

 その独特な「いぶし瓦」の表情を釉薬(ゆうやく)の使用で表現したのが「いぶし釉(ゆう)」で、その外装材も、東儀さんは興味津々。

 さらに、漆喰のような表面の風合いを持つタイル「漆喰壁」も東儀さんは手に取って感触を確かめました。これは、釉薬の中に焼き物を漬ける「どぶ漬け」という技法を使って、白い生地の上に白い釉を施すことで、あえてタイルの特長であるツヤをなくし、さらに目地を詰めてあります。

「手にとって眺めると、一つひとつ、それぞれに違った表情や味わいがあり、焼き物好きの人なら時間を忘れてしまいますね。大きなビルの外装用のタイルは、もっと標準化されているのかと思っていましたが、手作りの陶器のように、どれも職人が手掛ける特注品なんですね」

 東儀さんは、一般的なタイルのイメージとの違いに感心しきりでした。

焼き物の技術から生まれた、味わい深い美しさ

 東儀さんが手に取ってしばし眺めていたのが「海鼠釉(なまこゆう)」のタイルです。これは、800℃で素焼きした素地の上に、一度釉薬を掛け(下釉)、さらにその上に類似の釉薬(上釉)を掛けてから、1250℃以上という高温で本焼きする手法で生まれた製品。

 素焼きの素地と表面の釉薬の収縮率が違うため、焼けたタイルが冷えるときにできる貫入(かんにゅう)という独特なひび模様が生まれ、さらに冷え方をコントロールして、一つひとつが違う味わいと美しさを生み出します。

 また、旧帝国ホテルの外装タイルの製造工程でも使われた、焼成中の窯の中に空気を吹き込み複雑な形状のさまざまな部分で色や光沢の違いを表現する「土もの窯変」も、東儀さんは大いに萌えたようです。

 こうした特別注文品のタイルは、見本づくりを経て、顧客の承認を受けたあとで生産されます。ものによっては、何度も見本づくりが繰り返されることもあるとか。
 ご紹介した以外にも実にさまざまな製品が展示されてあり、その多様さと高度な技術に驚きを隠せない様子の東儀さんでした。

「まさかここまで、職人の伝統技術と手作業でつくられているとは! ここを見学したおかげで、大規模建築や公共建築に対する『見方』が大きく変わりました。これからは、まず建物を見たら外壁のタイルに目が行ってしまいそうです」

 残念ながら、プロ専用のエリアは一般のお客様は入ることができませんが、LIXILショールーム東京は、アミューズメントパークのような楽しさと、モノマニアの心を揺さぶる魅力的な商品の数々を触れることができる空間です。
 これからリフォームや新築を予定されている方ならなおさらで、完成後の我が家を想像することができます。
 ぜひ一度、ショールームにお越しください。

 

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東儀秀樹さん

雅楽師
1959年、奈良時代から今日まで1300年間雅楽を世襲してきた楽家に生まれる。高校卒業後、宮内庁楽部に入り、篳篥(ひちりき)を主に、琵琶、太鼓類、歌、舞、チェロを担当。宮中儀式や皇居において行われる雅楽演奏会などに出演するほか、海外での公演にも参加、日本の伝統文化の紹介と国際親善に勤める。2019 年 8月、オリジナル作品や雅楽の古典曲を現代風にアレンジした作品、また、昨年世界中で人気が再燃した QUEENのカバー曲など東儀秀樹さんの世界観と魅力を存分に楽しめるアルバム「ヒチリキ・ラプソディ」をリリースするなど、幅広い音楽活動を行う。また、俳優として活動に加え、乗馬、クラシックカーレース参戦、陶芸、ギター、イラスト、写真、マジックなど、幅広い趣味人としても知られている。著書に『すべてを否定しない生き方』『雅楽:僕の好奇心』『東儀家の子育て 才能があふれ出す35の理由』など。皇學館大學特別招聘教授、上野音大、名古屋音大、池坊短大、大正大学、國學院大の客員教授を務める。

文◎渋谷康人 撮影◎村越将浩
LIXILショールーム東京

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