「トリプル・キャリア」で考える、稼げるシニアになるためのアプローチ

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「老後マネープラン」を見直して、
これからの働き方を考える

 人生100年時代では、定年後の時間は30年、40年と続いていきます。その分、老後資金が多く必要になるのが不安、という方も多いのではないでしょうか。

 大杉潤さんは老後のマネープランについて、「『WPP』で考えるといいでしょう」と話します。

 WPPのWは、「Work longer」(長く働くこと)、Pは「Private Pension」(私的年金 ※退職金、企業年金、個人年金、資産運用など)、もう1つのPは「Public Pension」(公的年金)です。

「野球のピッチャーに例えると、先発がW(長く働く)、中継ぎがP(私的年金)、抑えがP(公的年金)です。先発が長いイニングを投げる、すなわち長く働くことで、私的年金や公的年金にかかる負担を小さくすることができ、人生というゲームが作りやすくなります」

 公的年金は今後、支給額が抑えられる可能性もありますし、老後が長くなれば私的年金で賄うのも大変です。
 そこで、中継ぎや抑えに頼りすぎず、先発ピッチャーが頑張る、すなわち、働く期間を長くする、という発想が生まれます。

長く働けば、公的年金の額はこんなに変わる!

 公的年金には「繰り下げ受給」という方法があり、受取開始時期を1カ月繰り下げるごとに年金額が0.7%ずつ増え、増えた年金額が一生涯続きます。

「長く働く、つまり65歳以降も収入を得ることにより、私的年金(資産)や公的年金を使う時期を遅らせることができ、また年金額も増やせます」

●65歳で現役引退して年金生活
●70歳まで働き、年金を70歳まで繰り下げ
●75歳まで働き、厚生年金70歳まで、基礎年金75歳まで繰り下げ

 大杉さんの試算によると、一般的な年収の会社員男性の場合、以上3つのケースでの年金額は、図のとおりです。給与収入(赤)が無くなった後の収入(青、水色)に、違いがみられます。
(以下の試算表は、大杉さんが代表を務める合同会社ノマド&ブランディングのご提供)

 65歳で現役引退して年金生活に入った場合、一般的な会社員の年金額は満額で年間約200万円です。
 対して、70歳まで働き、年金を70歳まで繰り下げた場合、年金額は300万円近くまで増えます。
 さらに75歳まで働き、厚生年金は70歳、基礎年金は75歳まで繰り下げた場合、年金額は満額で300万円を超えます。(こちらは大杉さん自身が計画している年金受給プラン)

 実際に自分がもらえる年金額については、毎年誕生日に届く「ねんきん定期便」で確認ができ、日本年金機構による無料の窓口相談では、働く期間などの条件を変えたシミュレーションもできます。ぜひ活用してみましょう。

人生100年時代に必須な
「トリプル・キャリア」の考え方

「現在は再雇用などで65歳まで働く人が多いですが、本人が希望すれば70歳まで働く機会が確保される『高年齢者雇用安定法』、通称・70歳定年法が波及することも見込まれます。今後は70歳まで働くのが当たり前の時代になるでしょう」と、大杉さんは言います。

 そうした状況を踏まえて大杉さんは、「トリプル・キャリア」という考え方で、戦略的にキャリアと人生を設計することをおすすめしています。

 まず、「ファースト・キャリア」は、会社員として勤務し、安定した収入を確保します。
 定年後、あるいは定年少し前からの「セカンド・キャリア」は、雇用されるのではなく、好きなこと・得意なことに特化して働きます。フリーランスとして働くほか、起業も選択肢の一つになります。
 体力と気力が衰えたら引退、と考えがちですが、大杉さんは「75歳前後などのタイミングで、体力や健康面を考慮しながら、“サード・キャリア”にシフトチェンジすることを推奨します」

 その頃には、繰り下げによって年金額が増えていますから、多くの収入を得る必要はありません。ライフワークとして、無理せず生涯現役を目指すというわけです。

「ボランティアという選択肢もありますが、あえて報酬を得ることで、スキルの維持・向上につながり、より充実した働き方ができる。心身の健康にもつながるでしょう」

「ファースト・キャリア」のうちに出来る準備

 会社員として雇われて働くファースト・キャリアの段階では、時間や場所、仕事内容の自由度は高くありませんが、収入の安定度は高いです。本業のスキルを磨いたり、余暇で好きなことを見つけたりして、セカンド・キャリア以降への足掛かりをつくりましょう。
 会社に副業制度やリスキリング制度があれば、自身のスキルアップに活かすのもいいでしょう。

 大杉さんは、会社員時代からビジネス書を読むのが趣味で、これまでに1万2000冊以上を読破したそう。そこから得られた専門性を活かして、57歳のときに会社員というファースト・キャリアを卒業して起業。現在は企業研修講師、コンサルティング、執筆など、セカンド・キャリアの道を進み、活躍されています。

「セカンド・キャリア」で、好きなことを仕事にする!

 セカンド・キャリアは、会社に依存せずに、自分の好きなことや得意なことに特化した働き方。

「長く働くには、好きなことを仕事にするのがベスト。『自分にはない』という方は、まだ気付いていないだけです。
 本業の仕事でも趣味でもいいので、これまで長く取り組んできたことや、お金をかけていることを思い返してみましょう。自分にとっては当たり前でも、実は貴重なスキルであることも珍しくありません」

 大杉さんは、「リクルート出身で民間人初の中学校校長となった藤原和博氏の“クレジットの三角形理論”も参考になる」と話します。
 100人に1人の希少性をもつ専門性を3つ組み合わせることで、100万人に1人の希少性を獲得できる、という理論です。

 まずはご自身の持つ専門性を把握し、そこに別の専門性を掛け合わせることができないか、考えてみましょう。

理想の「サード・キャリア」に向けて。
低リスクで起業する!

 また、セカンド・キャリア以後の選択肢として「起業」も挙げています。

 一見するとハードルが高く感じますが、大杉さんいわく「経済的なリスクを抱えずに起業することは十分可能です」

 そのためには、定年前後に起業すること。その年代であれば、会社員としての専門性や人脈を獲得できていますし、ある程度の年金額も確保できています。
 人を雇わない、事務所を借りずに自宅の一角で仕事をするなど、初期投資を抑えることも重要です。
 無理せず、まずは月5~10万円の収入を目標に始めてみましょう。

 そんな大杉さんが、この先目標とするサード・キャリアは、「大好きなハワイを拠点に、執筆業で情報発信をすること」。セカンド・キャリアのステージで活躍される今も、伊豆とご自宅とのデュアルライフで、好きな場所で働くライフスタイルを実践されているそう。

「トリプル・キャリアの人生設計図で最優先すべきは、『長く働く』こと。そのためにも、まずは自分の好きなこと、得意なことを見定めましょう。それをライフワークとして育てるために、磨いていくことが重要です」

≪お話を伺った方≫

『1日1テーマ読むだけでやりたくなる 定年ひとり起業』(自由国民社)

大杉潤さん

1958年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)入社。2015年に独立。「定年ひとり起業」をおこなう個人へのコンサルティングや執筆業、講演を中心に活動。ビジネス書年間300冊の多読生活を40年以上にわたって継続、2013年からはほぼ毎日1冊の書評をブログに掲載している。

文◎高橋晴美
画像◎大杉潤、Shutterstock

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