暮らしに生かす甘い和の生活[第6回]和菓子の未来像(亀屋良長編)

伝統を堅持しながら若手が立ち上げた新ブランドも展開

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本来、和菓子は自由で楽しいもの

 カラフルなテキスタイルが飾られた明るい「亀屋良長 本店」の店内に入ると、ショーウィンドーに並ぶ楽しげな和菓子たちが出迎えてくれます。年間を通して数えると何百種類も製造販売しているというから、その種類の多さに驚かされます。
 それもそのはず、こちらでは3つのブランドが展開されています。

 まずは、創業享和3年(1803年)、およそ220年の歴史を誇る「亀屋良長」。

 2つ目は、パリでパティシエとして活躍していた女性が中心となって生み出す、自由な発想の和菓子「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」。

 そして3つ目が、血糖値が気になる方でも手を伸ばしやすい素材を使用した健康志向の和菓子「吉村和菓子店」。
 それぞれ個性と方向性が異なり、幅広いファン層に愛されています。

「和菓子は、江戸時代に発達したもの。それまでは全部『菓子』だったのを、日本人なりにアレンジを加えたものが『和菓子』と呼ばれるようになりました。弊社に伝わる文献やレシピを見ていると、当時の人たちは、とても自由な発想で菓子づくりに取り組み、菓子に向き合ってきたことがわかります」と、亀屋良長の八代目吉村良和さんは話します。

江戸時代から受け継がれる亀屋良長の代表銘菓「烏羽玉(うばたま)」。檜扇の実を彷彿とさせる丸みのある黒糖こし餡に、寒天がかかり、けしの実がトッピングされている(450円)。

こだわりを捨て柔軟にチャレンジし続けること

 吉村良和さんはある時期から、和菓子に対する想いが変わったといいます。それは、2009年のこと。脳腫瘍に倒れ、辛い闘病生活を強いられている時でした。

「なんのために生きているのか考えました。そのころヨガのヒマラヤ大聖者ヨグスタ相川圭子先生と出会い、こだわりを捨てるということに目覚めました。それまでは京菓子屋としてこだわり、伝統を守ることに固執していましたが、もっと柔軟な発想で和菓子をとらえてみようと思うようになったんです」と吉村さんは述懐します。

 2010年、パリで修行したパティシエの藤田怜美さんが入社し、従来の常識にとらわれない斬新なアイデアが生かされた新商品が生まれ、これらが売れるようになり、お店の雰囲気も変わってきたそうです。

 さらに、同年から、京都のテキスタイルブランド「SOU・SOU」とコラボレーション、商品によってバラバラだったパッケージを一つひとつ見直し、数年かけて亀屋良長本体のブランドイメージを整えていくことになりました。

菊もなか、焼き小豆、そして吉村和菓子店

 見直したのは、パッケージだけではありません。
 例えば、従来からある商品「印籠もなか」は、味は高い評価ながら亀と良の字がデザインされ、やや時代遅れ感があってか、なかなか売れにくい商品でした。

「生産をやめることも考えましたが、美味しいといってくれる常連さんの声を裏切れない。なんとかしたかった」と吉村さん。

 そこで、SOU・SOUがデザインした菊柄のテキスタイルをモチーフに、金型を新調し、パッケージデザインも一新。大きくイメージチェンジした「菊もなか」が誕生しました。これがヒットし、再び人気の定番商品になりました。

 またあるとき、百貨店からの依頼で「グリーンエコキャンペーン」という2週間限定販売のお菓子の依頼が舞い込みます。その時誕生したのが「焼き小豆」という商品。

 なかなか商品のアイデアが出ず苦戦しましたが、SOU・SOUの社長と意見交換をするなかで出た「普段捨てているものをお菓子にできないか?」というエコ発想が大きなヒントになりました。

 小豆の皮や羊羹の耳、生地の耳など、いままで廃棄していたものを見直し、新たな商品に使えないか検証しました。その結果、小豆の皮を乾燥させてフレーク状にした焼き菓子「焼き小豆」が誕生し、これは予想以上に売れたとそうです。

 同時に、小豆の煮汁を生かした「小豆餅」という商品も開発します。廃棄していた煮汁は栄養価も高く、考えてみればもったいない話。この商品も、息の長い人気商品の一つとなっています。

 その流れで2016年に生まれたのが、「吉村和菓子店」という新ブランドです。動物性の食品が食べられなくなった吉村良和さん自身が、抵抗なく楽しめる和菓子をつくりたいという数年越しの想いが形になりました。

 ココナッツシュガーや甜菜糖(てんさいとう)などの素材を使い、血糖値の上昇が穏やかな和菓子は、健康志向の人に向けて新しい需要を喚起しました。

「期待しすぎずにまず形にしてみることが、意外と次につながったりします。もちろん失敗も多いですが、その経験は必ず別の形で生きています」と吉村由依子さん。

若い人へ和菓子文化を伝える社内事業

かめや女子和菓子部のメンバーの1人のアイデアで試作、その子と奥様、職人の3人で試行錯誤末に完成した期間限定の和菓子「そんなバナナ」(1188円)。笑って食べて免疫力アップ。写真提供◎亀屋良長

 和菓子を若い人に楽しんでもらいたい。それならば、身近な若手社員に若い感性で和菓子をつくってもらおう。そんな想いから2019年から誕生したのが、「かめや女子和菓子部」です。

 小グループに分かれた女性社員が、二十四節気ごとに一つのテーマを設けて新商品の企画を練ります。プレゼンをして企画が通った商品は、本店で1週間販売されます。

 また、ただつくって店頭に並べるのではなく、文章作成やSNS配信まですべて一貫して行うのが「かめや女子和菓子部」の活動。
 2020年からは「かめや男子和菓子部」もスタートしています。

「日本には美しい四季があるということを、若い人にもっと意識してもらうことが大切。これも、和菓子屋の仕事の一部なのかなと思っています。都会に住んでいると、四季を感じることがなかなか難しいものです。

 けれど、二十四節気の季節を表した和菓子を食べることで、家のなかにいても自然を感じることができるのではないでしょうか。そんな役割も和菓子は担っていると思います」と吉村さんは話します。

 柔軟なアイデアで若手社員と一緒になって、老舗八代目のチャレンジは続きます。

※お菓子はすべて税抜き価格(2020年2月現在)

(第7回に続く)


文・コーディネート◎小倉千明 撮影◎宇野真由子

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●亀屋良長 本店

享和3年創業の京都にある老舗和菓子店。伝統を守りつつも、「Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA」や「吉村和菓子店」などの異なる目的の和菓子ブランド立ち上げ発信するなど、伝統だけに頼らない和菓子の魅力を精力的に追求し続けている。

〒600-8498 京都府京都市下京区 油小路西入柏屋町17-19
☎ 075-221-2005
https://kameya-yoshinaga.com/

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