くずきりの原材料は最高品質の吉野産葛。
店舗の茶房でしか味わえない
絶品「くずきり」
京都で「くずきり」といえば、鍵善良房。テイクアウトや通販はなく、お店の茶房でしかいただくことしかできません。
注文を受けてからつくられるできたてのくずきりは、まさに絶品。深い甘さ、香りが特徴の沖縄産の黒糖蜜と合わせていただきます。
それでは、鍵善良房のくずきり製造現場にお邪魔しましょう。
熱伝導率のいい銅鍋を使用。おいしくできる秘訣は「昔からのつくり方を守ること」。最高級品質の素材と職人の技がさえる。
つるつる食感のくずきりが完成! 「くずきりはもちろん、特注の輪島塗の器も楽しんでください。蜜と氷で冷やしたくずきりが二段重ねで分けてお出しします。これは昔、芝居小屋やお茶屋さんに出前をしていた頃に工夫された器のなごりなんです」と大西さん。
注文が入ってから、くず粉と水を混ぜ合わせます。ひとつの銅鍋でちょうど一人前分。回転させて、くずの厚さを均等にします。白色のくずを熱湯につけると、数秒で色が透明に変わります。透明になったくずを鍋ごと水につけて冷やします。
タイミングを逃してしまうと、表面がザラザラになったり、コシがなくなったりしてしまうので、そこも職人の腕の見せどころです。固まったくずを鍋からこそげ取って、中華包丁で切って完成です。
くずきりは、店の奥にある茶房でしかいただけない逸品。予約はできないので、たとえ著名人のお客さんでも長い列に並ぶ。1100円。
「できあがったくずきりは、弾力があるので、『叩き斬る』必要があります。機械で均一に切るのではなく手作業で切ることで、多少、太い細いといった違いが出て、舌触りの変化も楽しめます。蜜の絡み具合でも濃淡が出るんです」と総務部長の大西さんは話します。
職人歴28年の寺田さん。「鍵善良房」の職人でも、数人しかこの作業を任せられないという。
京都の暑い夏に、
涼やかな饅頭が似合う
職人さんがつくっているのは、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)という、すりおろした山芋に米粉を練り上げた生地で餡を包んで蒸したおまんじゅうのこと。キメが細かいため、蒸されたあとの柔らかさがよりふっくらと繊細に仕上がるのがその特徴です。
シンプルなお菓子ゆえ、材料の質と職人の腕が問われるのが薯蕷饅頭。ベテランの職人が次々と餡を丸めながら包んでいく。
粘り気のある生地を練り、等分に丸めていきます。そして、青い色粉で色づけた柔らかめの生地を元の生地に埋め込み、鮎が泳ぐ川を表現しています。
薯蕷饅頭「鮎」(380円)。透き通った川を泳ぐ鮎の姿のようでなんとも涼やか。
続いて、「包餡」(ほうあん)という餡を包む作業に入ります。生地は、マシュマロのような柔らかさで、伸縮性があります。この生地が硬くなる前に、手早く丸めるのがコツなのだとか。
「生地の状態が一番こだわる部分。自然の食品を扱っているので、山芋そのものの粘り気の強弱、季節や湿度によって配合を調整します。経験と感覚が生きるところです」と、和菓子職人28歴年の寺田真也さんが語ります。
その後、蒸篭蒸し器で10分ほど蒸します。最後に水分を飛ばすために軽く焼いた後、夏の象徴である「鮎」の形をした焼印を押して完成です。
紫陽花の葉についた
雨粒のように光る寒天
夏限定の「紫陽花」。このお菓子も高度な技が必要なため職人歴32年の島田典也さんが特別につくってくださいました。
別の作業台では、「紫陽花」(あじさい)の製作に取りかかっています。これは夏限定発売の人気商品です。
メインで使用される寒天は、夏の和菓子によく使われる材料。その透明感のある見た目だけでなく、ぷるっとした喉ごしもさっぱりとしていて食欲をそそります。
まず、色粉の入った寒天(青とピンク)を細切りにした後、さらに細かく5mmほどの賽の目に切って下準備をしておきます。次に、白餡に餡玉を入れて丸めた団子を表面が乾燥しないように15秒ほどでつくっていきます。その丸めた団子に、賽の目にしたピンクの寒天を貼りつけ、その間を埋めるように青い寒天を貼ります。こうして色の異なる寒天を一定の間隔で貼りつけていきます。これは実に手間のかかる工程です。
寒天の色粉の量は測らない。職人の勘で混ぜてつくっていく。砂糖の量など決まったレシピはあるが、形や色は、先輩の手作業を見て覚えていくのだそう。
寒天を使った和菓子「紫陽花」(380円)。小さく四角に切った寒天の「ピース」をまんじゅうに貼っていく。素人目にも職人の技術の高さがうかがえる。
「光に透けた時に青とピンクが重なった部分で紫色になるように設えます。お客さまが手に取って召し上がるシーンをイメージしながら、組み合わせていきます」と和菓子職人の島田さん。
最後に、温めた寒天をかける「つやてん」と呼ばれる工程で完成。美しいだけではなく、水分が飛びやすい餡を、上から保護する役割もあるのだそうです。
まさに一期一会。
1年で1日しか食べられない和菓子も
和菓子は、季節によって店頭に並ぶ種類が変わるため、その時期にしかいただけないものもたくさんあります。
その季節を象徴するモチーフは、花や風物、生き物など俳句や短歌の季語に使われているものから、地域のお祭りやライフイベントにちなんだものなどさまざまです。
こちらも夏限定の商品。水無月(380円)。
写真提供:鍵善良房
例えば、京都には6月30日に、夏越の祓(なごしのはらえ)という半年の健康と厄除けを祈願する日があります。この日には「水無月」という和菓子を食べます。二等辺三角形の白いういろうの上に、甘い小豆が乗せられたものですが、この形にも魔除けや疫病除けの意味合いがあるそうです。
また、7月中に街中で行われる祇園祭では、京都中の和菓子屋で、山鉾(やまぼこ)の紋を焼印で押したさまざまな和菓子が期間限定で出されます。
季節と密接な関係がある和菓子ならではの文化ですね。
ここ「鍵善良房」でも、土用の入りの日には「あんころもち」、十五夜には「月見団子」を1日限定で提供していて、その日を逃すといただけないそうです。
あなたの街の和菓子屋にもきっとあります。希少な商品を見つけてみてはいかがでしょうか?
※お菓子はすべて税込み価格(2020年1月現在)
(第5回に続く)
文・コーディネート◎小倉千明 撮影◎宇野真由子
会員登録 が必要です