和菓子屋らしくない京都の和菓子屋
2010年に開業した「UCHU wagashi」。現在は寺町本店に移転していますが、西陣織が盛んな西陣エリアで最初の店舗はスタートしました。
こちらの商品の魅力は、その世界観。元々デザイナーとして活躍していた代表の木本勝也さんが、商品デザイン、パッケージ、イラストレーション、店内のポップに至るまで、すべてを手がけています。
「商品をつくるときは、なるべく頭のなかに浮かんでくる原型をそのまま形にするようにして、自然のなかでアイデアを出すようにしています。それは、人の心を突き動かすものは、何かの模倣からは生まれないからです。自分自身が面白いと感じた上に、これならお客さまに喜んでもらえる! と自信を持てるパッションを傾けられるものだけを提供しています」と木本さんは話します。
カラフルな扇形の落雁(らくがん)「drawing」は、UCHU wagashiで最初に完成した商品です。パズルのように組み合わせることができるという斬新なアイデアで、ブランドの中心商品といえる存在となっています。
その他、6匹の異なる動物とミルク味とココア味が楽しめる「animal」や夏限定で販売されている、絵本に出てくる魚の形をした「swimmy mini(スイミー ミニ)」など、その愛らしいデザインと、他にはないフレーバーや色味を楽しめます。
また砂糖は和三盆糖という日本伝統素材を使い、個々の味わいにもこだわりをもっています。
「商品として、質の良いものをつくるというのは大前提。その上で遊び心をもたせています。つくり上げた商品を磨き続けて、100年後もフレッシュな存在で楽しんでもらえるように、一つひとつ丁寧に商品を生み出しています」
これからの100年も
生き残れる和菓子とは
さっぱり酸味の効いた甘夏とすもも、ぶどうのフルーツ羹がさわやかでおいしい。
現在、UCHU wagashiでは、新しいブランドに取り組んでいます。それが、和菓子の次の100年をつくっていきたいという想いから生まれた「NEXT 100 YEARS」です。
「NEXT 100 YEARS」ではクリエイターや和菓子職人たちとチームを組み、落雁だけではなく、さまざまな和菓子づくりに挑戦しています。このような試みは、UCHU wagashiにとって初のこと。
日々の暮らしや抹茶や器などの日本ならではの文化を追求しつつ、UCHU wagashiならではのものを発信することが大きな目的だそうで、「これからの小売へのチャレンジであり、僕にとっては実験の場もあります」と、木本さんは話します。
木本さんが近年、危惧していること。それは、これまでの流通のあり方が、今後成り立たなくなるのではないかということです。
「個人がネットを通して、自分の価値観で好きなものを選んで、好きなものだけを小さく買える時代。昭和の時代のような、贈答品やイメージ中心のブランド商品は、選ばれなくなっていくのではと感じています。
今こそ原点に立ちかえって、商品を通して自分たちの価値観をお客様に発信して、ファンになってもらうことに力を入れるべきなのではないでしょうか。その新しいプレゼンテーションの方法を『NEXT 100 YEARS』ではチャレンジしたいと考えています」と木本さんは話します。
ビジネスで京都に寄与したい
京都の西陣は、木本さんの生まれ育った場所。伝統産業の側で暮らすなかで、西陣織や清水焼などがただならぬ状況に陥っていることを間近で感じているそうです。
「京都に引き継がれてきた伝統産業が衰退していく状態を、ただ何もせずに眺めているのは辛い。今までと同じやり方をただ続けていても尻すぼみになっていくだけだと思います。変革の時代がきているなか、考え方をアップデートして新しい販売の手法やお客さまへの伝え方を考えていかなければいけない。
僕は『UCHU agashi・NEXT100』というブランドで、伝統産業の未来へのつなげ方をデザインしたい。京都で生まれ、京都でビジネスする者として、京都に寄与したいと思うんです」
和菓子という文化と魅力を、どうやって未来のお客さまに伝えていくのか。手探りでのチャレンジがまさに始まったところです。
「いいものをつくれば、自然と残っていく。芸術も建築物も食べ物も、どの時代でも、そうして人々に認められるものは残っています。僕たちがすべきことは、自分たちが本当に美しいと思うものをつくること。それが、100年後の日本で、文化として認められていたら嬉しいですね」
※お菓子はすべて税込価格(2020年2月現在)
文・コーディネート◎小倉千明 撮影◎宇野真由子
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