苦労もあれど楽しい
ヴィンテージマンションのリノベ
マンションは、建てられた年代で外観の傾向があります。70年代、80年代、90年代、2000年代、2010年以降……。それぞれ、デザインの流行があり、使われる建材や技術的な違いもあり、時代ごとに異なる趣を持っています。
「値段が安いからではなく、レトロな雰囲気が気に入って古い物件を選ぶ方もいらっしゃいますね」と言う柳澤さん。
「第2回でお伝えしたように、耐震基準やさまざまな状況を確認した上でなら、古いマンションを選ぶのも大いにありだと思います。制約も少なくありませんが、我々リフォーム業者にとっては腕の見せ所、という側面もありますね(笑)」
天井や床は構造物の上に直接
築浅物件では、床や天井と駆体の間にはある程度隙間があるとお伝えしました。しかし、ヴィンテージマンションはそういうわけにもいかないようです。
「駆体の上に直接床材や天井を張っている物件も少なくありません。そうなると、例えば水回りの移設はかなり難しくなります。
(第3回で取り上げた)有賀薫さんのリノベーションも、古いマンションならではのさまざまな制約がありましたが、その分楽しかったですし、やりがいもありました」
有賀さん宅のリノベーションでは、バスルームやトイレなどは動かしていないものの、元はダイニングルームだったところに新たにシンクを増設しました。
有賀さん宅のキッチン。手前が食洗器、奥がシンク。
「シンクと食洗機を増設したので、当然、従来の水回りに加え、給排水管を引かなければなりません。しかし、床のかさ上げをすると天井高が低くなってしまいます。そこで、キッチンから壁に設置した棚の中に配管を潜らせて延長し、さらにシンクと食洗機までの経路はあえて配管を見せる形にしたのです」
こうした工夫ができる設計家さんならば、さまざまな問題も智恵を絞って解決してくれそうです。
古いマンションの面白さは
「スケルトン」にある
ますいいリビングカンパニーが仕上げた部屋。スケルトンにして天井を高く取り、構造が見える状態で仕上げた。
柳澤さんは、築浅とヴィンテージマンションの大きな違いは、部材などの状態にあると言います。
「フローリングにしても、壁紙にしても、時間の経過とともに劣化していきます。もう限界というものもあれば、むしろいい味になってきたものもあるでしょう。
使えるものを残すことも悪くありませんが、お勧めなのは、駆体の中の部材を全部取り払って、スケルトン状態にすることです」
「スケルトン状態」というのは、ある物件を、構造物だけにしてあとはすべて剥がしてしまうことを言います。床、天井、壁紙、部屋の仕切りの壁材、トイレ、バスルーム、キッチンの設備などをすべて取り払い、がらんどうにしてしまうのです。
「ヴィンテージマンションなら、こういうことが可能な部屋が少なくありません。何もなくして、間取り、部屋のテイストなどを考えていくのは、建築家としてもチャレンジングで面白いんですよ(笑)」
スケルトンなら思いのままの
リノベーションができる!
古い物件は値段もぐっと手頃ですから、予算の組み方次第では、スケルトンにしてゼロから部屋を作っていく方法も選びやすいと言えます。
「もちろん、まずは物件を見てからですけれどね。コンクリート打ちっぱなしの空間を、どんな形にしていくか考えていくのはワクワクしませんか?」
たしかに、日本でいうマンションにあたる、イギリスの「フラット」、アメリカの「コンドミニアム」や「アパートメント」、パリなら「アパルトマン」と呼ばれる部屋は、入居の時にスケルトンにして自分らしくリノベーションすることが少なくありません。
「例えば、コンクリートの打ちっぱなしを活かして、ニューヨークのアパートメントのようにスタジオスタイルにする、なんていうリノベーションも可能です。日本のマンションはどうしても天井が低いのですが、配管や電気などの配線もむき出しにしてスケルトン感を活かしたり、いろいろ考えられると思います」
日本の一般的なマンション、という形にとらわれず、さまざまなプランを自由に考えられるのは、ビンテージマンションならではかもしれません。
自分の生活スタイルや家族構成に合ったリノベーションは、自由な発想で取り組めば、自分の人生をもっと楽しめる部屋を生み出すことになるかもしれません。
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