楽器プレイルームを作る [第1回・ギター編]

3畳あれば楽しめる。自宅で即演奏&録音!

空間
リビング・寝室・居室
関心
ライフスタイルリフォーム

建て替えを機に実現した、趣味空間

 ご登場いただくのは、高橋均さん。住宅密集地の一軒家を建て替える時に、自分のためにプレイルームを作り、録音した曲のマスタリングなどを行える空間にしたそうです。

「この家を建て直したのは、実は義母の介護がきっかけでした。築30年以上経っている家だったので、介護用ベッドを入れたり、外への出入りが大変だったりということもあり、将来、自分たちもサポートが必要になったときに苦労をしないためにと考えて設計をしてもらいました。その際に、念願の楽器ルームを作ろうと、家族を説得したんです」

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リビングダイニングにつながる部屋はガラスの引き戸で開放感を。右手にはキッチンがある。

 キッチンの入り口の並びに設けられた3畳ほどのスペースが、高橋さんの楽器スペースです。小さな空間ですが、間仕切りをガラス戸にすることで、狭さを感じないよう工夫しました。隣家から中が見えないよう、窓は高い位置に設けています。

「若い頃からギターを楽しんでいましたが、家ではなかなか思うようにプレイすることができなかったので、没頭できる環境を作れたことには大満足です。できてから、妻はパントリーにすれば良かったと言っていますが(笑)」

あえて特別な防音工事はしなかった

 間口180cm、奥行きは300cm弱。およそ3畳の部屋は、奥の壁だけが外に面しています。高橋さんは、特別な防音材を使わなかったそうです。

「この点は建築家と相談して決めたのですが、近所の家の中には、何軒かピアノを所有されてる家があり、昼間には時々その音が聞こえてきます。現代の住宅ならば、そこそこ防音性能もあるので、そうした音楽がかすかに聞こえてくることを許容できる環境なら、真夜中に弾くことがなければ、レベルの高い防音は必要ないだろう、という判断でした。

壁にはギターを欠けられるフックを装備。すぐに弾きたいギターを常時2〜3下げてある。

 ただし、壁紙は多少の吸音性能があるものを選びました。部屋の中に音が反響しすぎず、気持ちいい音が出るんですよ。あと、落ち着いてギターを弾いたり、編集作業ができたりするように、壁の色味や風合いもこだわったんです」

 高橋さんが所有しているギターアンプは「MESA Boogie」。ヘヴィメタルのギタリストも使う、大音量が出る真空管アンプです。

「ハードロック系の音楽を演奏するわけではなく、80年代のフュージョンをベースにした音楽をやっているので、そんなに大音量で弾くことはないんです。ちょっと専門的な話になりますが、ゲインを上げて綺麗に歪ませてからマスターボリュームで音を下げれば、ご近所の迷惑にはなりません」

録音に影響しない空調の工夫

 プロのミュージシャンは、アンプから出るギターの音をマイクで拾い、録音します。そのとき気になるのが、エアコンなどのノイズだそうです。電気的なものもありますが、物理的な動作音もマイクが拾ってしまうのです。

 高橋さんの家は、建築家の勧めで断熱や日射の調整を計算したパッシブデザインの空調に、冷暖房機を使うアクティブデザインの空調を組み合わせたシステムを入れました。各部屋にはエアコンユニットがありません。壁に開いている通気口から、夏は冷気、冬は暖気が出てくるので、作動音の心配はいりません。

部屋ごとにエアコンを設置するのではなく、家全体に冷気・暖気を送風するシステムを採用。

「最近はギターアンプの音をマイクで拾うのではなく、ギターと録音機をケーブルでつないで録音することも多いのですが、この空調システムならマイク入力も可能です。知り合いのミュージシャンは自宅に防音のスタジオを持っているのですが、マイクからギターの音を拾うとき、ノイズが出ないように空調を切るそうです。真夏に下着一枚で汗を流しながら録音するのはしんどいと思います(笑)」

ライブにもラクラク出発、不満は……?

外に面した壁にはつくり付けの机があり、音楽を編集するためのPCやMIDIキーボードが置かれる。

段差の少ないバリアフリー設計のおかげで、重量のあるギターアンプやエフェクターボードは、転がすだけで玄関まで運ぶことができる。

 室内の細かいところにも、長年ギターや音楽編集を楽しんできた方ならではの工夫があります。

「部屋の一番奥はPCなどを置く作業用の机にしているのですが、その下にはエフェクター(音色の調整機)をまとめたボードやギターアンプを収納しています。そうしたものはすべてキャスター付きの台を作り、必要な時に取り出せるようにしています。ライブがあるときはギターアンプを外に持ち出すこともありますが、バリアフリー設計なので、そのまま玄関まで転がすだけで持っていけます」

 他にも、机の左右に配線のケーブルをまとめて机の下に下ろせるように穴を開けたり、コンセントを部屋のあちこちに設けたり、やりたいことがはっきりしているからこその細かい工夫がたくさんあります。

 小さいながらも、自分専用の楽器プレイルームを持つという長年の夢を叶えた高橋さん。
 こうすればよかった、と後悔する部分はあるのでしょうか。

「おおむね満足していますが、ひとつだけ、ギターの収納をもっと考えれば良かったですね。最近は地震も多いので、何本も壁に掛けていると不安です。それに保管用のハードケースのほか、ライブなどで持って出かけるためのソフトケースも必要です。持っているギターの形状がさまざまなため、それぞれ専用のケースも必要で、その収まりもよくないんです。

部屋の一角は楽器のメンテナンス用品やケースなどがいっぱい。

 ある程度は机の下に置いているのですが、入りきらないぶんは別の部屋に移しています。それに、ギターは余裕があれば何本でも欲しくなる困った楽器なので、これからプレイルームを作ろうと考えている方は、ぜひ将来コレクションが増えたときのことを考えて空間を大きめに取りましょう。それでも、スペース以上に楽器は欲しくなってしまうものですけれどね(笑)」

 時間があるとこの部屋でギターを弾き、音楽の編集をしている高橋さん。リビングに隣接し、中も見えるので、家族との距離ができてしまうこともありません。まさに理想の趣味スペースと言えるのではないでしょうか。

 次回は、プロピアニストの自宅ピアノルームをご紹介します。

≪お話を伺った方≫

高橋均さん

長年バンド活動を行い、ギターの所有数は7本。トップ写真のギターは、憧れのギタリストの愛器を手がけた工房に、同じ仕様で特注したもの。

取材・写真・文◎坂井淳一

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