楽器プレイルームを作る[第4回・計測編]

知らないとだまされる!? 防音のポイント

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「計測」は嘘をつかない

 防音のプレイルームを作る際、どこに依頼するかは、なかなか判断が難しいところだと思います。

環境スペースにある防音仕様のラウンジ。壁や天井も音響効果を考えた部材が使用されています。

「まず確認したいのが建築音響測定をきちんとできる会社であるか、そして計量証明事業者の認可を受けているかどうかが重要です」という嶺島さん。

 家に限らず、商業施設やライブハウスなどでも、「測定」をベースに考えるとスムーズにプランが組めるそうです。建物の「遮音性能測定」、集合住宅での「床衝撃音測定」、道路交通などの騒音を測定した上で、どんな楽器をプレイしたいのか、どんな音楽を演奏したいのかなどを加味することで、必要な防音対策のグレードが見えてくるのです。

D値を測定しよう!

「ロックのエレキギターの音は120dB。近くで雷が鳴ったのと同じで、飛行機の離着陸より大音量です。ピアノの音は90dBで新幹線の騒音とほぼ同じ。さらに楽器によって、音の周波数は異なります」

 そこで重要なのが、JIS規格で定められている「D値」という数字。これは室内外や壁を隔てた隣室との音圧の差です。値が大きいほど、外部に漏れる音が小さくなります。

 既存の建物のリフォームの場合、まず音源の周波数と音圧レベルを特定します。そして、建物(部屋)の遮音性能が現状でどのくらいあるかを測定し、それをどこまで下げるか、レベルに応じた防音設計を行います。

 マンションならば、防音室を作る前の隣戸の部屋との間のD値は、遮音性の適用等級が最上級の特級でもD-55、一番低いグレードの3級だとD-40とされています。

「D-40の部屋だと、ドラムならかなりうるさく、そのままではプレイは不可能です。ピアノでも曲がはっきりと聞こえるので、昼間でもクレームが入る可能性がありますね。なので、実際にまず建築音響測定をしてプランを立てるというわけです」

 もちろん、プレイする楽器によって音量は違います。家の外に音が漏れないように外壁の遮音性能は高めにして、家の中の壁は若干グレードを落としてもいいでしょう。

 下の図にあるように、例えば夜中にピアノを弾かないのであれば外壁でD-60〜65、家の中の壁はD-45〜50を目安に。24時間弾きたいなら、外壁はD-70以上、家の中でもD-55以上の遮音性能が好ましいそうです。

音は床からも伝わる。床衝撃音レベル「L値」

 D値は壁を通り抜ける音に対しての数値ですが、音は壁だけでなく、床や天井からも伝わります。
 集合住宅などで、階上から階下への床衝撃音の伝わりやすさを指す指標がL値です。この値は、数字が小さいほど遮音性能が高いと言えます。

「集合住宅の場合はもちろんですが、一戸建てでも、ピアノやドラムを演奏すると、かなりの音が床を伝わって外に出ます。ですから、床の防振・防音はとても重要なのです。戸建ての1階がプレイルームなら、床下にコンクリートを打設して振動や衝撃音の対策をします。しかし集合住宅では、そのような工事はとても困難です。そこで床材を剥がし、防音材を敷いてから再度フローリング材などを施します。この工事でもかなり低減できますよ」

防音室の基本は二重構造

 理想的なD値、L値にするための本格的な防音ルームは、部屋の躯体の内側に、もうひとつ部屋を設けるような形でつくられます。

 二重構造の部屋にして、すき間にある空気や、壁の吸音材のおかげで音が外に伝わりにくくなるという仕組みです。このため、元の部屋より狭くなりますし、天井高も若干低くなります。ドラムなどの大きな音や振動が生じる楽器の場合、中の壁や床の素材も遮音性や吸音性の高い素材を使ったり、厚みを増やしたりしなければなりません。

 前回の記事で、山口真一さんの12.5畳のスペースに作ったプレイルームが、8畳くらいになったのは、それだけ防音ルームに厚みや重量を持たせ、外に振動や音が伝わりにくい構造にした結果なのです。

生かすも殺すも反響しだい?
音の響きを考える

フラッターエコーを抑え、最適な音響効果をもたらす壁材と天井の部材。

「プレイルームは、外に音を漏らさないだけでは不完全です。楽器の音がいかに良く聞こえるかというのも、とても大切なファクターです」という嶺島さん。

 例えばコンクリートむき出しの空間や、家具が何もない部屋は、ぽん、と手を叩くとエコーがかかったように響きます。服が掛けてあったり、家具が置いてあったりすると、その響きは小さくなります。
 この反響音をうまくコントロールすることで、楽器や声の聞こえ方が変わってくるのです。

 壁面が平行に向かい合っている場合、室内で音が反射して「フラッターエコー」と呼ばれる音響障害を起こしやすく、楽器の音が綺麗に聞こえづらくなります。そこで、壁面に吸音材を使用して反響を抑えたり、角度や凹凸を付けて音を分散させたりします。

 LIXILにもOTTO Wall DECOという、フラッターエコーなどを押さえる効果があるアクセサリーがあります。工事不要で、両面テープで貼るだけのDIYが可能な吸音材です。

「プロが考えた」音の反響を抑える壁のアクセサリー

OTTO Wall DECO

parts.lixil.co.jp/lixilps/shop/campaign/otto-wall-deco/

「吸音性能の高い壁材を使って、いわゆる『デッドな状態』にすることもできますが、そうすると、今度は残響がなくなってしまい、いい音にはなりません。プレイルームなどを設計するときは、残響音も計算します」

 昔の海外のロックバンドが、録音のために古いヨーロッパの城を借りた、などというエピソードを耳にすることがありますが、それも録音するときに自然な残響音を活かしたいからなのです。

環境スペース社にある防音体験ルームの天井にある3枚の反響板。

「わが社には、グランドピアノが置かれたラウンジの他にも3畳ほどの小さい防音体験ルームがあります。そこにはアップライトピアノを入れ、オーディオを置いてあります。お客様に防音性能と音響性能を体験してもらうための部屋なのですが、音を美しく響かせるため、天井から壁にかけて何枚か、羽根のように反射板を設置しています」

 こうしたことは、音響に精通していない建設会社や工務店にはノウハウがない部分です。

納得できるまで検討することが大切

「コロナ禍になってから、自宅に楽器プレイルームをつくりたいというご相談は増えましたね。ほかにも、映画や音楽を楽しむホームシアターやAVルームや、なかには『防音仕様にしたリビングでバンド活動やピアノ演奏を楽しみたい』という方も増えてきました」と言う嶺島さん。

 防音工事ができるとうたう会社はたくさんありますが、今回みてきたように、楽器のプレイを楽しむための部屋は、「防音」と「いい音を響かせるための反響設計」の両方にノウハウがないと、思い描いているようには実現できません。
 通常のリフォーム以上に費用もかかります。

 納得がいくまで打ち合わせを重ね、理想のプレイルームを手に入れて、楽しい音楽ライフを送りましょう!

≪お話を伺った方≫

嶺島伸治さん

soundzone/環境スペース株式会社代表取締役社長。建築音響・防音事業を中信委、ライブハウスから病院、個人邸宅の建築・リフォームを数多く手がける。
https://www.soundzone.jp/

取材・文◎坂井淳一
写真提供◎soundzone/環境スペース株式会社

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