「介護」の視点から考えるリフォーム[第1回]

将来の介護も安心な「家づくり」をいまのうちに

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老後介護リフォーム

「必要になってから」では遅い
バリアフリーリフォーム

「未来の自分」を考えたときに、「老人ホームで悠々自適に」と考える方は少なくないでしょう。しかし、厚生労働省の在宅医療・介護推進プロジェクトチームは「できる限り、住み慣れた地域で必要な医療・介護サービスを受けつつ、安心して自分らしい生活を実現できる社会を目指す」という指針を示しています。
 介護の必要度合いにもよりますが、日本では自宅で在宅介護を受ける方が大半であるという現実があります。

 また、親の介護や介助という差し迫った事情で、バリアフリーリフォームを考える方が増えています。

「実際、介護や介助が必要になってからのリフォームは大変です」と言うのは、介護の現場から快適な老後の暮らしについて情報を発信している太田浩史さん。
「物件に住みながらリフォームをすること自体ハードルが高いですし、金銭的な問題もあります」

国や自治体からの補助金は極めて少ない

 介護のためのバリアフリーリフォームは、例えば階段や廊下の手すりを付けるだけでも数万円〜数十万円。国や自治体から助成金や補助金を出してくれる制度もありますが、決して十分な額とは言えません。

■主な補助金・助成金制度

高齢者住宅改修費用助成制度介護保険による補助金制度。リフォーム費用のうち最大20万円まで。
長期優良住宅化リフォーム推進事業国土交通省からの補助金。最大150万円。実態は、省エネや耐震化のための補助金制度で、その費用を利用して「一緒にバリアフリーも行う」というように使う。細かい条件が多く、煩雑な手続きが必要になる。
バリアフリー改修リフォームの固定資産税の軽減措置新築から十年が経過した物件で、65歳以上の方、要支援・要介護の認定を受けている方、または障害がある方が住む住宅に対する1年限りの減免措置。これにも細かい条件がいろいろと付く。

 ほかにも自治体によってさまざまな補助金や減免措置がありますが、それでバリアフリー化の原資を十分に確保するほどにはなりません。

「介護保険はどうか、と思われるかもしれませんが、そもそも介護保険は、日常生活のちょっとした不具合や困難を解消するための設備に対して出るものです。トイレや風呂、廊下、玄関の手すりなど、限られた範囲の後付けの設備や、介護ベッドなどに対して適用される性質のもので、リフォームに対して大きく補助が出るわけではないのです」

 将来、親の介護が必要になることや、自分たちの生活がどうなるかを考えるなら、体力的にも資金的にもまだ余裕がある50代、60代前半くらいまでにリフォームを行うほうが、精神的・経済的な疲弊を減らせます。早いタイミングでの介護リフォームは、まさに転ばぬ先の杖なのです。

介護リフォームは誰に相談すればいい?

 では、実際にリフォームをするときに、どうプランニングしていけばいいのでしょうか。

 太田さんは「さまざまなケースが考えられますが、まずは何が必要かをリストアップすることが大切」と言います。

「親の介護生活を見据えて、という方は、もし現在、要支援・要介護の認定を受けていて、ケアマネージャーやケースワーカーがついている方ならば、その方に何が必要かを尋ねてみることがいいでしょう。まだ支援が必要ではないけれど将来を考えて、という方ならば、住んでいる場所の『地域包括支援センター』に連絡をしてみるといいでしょう」

 地域包括支援センターは介護、医療、保険、福祉などの側面から高齢者を支えるための総合的な相談窓口です。全国に5000以上の施設があり、地域に根ざし、実情に即したケアのあり方を熟知しています。

「住宅リフォームを請け負っている工務店や住宅メーカーはたくさんありますが、そのすべてがバリアフリーや介護の本質を理解しているわけではありません。包括支援センターなどに相談して必要な項目をリストアップしてから工務店などに相談するのがいいでしょう。バリアフリー住宅へのリフォームには、地域ごとに『リフォーム事業者登録制度』に基づいて登録されている業者があります。また、『福祉住環境コーディネーター検定試験』というバリアフリーに関する民間資格があり、私も持っています。この1級の有資格者がいるのかを確認するのもいいでしょう」

介護リフォームは「ライフプランニング」

 実際に介護を視野に入れたリフォームをする場合、どんなことを考えていくべきなのでしょうか。

「まず、誰のためのどんなリフォームかを具体的にすることです。自分のためなのか、親のためなのか、伴侶のためなのか。自分や家族の体調や既往症などを頭の中に入れながら、誰が誰のために介護や介助をするのかを思い描いて、介護や介助を受ける側もする側も快適に過ごせるような環境を整えることが必要です」

 自分や伴侶の介護となると、現実のものではないので予想もしにくくなります。将来、子ども夫婦と一緒に暮らせるのか、夫婦二人の暮らしのままか、さらには独居になるのか、といった可能性を考え、生活のスタイルを思い浮かべながらプランニングをすることになります。

「肝心なのは、家族になるべく負担を掛けないことです。我々のような介護のプロであれば、介護や介助の行為自体には慣れています。けれど、ご家族は介護の方法を学んだプロではありませんし、夫婦の場合、老老介護になると体力的に不安があります」

 さらに家族間での介護は、感情的にもトラブルが起きやすい傾向があるそうです。相手がプロなら信頼して任せられ、無理を言わない場面でも、家族となるとつい言葉が過ぎてしまったり感情的になったりすることも多いのです。一緒に生活すること自体が苦痛に感じることもあります。

「プロに任せられることはプロに任せる。なるべく家族の中で抱えすぎないことが、全員の幸せにつながります」

 次回は、実際に玄関やリビング、寝室などの介護リフォームのポイントを伺っていきます。

〈お話を伺った方〉

太田浩史さん

板橋区上板南口商店街振興組合理事、 一般社団法人日本福祉環境整備機構代表理事、上板橋のコミュニティカフェ併設デイサービス「キーステーション」勤務。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
イラスト◎河田ゆうこ
画像提供◎PIXTA/Shutterstock

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