楽器プレイルームを作る[第3回・ドラム編]

困難の果てに手に入れた“ヘヴィメタ部屋”

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不可能と言われても、執念で叶えた希望

 練習場所に悩む楽器の一つがドラムです。エレキギターやベースなどは音量を調節することができます。しかし、スネアやシンバルの音を小さくすることはできません。電子ドラムならほとんど叩く音はしませんが、リアルなドラムセットに比べると、音もプレイの感触も物足りないでしょう。

 地方で広い敷地があるなら別ですが、隣接する住宅がある地域では、しっかりとした防音をされてない部屋でプレイするのは不可能と言ってもいいでしょう。

「父も母も亡くなって独り暮らしになったので、自分のために家を建て替えようと思ったのがきっかけでした」と話すのは、学生の頃からバンドを組んでドラムをプレイし、ロックの中でも特に大音量で演奏をするヘヴィメタルバンドで今も活動中のClive山口さん。お名前は、大好きなアイアン・メイデンのドラマー、クライヴ・バーから来ているそうです。

ドラム歴は30年以上。ドラムのロールスロイスといわれる老舗メーカー「SONOR」社製のドラムセットが相棒。

 一人で会社を経営し、泊まりがけの出張も多い山口さん。ご両親を介護し、体を壊したことで、仕事をセーブしながら、ふと人生を見つめ直したことが建て替えのきっかけでした。

「住んで楽しい家にしたいと、何社もの住宅メーカーや工務店と会って、私が考える間取りのイメージを元に打ち合わせを重ねました。その過程で、思うような設計をしてくれる会社が見つかり、音楽鑑賞のレベルの防音性能を満たすプランをいただきましたが、念願だった『ドラムを思いっきり叩けるようなつくり』は難しいということでした。その会社と協力しながら、音楽用の防音工事などを行っている会社を何社も当たったのです」

 しかし、なかなか思いどおりの環境を提案してくれる会社が見つかりません。

「とてつもない金額の見積もりを出されたり、『どれだけお金をかけてもドラムの音は漏れます』と言われたり。そんなとき、soundzone(環境スペース)という会社を偶然見つけました。ライブハウスやプロ用のスタジオ、ミュージシャンの個人スタジオまで手がけていると知り、恵比寿にあるオフィスに出向いて、実際に防音性能を体験して決めました」

 しかし、そこからが大変だったそうです。

壁が厚すぎて12.5畳が8畳に!?

道路に面していない3方が隣家と近接し、一番近い部分ではわずかに1.5mあまりしかありません。

「実家は隣家との距離が近く、子どもの頃はちょっと大きい音で音楽を聴こうものなら父親に怒鳴られたような周辺環境です。最初は2階にスタジオを作ろうと思ったのですが、私のようにジューダス・プリーストなどのヘヴィメタルバンドの曲、特にドラムを思いっきりプレイするには、2階では無理だと言われました。そこで、元々はダイニングキッチンにと思っていた1階の12畳ほどの空間をプレイルームにして、居間と台所は2階に移動したんです」

 プレイルームの下には厚さ150mmのコンクリート基礎を打つことになりました。二重構造の防音ルームの重量を支えるため、2階に作る予定だったテラスも構造的に強度を保てなくなりキャンセル。そして周囲に音がもれないための分厚い防音壁を設けたために、12.5畳あったスペースが、最終的になんと8畳ほどになってしまったそうです。

マーシャルのギターアンプにレイニーのベースアンプ。どちらも大音量が出るので、一般的な家庭ではなかなか思う存分鳴らすことができません。

「防音壁だけで4.5畳と聞いてびっくりです(笑)。スネアドラムやシンバルの音はエレキギターとそう変わらないそうなのですが、バスドラムに関しては、外に音を出さないようにするのがとても大変なのだそうです。でも、ギター、ベース、キーボード、ヴォーカルといったバンドメンバー全員が集まって練習をするくらいのスペースは確保できました」

高級ホテルの“上の上”をいく遮音性能

鉛を挟んだ分厚く重いドアが二枚設けられた出入口。

 山口さんのプレイルームは、部屋の中にもうひとつ防音室を作るような構造。プロユースのレコーディングスタジオやライブハウスで見られる方式です。ドアも二重で、2つの扉の間に人が立てるくらいのスペースがあります。

「大音量でプレイしているときに人が入ってきても、一枚のドアを開け、間の空間に入って締めてからもう一枚の扉を開けるようにすれば、真夜中でも外に音が漏れることはまずありません。このスペースにある空気層も、防音に役立っています」

 遮音性能には規格があります。高級ホテルや集合住宅の、隣室にほとんど音が伝わらない「特級」レベルがD-55。山口さんは、外に面した壁に、さらに上のD-60レベルの遮音性能をオーダーしましたが、隣家に面した外壁面はD-75クラスを提案されたそうです。

 音が外に抜ける道になりやすいエアコンの配管も、真後ろから外に出さず、横に出してその配管自体にも防音材を巻く処理が行われるなど、細かいところまで徹底して対策が行われています。

エアコンの配管など細かいところまで防音対策が施されている。

「完成後、友人を呼んでバンド編成で真夜中に大音量プレイをしてもらいましたが、お隣との間に立ってもまったく演奏が聞こえませんでした。それでいて、完全に吸音されてデッドになるわけではなく、適度な反響があります。友人たちからは、バスドラムの音の抜けが良いと言われます」

 愛器「SONOR」のドラムの音の良さが実感できる環境が実現できたようです。

演奏・カラオケ・映画……、使い方は無限!

大型TVなどが置かれた室内。小さな冷蔵庫の中にはビールとアイスが。

「私は酒を呑まないのでもっぱらアイスですが、仲間たちのため、常に冷えたビールも用意してあります(笑)」

 プレイルームには、ドラムセットはもちろん、やってきたバンドメンバーと一緒にプレイできるよう、ギターやベース、アンプなども用意されています。

壁にあるスイッチを押せば、入口横にあるライトが点灯。

調光照明を暗くしてミラーボールを点灯するとパーティルームに早変わりです。

 細かいアイデアもたくさんあります。例えばバンドのプレイ中でも誰かが来たことがわかるように、玄関モニタを付けています。大音量の演奏中でもライトが点灯し、来客を知らせてくれるのです。さらには、バンドメンバー以外のご友人が来たときのカラオケのためにミラーボールも設置しました。

「バンドの練習に限らず、友人たちがやってきて、一晩中映画やミュージックビデオを見たり、パーティをしたり大騒ぎしてもご近所にまったく迷惑がかかりません。すっかりここがリビングルームです(笑)」

 山口さんのプレイルームは、楽器プレイヤーなら誰でも憧れるような空間です。施工した会社の営業担当者が、この家に新しいお客さんを連れてきて、実際に防音性能を体験してもらう、ということもしばしばあるようです。

 次回は、このプレイルームを設計・施工したsoundzone(環境スペース)に伺って、みなさんがプレイルームを作るときに知っておきたいポイントをご紹介します。

≪お話を伺った方≫

山口真一さん

高校を卒業してからロックにはまり、社会人になってもバンド活動を続ける。音楽仲間からはヘヴィメタルバンド「アイアン・メイデン」の元ドラマー、クライヴ・バーにちなんで「クライヴ山口」と呼ばれている。

◎取材・文・写真 坂井淳一

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)