楽器プレイルームを作る [第2回・ピアノ編]

中古住宅でも実現できる! 生配信室

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完全防音よりも環境適用を目指した

 子どもの頃からピアノ一筋。ずっと精緻で繊細なピアノに向き合い、音大に入る。クラシックのピアニストたちは、そんなストイックな生活を送っているそうです。

「私はそんなにストイックというワケではありませんでしたけれどね(笑)。記憶にありませんが、自分から母に習いたいと言ったらしく、4才からピアノを始めました。先生から出された課題を毎日しっかり練習して、合格のハナマルをもらうのが嬉しかったのを覚えています。

 その先生に勧めていただき、国立音楽大学の附属中学校を受験し、それから大学卒業までどっぷりクラシック畑で育ちました。コンクールのためだけにピアノを弾くというのはあまり好きではなくて、それでも毎日何時間もピアノに向かってきました」

国立音大卒業。プロのピアニストとして活動している里紗さん。

 こう話すのは、クラシックを始め、ジャズ、ポップスまで幅広く活動をするプロピアニストの里紗-risa-さん。

「小さい頃からずっと、時間があればピアノの前に座る毎日です。ピアノの音色を通して自分の感性を表現するという事は、肉体的にも精神的にもストイックな状況になる事もありますが、演奏を待っていてくれるファンの方の事を思うと、自然とエネルギーが湧いてきて、練習も集中できます。時間が経つのもあっという間です」

 イベントやライブハウスでのコンサートなど、多忙な日々を送っていたところにやってきた新型コロナのパンデミック。イベントもライブもキャンセルが相次ぎ、現在でも活動は制限されています。

「それでも、毎日ピアノには向かっています。1日練習をさぼると自分がわかる,2日さぼると同業者にバレる、3日さぼるとオーディエンスに伝わる、という言葉があるくらい、クラシックの世界では毎日の練習は必須と言われています。アスリートと同じ感覚なのかなと思います」

 里紗さんの相棒とも言えるのが、子どもの頃からずっと弾いていたグランドピアノです。

「父が建設業を営んでいたので、前の家にもピアノルームを作ってくれていました。ライブで弾くピアノは、それぞれ個性があり、状態もまちまち。中にはきちんと調整や調律がなされていないものがあったり、気難しくて思った音が出せないものもあります。けれど、自分のピアノを弾くことで、常にニュートラルでいられるのです」

 里紗さんの今のお住まいは、東京郊外の閑静な住宅街にある一軒家。築30年ほどの中古物件を手に入れ、リフォームをしたそうです。自然も豊かで、家の敷地にも余裕はありますが、お隣とは近く、ご近所のピアノの音が聞こえてくるそうです。

「偶然なのですが、近くにピアノ教室を開かれているお宅がありました。他にもピアノを弾く方もいて、昼間はよく音が聞こえてきます」

 里紗さんは、そういう環境がむしろ良かったと考えているそうです。

「近隣がピアノの音に対してナーバスな方なら、少し音が漏れただけでも関係が悪くなるかもしれません。けれど、比較的ピアノや音楽に対して許容される場所ですから、私のピアノ室も完全に外に音が漏れないということではなく、耳障りにはならないレベルなら大丈夫だと思い、父とプランを練ったんです」

床・壁・天井を防音仕様に

一般的な扉のように見えますが、実は防音仕様です。

 リフォームは、床材を撤去しての大がかりなもの。まず、床の構造合板の上に防音ゴムマットを敷き、その上に仕上げ材をフローリング。
 壁は全面に12mm厚の石膏ボードを二重張りに。理由は、使う材料の質量に比例して、防音効果が出るからだそうです。また、窓はインナーサッシを使って二重にしてあります。

 天井は、2階があるおかげで、外にはあまり音が漏れないと判断し、ボード下地の上に吸音テックスを貼ったそうです。これは、植物系繊維を軽く固め、たくさんの穴を開けた吸音製の高い素材です。適度に反響があり、ピアノの音が心地よく響きながら、周りにはあまり音が漏れない仕様です。

「外でピアノの音を確認しても、かすかに聞こえるかな、という程度です。深夜になると周辺はとても静かになりますから、ヘッドフォンをしながらの電子ピアノ練習に切り替えます」

気になる音や結露を軽減

インプラス/インプラス for Renovation

www.lixil.co.jp/reform/imadoki/window/inplus.htm

プレイルーム発! 世界へのつながり

 約8畳のピアノルームはグランドピアノを置いてもゆったりしています。生徒を招いてレッスンをしたり、ライブの共演者とリハーサルをしたり、ということもあるそうです。

「6畳くらいあればグランドピアノを入れるには十分ですが、ある程度広さがないと人と一緒にリハをするのも難しくなりますね。フルーティスト3人や、マリンバを入れてLiveのリハをしたこともあります。音漏れを気にして、窓を一切作らないという音楽仲間もいますが、私は1日を長く過ごす場所に癒やしを求めて、リフォーム前からある窓は塞がず、外の景色と光を楽しめる環境にしました。この部屋をとても気に入っています」

 現在の環境に不満はないように見える里紗さん。けれど、ひとつだけ、不満点があるそうです。

「ピアニストにとって、スコア(楽譜)はとても大切なものです。子どもの頃から弾いてきた古典音楽から、現在はポップスやジャズまで、大変な量になります。どうプレイするかのメモがびっしり描き込まれたモノもあります。そこで整理用の棚をひとつ入れたのですが、それだけでは足りなくて。

 それに、常に何曲もの楽譜が必要で、それを整頓する暇もないくらいです。もっと余裕のある収納スペースがあれば良いのですが。じつは、今日も取材の直前まで練習をしていて、床に楽譜が散らかり放題でした(笑)。今は電子化をしている人が増えてきました。アナログ人間なので手をつけられていないのですが、そろそろ電子楽譜への切り替えもしなきゃと思っています(笑)」

 コロナ禍の影響でライブ活動の機会がぐんと減ってしまった里紗さんは、スマホの配信サービス「BIGO LIVE」を使い始めました。同種のサービスの中でも利用者が多いアプリで、今では、毎日数時間の配信をしています。

「おしゃべりをしたり、いろんなことをしていますが、もちろんピアノも弾きます。ライトやミキサーなどの配信機材も揃え、いい音で演奏を聴いていただけるように試行錯誤をしました。マイクの位置をほんの数センチ移動しただけで、低音が出すぎたり、高音が固くなりすぎたりします。配信は、楽しいのはもちろんですが、世界中に見てくれる人がいるので、ファンも広がりますし、ミュージシャン同士のつながりもできました。

ノートPCやリングライト、ミキサーやマイクなどの配信機材。

『Eden』という私のオリジナル曲があるんですけれど、配信でつながったみなさんが、朗読や映像やダンスや演奏を重ねてコラボして下さって盛り上がっています。次のオリジナル曲も制作中で、楽しみに待ってるよという声を毎日いただいていて、頑張る原動力になっています。今後はこの部屋で録音もしていきたいと思っています」

 専用のスタジオや高価なカメラ、スタッフがいなくても、動画配信や録音ができる時代。プロフェッショナルばかりでなく、アマチュアもこうした専用ルームを作ることで、いつでも楽器を演奏して世界中に発信することができるのです。

 次回は大音量で思う存分ドラムを叩け、深夜でもヘヴィメタルバンドの練習ができる本格防音室をご紹介します。

≪お話を伺った方≫

里紗-risa-さん

国立音楽大学音楽学部器楽学科ピアノ専攻を卒業。ザルツブルク夏季国際音楽アカデミーを受講。ライブ活動、ミュージカル公演、映像系の演奏シーン出演、映画サントラのレコーディングなど多岐にわたり活動。Advance Ability株式会社のオフィシャルアーティスト。
公式ファンクラブ https://www.fansnet.jp/risa-edenpiano

取材・文・写真◎坂井淳一

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)