“避難後”に多くの人が命を落としている
世界のさまざまな社会課題を、アイデアやコミュニケーションによる工夫・仕組みで解決する“ソーシャル・グッド・プロデューサー”として活動している石川淳哉さん。かつては広告プロデューサーとして活躍していた石川さんが社会課題の解決に目覚めたのは、2001年に出版されたベストセラー『世界がもし100人の村だったら』の宣伝に携わったのがきっかけだったといいます。
「世界の社会課題を可視化したこの絵本は、私の価値観を大きく変えました。広告の仕事で得る称賛や喜び以上に、CSR(社会問題の解決に取り組みながら、経済的な価値も生み出すこと)の可能性を追求することに脳が喜びを感じたのです」
その後、石川さんはさまざまな社会課題に取り組みながら、災害の復興や防災にも尽力してきました。近年は「災害関連死」の防止活動にも力を入れています。
災害関連死とは、建物の倒壊や津波に巻き込まれるといった直接的な被害で亡くなるのではなく、避難生活中など間接的な影響によって亡くなることをいいます。要因としては、慣れない避難所生活によるストレスや、病気の発症、持病の悪化などがあげられます。
災害関連死は、2016年に起きた熊本地震の際に大きく注目されました。熊本地震では犠牲者273人のうち、8割を超える218人が災害関連死で亡くなったのです(出典:熊本県「平成28(2016)年熊本地震等に係る被害状況について【第 311 報】」)。
災害関連死を引き起こす「トイレ」問題
災害関連死を防ぐため、近年は避難生活における「TKB(T=トイレ、K=キッチン、B=ベッド)」の改善が求められています。中でも石川さんは「トイレ」の問題を最重要視しています。
「避難所生活について500人にアンケート調査を行ったところ、困ったことの第1位が『トイレ』でした。人は1日2日であれば食事は多少我慢できますが、トイレだけは我慢できません。
災害によって水道や電気などのライフラインが止まった場合、多くの人は避難所の仮設トイレを利用する他ありません。しかし、避難所の仮設トイレはどの被災地でも圧倒的に数が不足しているうえ、狭く、汚い和式であることがほとんどです。また、水が流れないため、排泄物がどんどん蓄積され、即満杯になってしまいます。悲惨な状況の中でトイレを使わざるをえないのです。
衛生的でないトイレを使うと、排泄物による細菌により、感染症が起きやすくなります。また、トイレの使用をためらうことから飲食や排泄を控えがちになり、体力や健康の維持が困難になります。そして持病が悪化したり、エコノミー症候群が引き起こされたりします。
災害関連死を防ぐためだけでなく、人としての尊厳を守るためにも、明るく清潔なトイレは災害時の必需品だといえます」
市町村のネットワークで
トイレ問題を解決する
避難所のトイレ問題を解決するため、石川さんは2017年より、全国の自治体にトイレトレーラーを配備する災害派遣トイレネットワークプロジェクト「みんな元気になるトイレ」に取り組んでいます。
「絶対に起きるとわかっている問題を、人や自治体、企業を巻き込みながら、企画や仕組みの力で変えていくのがソーシャル・グッド・プロデューサーである自分の仕事です。
災害関連死が起きるのは非常に残念であり、本来であれば人の力でなんとか防げたはずです。ぜひ多くの人に、いざという時に『トイレがあるだけで死なずにすむ』ということを知ってほしいです」
次回は、災害時の備えとして必要なものをご紹介します。
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