独居高齢者のためのリフォーム[第4回]

実は最も難しい!? 最適な手すりを設置

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老後リフォーム

無理をしないで、できることを続ける

 ヤスヱさんは一人で買い物にも行き、毎日ご近所の方と交流をする日々を送っています。

「でも最近は前から住んでいる方がだんだん減ってきましたし、買い物も少し大変に感じるようになってきました」(ヤスヱさん)

 そこでお子さんたちの勧めもあり、最近はデイケアに通うことを考え始めているそうです。取材をした時点で、トライアルでデイケア施設に行ってみることになっていました。一人で出かけるのが難しくなってきたので、送り迎えのあるデイケアは、人との交流も増えていいかもしれません。一方で、買い物などは福祉サービスを利用することで負担を軽減するよう考えているそうです。

 できることを続けながら無理をしない暮らし方というのは、高齢の一人暮らしの場合、とても重要になってきます。

「2階」をどうするか

「実は、今も洗濯物を干すために2階に上がっているんですよ。子どもとしては、階段の上り下りは不安なのですが……」という義理の息子の本田淳一さん。

 1階で洗濯物を干せるように、居間をサンルームのようにつくり変えることも検討したそうです。しかし、家の構造の問題や、ご本人の「洗濯物は天日で干したい」という強い希望もあり、鉄骨構造の物干し台のさびを落とし、塗装をすることにとどめたそうです。

 施工を担当した工務店の小西武瑠さんは、ヤスヱさんの思いも踏まえ、階段の対策を提案しました。

「階段に手すりがなかったので手すりを設け、さらに段から滑り落ちないように、滑り止めをつけました。安全に上り下りができることを担保するのは重要なことです」(小西さん)

 高齢者の住宅は、2階をどうするかはひとつの課題です。上り下りが安全にできるうちはよいでしょうが、いずれ体力が衰えたときのことを織り込んでプランニングすることが肝心です。

「いずれは2階に上がることはできなくなるでしょうから、洗濯物も1階で干せるように考えなくてはいけないでしょうね。そのほうが子どもとしても安心です。今も、少しずつ2階の荷物を整理して、必要なものは1階の居間に置くように進めている最中です」(淳一さん)

現物合わせをきちんと行う

 フロアの張り替えと段差解消、キッチン、トイレや浴室のリフォームと、ヤスヱさん宅のリフォームを担当した工務店の小西さんに、今回のリフォームで一番大変だったことを伺うと、意外な答えが返ってきました。

「何より大変だったのは、各場所の手すりの取り付けでした。木元さんは、長年の無理で片方の腕が動かしにくいんですね。なので、手すりは動くほうの腕が使える場所に取り付けなくてはなりません」

 基本的なリフォーム作業が終わったところで、子ども夫婦の家に一時住んでいたご本人に来ていただき、実際に動いてもらったそうです。

「この位置に付ければ大丈夫だろうと思っていた手すりが、高さが合わずにつかみにくいという箇所が複数ありました。普段どういう動線で移動して、どこに手をつくのか、どこにつかまる場所があればよいのかは、計算だけで決められるものではありません。お住まいになる方一人ずつに違いがあります」

 バリアフリーリフォームの基本的ともいえる手すりの増設こそ、最も気をつけるポイントだということでしょう。

「実際、施工後に何度か数センチ単位で調整した箇所もあります。こうした細かい調整まで行うことで、よりお客様に満足いただける、住みやすい住宅になると思います」(小西さん)

必要な機能を明確に

今回のリフォームでの見積もりの一部。介護保険や補助金などからリフォーム費用として補助を認められる場合があります。

 最後に、小西さんに一人暮らしの高齢者のためのリフォームに一番重要なことを伺いました。

「こういう言い方は失礼ですが、その家にあと何十年も住むことはないと思うんです。人生の後半を、人の手をあまり借りずに、楽しく自由に暮らせるような家にすることが、何より大切だと思います。

 そのために、ご本人とご家族のコミュニケーションをきちんととってください。ご本人がどんな暮らしをしたいのか、そして家族は客観的に見て、どういう暮らしが可能であると思うか。そのすり合わせをきちんとして、リフォームしたい部分を明確にしていくことが大切です。

 また、高齢者の暮らしに何が必要かをよくわかっているケアマネージャーを上手に活用してください。補助金がどういう形なら出やすいかといった実務的な部分のアドバイスも受けられます。もちろん施工者選びも大切で、きちんと個々の状況を見てアイデアを出せ、小回りの利く工務店を選んでください」

 一人暮らしを選ぶ方は、つい「自分が我慢をすればいい」と思いがちだそうです。けれど、元気で楽しく暮らすためには、不必要な我慢をすることはありません。高齢の方が暮らしやすいリフォームは、少し離れた所に住んでいるお子さんも安心できるでしょう。

≪お話を伺った方≫

木元ヤスヱさん、本田淳一さん

木元ヤスヱさんは千葉県の一軒家に一人暮らし。ヤスヱさんの娘さんの夫である淳一さんは、電車で1時間ほどの距離にお住まい。リフォームの期間は淳一さん夫妻のマンションで一緒に過ごされたそうです。

小西武瑠さん

東京・東駒形の工務店「修繕屋コニー」代表。最近は高齢者のためのバリアフリーリフォームの依頼が増えている。
https://carpenter-843.business.site/

文・撮影◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
画像◎Shutterstock

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