独居高齢者のためのリフォーム[第1回]

一番に考えるべきは「段差」の解消

空間
リビング・寝室・居室
関心
老後リフォーム

傷んだ家の修繕をきっかけに
バリアフリー化を決断

 総務省統計局の令和2年の国勢調査では、65歳以上の単独世帯数は671万7千。これは65歳以上の約5人に1人が一人暮らしをしている計算で、その割合は年々増えているそうです。しかし、日本の高齢者に対するケアは、基本的に家族が担うことを前提としており、老人ホームや介護老人保健施設の入所もなかなか空きがないという現状もあります。

 今回お話を伺った木元ヤスヱさんも、築40年を超える一軒家に一人暮らしをなさっています。お子さんは独立していますが、何かあれば駆けつけられる距離にお住まいです。

「40年前にこの家を購入しまして、ご近所ともずっと仲良くつながりがあり、できるだけこの土地から離れたくないんです」と話すヤスヱさん。

 お子さんはその気持ちを大切にして、ヤスヱさんと相談し、なるべく長く今の家で暮らせるようにとリフォームを検討しました。

 義理の息子の本田淳一さんは次のように話します。

「海に近い立地ということもあってか、とくにここ何年か、家の周囲に水があがって何日も水たまりが乾かないことが続くようになりました。そのせいか、床が全体にたわんだような状態になってしまったので、まずはこの状態をなんとかしないと、ということから家族でリフォームを考え始めました」

 施工する業者は、子ども夫婦の家のリフォームをお願いした工務店「修繕屋コニー」に依頼しようとすぐに決まったのですが、ここからが大変だったそうです。

「バリアフリー住宅のリフォームには補助金も出て助かるのですが、どういうものに補助金が出るのか、どういうものには出ないのか、などがなかなかはっきりわかりませんでした。ケアマネージャーさんと相談しながら見積もりを出して進めたのですが、当初の予定より大幅に時間がかかってしまいました」(淳一さん)

 実際に担当した工務店の小西武瑠さんの見立てはどうだったのでしょう。

「まずは、地盤が悪く、水が引かないことが一番の問題でした。合板の床は湿気で木材そのものが傷んでしまっていました。また、基礎は地面を完全に覆うべた基礎ではなく地面がむき出しの布基礎で、建設時のゴミなども大量に出てきました。玄関付近には一部シロアリにやられている部分もありました」

 ゴミなどを掃除して水はけを改善し、キッチンや居間の床板を剥がして防水シートを貼った上で、新しく床をつくり直したそうです。ネズミが入っていた痕跡もあったため、換気口に目の細かい網を張り、動物の出入りをできなくしました。シロアリ対策もしっかり行いました。

段差のないフラットな床に

 床の張り替えに伴い、バリアフリー工事として1階のフロアの段差をなくしたそうです。

「高齢の方が住む住宅のリフォームで一番肝心なのは、床の段差をなくすことです。歳を取ると、自分が思っている以上に足が上がらなくなります。何気なく歩く場所に小さな段差があると、そこでつまずいて転倒の危険があります。
 さらに、膝への負担を少なくするために、トイレやキッチンの床は木製のフローリングよりも柔らかいクッションフロア材で仕上げました」(小西さん)

 ヤスヱさんのお宅は玄関から奥に続く廊下があり、2階への階段に続きます。右にダイニングキッチンとトイレ、浴室、左に襖で仕切られた和室の居間があります。

「基本的に1階だけで過ごせるように、和室の一部にカーペットを敷いて介護にも使えるベッドを置き、小さなテーブルを置きました」と淳一さん。

 和室は敷居の分棟上げをして、畳表だけ張り替えたそうです。

「ベッドでの寝起きは慣れればとても楽ですね。でも、やはり和室のほうが落ち着きます。ご近所の方を呼んで一緒にお茶飲みができる空間は嬉しいですね」(ヤスヱさん)

 高齢者のためのリフォームを数多く手掛ける小西さんも、畳の部屋を残すことはお勧めだと言います。

「膝に負担がかかりにくいことに加え、安全性も高いです。もし転倒したときにも、怪我から守ったり、被害を抑えることができます」(小西さん)

玄関の段差はそのままに

 高齢者のためのリフォームというと、車椅子で出入りができるように廊下を広げたり、玄関や上がり框の段差をなくしたりすることを考えると思いますが、ヤスヱさんのお宅はそうした選択をしなかったそうです。

「一人暮らしなので、車椅子で介助を受けながら生活する未来は現実的ではありません。現在は、片腕が上がりにくい事情もあって車輪付きの買い物バッグにつかまりながらですが、一人で外出もしています。玄関の段差は意識しているからか、転ぶことはないですね。むしろ家の中で転倒することが心配でした」(淳一さん)

 もちろん、歩くのが困難になった方のために車椅子で移動しやすい住宅にリフォームすることは重要でしょう。しかし、一人暮らしの高齢者が歩けなくなった場合は、家族の家で同居するか、介護付きの施設に移ることが一般的です。

「玄関くらいの段差なら、歩けるうちはむしろ自力で上がるくらいのほうがいいかもしれません。ご本人の気持ち次第ですが、そのほうが体力の維持にもつながるでしょう。ただし、靴の履き脱ぎをしやすいように、腰をかけられる場所をつくりました」(小西さん)

 独居世帯ならではのリフォームのポイントはたくさんありそうです。次回は、キッチンのリフォームについて伺います。

≪お話を伺った方≫

木元ヤスヱさん、本田淳一さん

木元ヤスヱさんは千葉県の一軒家に一人暮らし。ヤスヱさんの娘さんの夫である淳一さんは、電車で1時間ほどの距離にお住まい。リフォームの期間は淳一さん夫妻のマンションで一緒に過ごされたそうです。

小西武瑠さん

東京・東駒形の工務店「修繕屋コニー」代表。最近は高齢者のためのバリアフリーリフォームの依頼が増えている。
https://carpenter-843.business.site/

文・撮影◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
画像◎Shutterstock

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)