考えるべきは「動線」
湿気によって傷んだ床の修繕をきっかけにバリアフリーリフォームを行ったヤスヱさん親子。防水対策だけでなく、転倒防止のために段差のないフラットな床に張り替えました。ほかの部分のリフォームについて、義理の息子の本田淳一さんは次のように話します。
「床の張り替えと同時にキッチンもリフォームしたのですが、間取りは基本的に変えませんでした。義母が新しい環境に慣れるのは大変でしょうから、極力それまでの生活と変わらず、けれど楽に家事ができるようにと考えました。シンクや冷蔵庫などの位置は変えずに、ダイニングテーブルも以前使っていたものをそのまま残しています」
リフォームというと、それまでの家具なども一新して見違えるような空間につくり直すイメージもありますが、高齢の方が一人で暮らす場合は、慣れた環境をなるべく残したほうが生活しやすいという場合もあるようです。
リフォームを担当した工務店「修繕屋コニー」の代表・小西武瑠さんは次のように話します。
「キッチンのリフォームで肝心なのは動線です。単に動きやすさを考えるのではなく、なるべく“慣れた動きを変えない”ことが大切なのです。何かとっさに必要な物を取るとき、今までのクセで手を伸ばすこともありますから、そういう行動をしても困らない、怪我をしない、ということを頭に入れて設計していきます」
普段はどのような調理の仕方をされているのか、どこに食器や調理器具を収納しているのか、食材はどのようにストックして、どこで食事をするのかなど、細かいヒアリングをして変えるべきところ、変えないところを決定していくことが重要なのだそうです。リフォームが終わったその日から、違和感なく生活ができることを考えてプランニングしましょう。
同じタイプのキッチンに取り替える
キッチンは、ビルトインコンロ付きの最新タイプではなく、これまでと同じガステーブルを置くタイプの新しいものに取り替えました。
「費用的に安いということもありますが、それ以上に、慣れた生活の導線を維持することを重視した選択です」(淳一さん)
最新のビルトインガステーブルは多機能で掃除も楽ですが、慣れるまでに時間がかかる方もいらっしゃいます。ヤスヱさん宅の場合は、ご家族やケアマネージャー、工務店がご本人を交えて話し合った結果、決定されたそうです。
身長に合わせたキッチンの高さに変更する
もうひとつ、こだわったのはキッチン(ワークトップ)の高さだそうです。
「私は小柄なので、キッチンの高さが高いと作業が大変なんです。なので、一番低いキッチンにしてもらいました。工務店さんは、さらに使い勝手がよくなるようにと、5cmくらいの高さの木の踏み台もつくってくれました。大変重宝しています」(ヤスヱさん)
一般的に、キッチンのワークトップの高さは80cm、85cm、90cmの規格でつくられています。LIXILのリシェルシリーズなどではさらに細かく、82.5cmや87.5cmのものもあります。
自分に適切なワークトップの高さは「身長(cm)÷2+5(cm)」で計算すると目安がわかります。肘の高さに10cmを加えた高さを勧める場合もあります。ただし、高齢の方は前屈みになっていることも多く、単純にこうした計算で出た数字が最適であるとは限りません。ご本人と話し合って、実際に高さを確認しながら使いやすいと思える高さを選ぶのがよいでしょう。
「木元さんの生活のスタイルを伺うと、毎日キッチンに立つことが大変ではないようでしたので、通常のキッチンに取り替えました。立って作業をすることがつらい方には、椅子に座ったまま炊事や洗い物ができるようなキッチンを設置することもできます」(小西さん)
水栓はシングルレバーの混合水栓に
キッチンのリフォームの中で、ヤスヱさんが最も楽になったと感じたのは、シングルレバーの混合水栓だそうです。
「これまではお湯と水、それぞれの蛇口をひねって温度を調節しなければならなかったので、とても便利になりました」(ヤスヱさん)
1つのハンドルで吐水と止水、温度調整も操作できるシングルレバーの混合水栓は、2つのハンドルを操作するツーハンドルの水栓に比べ簡単に使えて、片手が上がりにくいヤスヱさんでも開け閉めが楽です。
次回は、トイレや浴室のリフォームについて考えていきます。
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