新時代の花粉症対策[第2回]

花粉が多い場所はどこ?

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都市部の花粉がアレルギーを引き起こす

 埼玉大学の王青躍教授は、花粉症で一番効果がある対策は、花粉から発生されている微細なアレルゲンに触れないことだと言います。

「山の中で飛散している花粉は、まだ微細なアレルゲンを発生していません。ですから、大量のスギ花粉が飛散する杉林のすぐ近くに住んでいても、花粉症の患者が少ないケースは多々あります。私の研究室は、かつて秩父にありました。周囲は山林でしたが、研究室のメンバーで花粉症に悩まされる者はあまりいませんでした。
 ところが、埼玉大学にある研究室と都市部で調査した結果、花粉症に悩む方々が多くおられました。私もその一人です(笑)」

 都会の方が郊外より花粉症患者が多いというのはよく知られることですが、それは一体なぜでしょう。

前回お話ししたように、花粉はそれ自体がアレルギーを引き起こすこともありますが、涙やくしゃみ程度です。しかしながら、空気中を漂いながら、PM2.5や排気ガスなどと接触することで微細なアレルゲンを発生させるのです。ですから、飛散した直後の花粉よりも、都市部にやってきた花粉の方がより花粉症の症状が深刻で咳や喘息などを引き起こすのです」

 よく雨の翌日は花粉症が楽、という方もいますがどうでしょう?

「それは雨によって一時的に空中に飛んでいた花粉やアレルゲン物質が地面に落ちるからです。雨の翌日は、花粉は雨によって膨れ、破裂して微細なアレルゲン物質をまき散らしますし、花粉そのものもふたたび舞い上がりますから、実は注意が必要なのです」

新型コロナ感染症対策で窓が開けられている電車。
車内にも花粉がどんどん入り込んできます。

 千代田漢方内科クリニックの信川院長は、都市部で生活することのストレスも花粉症を発生させる引き金になると言います。

「都会の生活は、大気汚染ももちろんですが、人が多く、ストレスも多くかかります。毎日通勤電車に詰め込まれて移動をしたり、対人関係が大変だったりということも、免疫力を低下させ、花粉症が発症しやすくなるという側面もあると思います」

花粉は風通しの悪い場所に溜まる

「当たり前のようですが、外出時には花粉が滞留しやすい場所を避けると良い」と、王教授は言います。

人々がこっそりたばこを吸うようなビルの裏は風が巻く場所。花粉やアレルゲン物質は、こうしたところに滞留しやすいのです。

「ビルの谷間や建物の隅、階段の下などは花粉が溜まりやすい場所です。なるべくそういうところを避けると良いでしょう。交通機関は、換気をしていれば花粉は溜まりませんが、飛散している花粉は車内に入り込みます。コンクリートやアスファルトの路面も、土と違って花粉が溜まりやすく、風が吹けば舞い上がります」

 王教授が指摘する場所はなるべく避けて行動すべきなのでしょうが、日々の生活を送るためには、出かけないわけにはいけません。
 では、どのように策をすればいいのでしょうか。

有効なのはマスク、ゴーグル、うがい、洗顔

資料提供:埼玉大学大学院 王青躍教授

 王教授によると、花粉症対策で一番必要なことは、花粉、特に微細なアレルゲン物質を呼吸器系から守ることだそうです。

「花粉用のゴーグルは必須です。マスクは、布製より不織布のほうが、微細なアレルゲン物質の予防効果は高いとされています」

 ちなみにコロナ禍でウイルスの大きさが話題になりましたが、新型コロナウイルスが約0.1μmであるのに対し、飛散直後の花粉は30~40μmと、桁違いの大きさです。

「ところが、花粉は都市部に到達するまでにどんどん小さくなっていきます。飛び始めの花粉なら一般的なマスクで防げますが、都市部で花粉症がひどい方なら、医療用にも使われるN95マスクを選ぶのもいいと思います」

 可能であれば、0.3μm以下のウイルスなどを捉えることができる高性能なものを使用してください。一般的な不織布マスクに比べ高価ですが、それで花粉症をかなりコントロールできるなら、決して高いとは言えないでしょう。

 また、千代田漢方内科クリニックの信川益明院長は、日々の手洗い、洗顔、うがいなども重要だと言います。

ついてしまった花粉を洗い流すには、鼻うがいや洗眼液が効果的。ただし、粘膜も洗い流されてしまうので、使いすぎには注意が必要です。

「手洗いなどはコロナ感染対策でも有効と言われましたが、もちろん花粉症対策でも有効です。コンタクトレンズのユーザーが使う眼球洗浄用の液を使って洗うのも良いと思います。鼻うがい薬も良いかもしれません。ただし、目や鼻の粘膜を保護する成分も洗い流されてしまうので、使いすぎには注意です。外に出るときは、ワセリンや花粉をブロックする専用の軟膏などを鼻に塗ると、一時的ですが、粘膜に花粉やアレルゲンが付くことを防げます」

 ヨーロッパでも近年、花粉症は流行していて、ワセリンを鼻の穴に塗るのは、よく知られた対処法だと言われます。柔らかいクリームだと体温で流れてしまうので、固めのワセリンがいいのだそうです。
 花粉をうまく避けながら日常生活を送りましょう。

 次回は、家の中の花粉への対処法を伺います。

〈お話を伺った方〉

王青躍さん

埼玉大学教授。都市大気汚染計測、対策技術、再生可能なエネルギーの研究と同時に、花粉症原因物質の飛散挙動、PM2.5などの大気汚染による花粉症への増悪、花粉や大気汚染対策研究を行う。NHK「おはよう日本」をはじめ、近年110回以上のテレビ番組等に出演・解説。ほか、新聞・学術誌でも研究成果も数多く取り上げられている。

信川益明さん

漢方薬と西洋薬を組み合わせた治療を行う千代田漢方内科クリニック院長。内科一般、漢方全般を診る。アレルギー、皮膚科の治療の評判が高い。医学博士、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程修了、慶應義塾大学医学部教授を経て、現職。(一社)日本健康科学学会理事長、厚生労働省委員、(一社)日本健康食品認証制度協議会理事長なども務める。

取材・文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)

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