ベテラン大工が語る、古い家のリフォーム[第1回]

わずかな手直しで「断熱性能」大幅UP!

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建築リフォーム事例

「断熱」の考え方は大きく変わった

 職歴50年以上を誇るベテラン大工でYoutuberの「大工の正やん」さん。自分ひとりで40年前に建てた自宅のダイニングキッチンとリビングを、このほどリフォームしました。

「40年前は、今とは違って断熱という考え方があまりありませんでした。当時、床下には風が通るようにして、夏をなるべく涼しく過ごせるように建てたんです。冬は暖房をがんがん焚いてしのぎました。今は新築なら壁や床にしっかり断熱材を入れ、機密性も高くして、エアコン1台で家中快適な温度に保てる高断熱・高気密の家が人気です」

 電気や灯油の価格が上がっている現在では、「いかに少ないエネルギーで快適に過ごせるか」に関心が集まっているようです。
 リフォームの依頼も断熱性を上げるものが多いのでしょうか。

「床下や壁に断熱材を入れたり、窓を断熱効果が高いものに交換したりという依頼は多いですね」

 正やんさんは自宅をリフォームする際に、どんな断熱をしていったのでしょう。詳しく伺っていきます。

土壁を残して断熱材を入れた壁リフォーム

土壁の内側に一面ずつ寸法を採って枠組みをつくり、その中にグラスウールの断熱材を入れていく。

 正やんさんの家の壁は、昔ながらの土壁でした。

「30年ほど前からは新建材が主流になりましたが、それ以前は土にわらなどを混ぜて壁にしていました。でもこうした土壁では断熱性は不十分。そこで土壁の内側に木枠を組み、厚さ10cmのグラスウールを入れました。さらに木枠の上に耐火ボードと壁紙を貼っています」

 正やんさんが土壁を残した理由は、コストと手間の削減のためだそうです。

「土壁を壊すと大量の土を捨てなければなりません。また土壁は強度もあります。壊して壁を抜くと強度が下がるので、筋交いを追加しなければなりません。なので土壁はそのままにしました」

 土壁は断熱性は不十分ながら、調湿性は優れています。同様の機能を備えたいのなら、調湿機能のあるLIXILのエコカラットシリーズを壁などに使用するのもいいでしょう。

窓の断熱はペアガラスの樹脂サッシで

 断熱リフォームといえば、窓を交換する方法が人気です。

「古い家のサッシは多くがアルミフレームでガラスも1枚。熱が出入りしやすい構造です。最近はペアガラスのサッシが主流で、フレームも熱伝導率が低い樹脂製が人気ですね。私が住む北陸のような雪国では、冬にまったく結露をしないことはありませんが、サッシを替えると断熱性能もかなり高くなります。今回はキッチンの窓を替えましたが、かなり効果的です」

 LIXILのインプラスなど、内窓方式の窓を入れる手もあります。

「工期は1日で済みますし、安価に行えます。外窓の鍵が掛けにくいとか、窓を開ける時に2回開錠する必要がある、などといったこともありますが、断熱性能は確実に向上します」

完璧な断熱を求めすぎない

床を張り替える時に断熱材を入れる。

 正やんさんが仕事で請けるリフォームでも多いのが、床の張り替えだそうです。

「最近は和室がどんどん減って、フローリングを依頼する方が増えました。床の下地を入れるときに断熱材を入れます。私の家は床下の土がむき出しなので、この方法はかなり効果的です。その上に檜の無垢材を貼りました。木材はそれ自体かなり断熱効果が高いですからね」

 リフォームや新築の依頼では高気密・高断熱に仕上げることも増えてきたという正やんさんですが、自宅に関しては、それほどこだわらなかったようです。

壁の隙間にはウレタンを打って隙間風の侵入を止める。

「注意したのは、土の粗壁と木材の隙間。冷気が入ってきますので、そこに発泡ウレタンを打ちました。あとは天井裏と壁のグラスウール、床のスタイロフォームのみです。これだけでも、それなりに断熱効果が得られます。古い家の場合は隙間風を抑え、断熱材を入れることで、コストをかけすぎることなく、快適さと断熱性を確保できますよ」

 なお、リフォームで高断熱・高気密の家にすることも可能だそうですが、新築より作業が複雑で難しく、コストもかかるのだそうです。費用対効果の高いポイントを抑えた選択をすることが、賢い断熱リフォームだといえるでしょう。

≪お話を伺った方≫

大工の正やん

大工歴50年のベテラン。数年前から、自分が携わる物件の作業の様子を、新築・リフォーム問わずYoutubeで配信。登録者数64万人。
https://www.youtube.com/@CarpenterShoyan

取材・文◎坂井淳一

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