ベテラン大工が語る、古い家のリフォーム[第2回]

「基礎」と「床」は少しずつ沈んでる!?

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建築リフォーム事例

もと田んぼに建てた家。
40年で16mm沈む

家の周辺部に比べ中央にある和室の基礎が
およそ16mm沈んでいた。

 40年前、正やんさんは家を建てるために土地を購入しました。
 もともと田んぼだった場所を新規造成したのだそうです。

「不動産屋は、田んぼの作土は全部取ったと言っていたんです。でも、実は完全には撤去できていなかったんですね。もともと家が建っていた土地は地盤が安定しているのですが、そうではない場合、建設後に地盤が沈むことがあります。今では土質改良をして沈まないようにするんですが、40年前はそうしたこともなく、基礎が一部、建設後16mmほど下がってしまいました」

 一部の基礎が沈んでいるということは、家全体がゆがんでしまうことになります。

「ひどいゆがみだとドアがうまく閉まらなかったり、基礎にひびが入ったりすることもあります。しかし、沈んだ基礎を元に戻すのは無理ですから、部屋ごとに敷居を基準に水平を出しました。建材は傷んではいませんでしたが、レーザーで測ると6~7mmの誤差がありました」

大引や根太の下に「矢」を打ち込んで微調整。

 そこで、下がっている部分は、床の下地に「矢」と呼ぶくさび形の薄い板を打ち込み、沈みを解消したそうです。

木材の腐食やシロアリにも要注意

「今の家は基礎自体が『ベタ基礎』といって地面全体をコンクリートで覆い、高さを調整できる鋼や樹脂でできた束を入れています。このため沈んだり傾いたりしにくく、湿気が上がりにくくもなっています。けれど古い建物は、床下は土の上に砕石を敷き詰めている程度。湿気も上がりやすくなっています」

 こうした家の場合、床下の建材が地面から近いのでシロアリが食い荒らしたり、地面からの湿気などで木材が腐ったりすることもあるそうです。

「うちは大丈夫でしたが、被害があった場合、傷んだ建材は取り替えなければなりません。しかも地盤の沈みや基礎のゆがみ、建材の傷みは、外からはわかりにくいので厄介です。点検口があればそこから覗くこともできますが、床板を剥がして見てみないと、どのくらい基礎がゆがんでいるか、木材が傷んでいるかはわかりません」

 古い家の場合、「リフォームが進むにつれて次々と問題が判明する」という話をよく聞きますが、それにはこういう理由があるのですね。

床板を剥がすと地面がむき出しの布基礎。

 では、床下に地面がむき出しになっている古い建物を、現代風のベタ基礎にすることはできるのでしょうか。

「できないことはありません。しかし、一部だけというわけにはいかないので、床を全面剥がし、鉄筋を入れてコンクリートを打設するという、大がかりなリフォームになります。工期も長くなるし、当然、費用もかさむので、あまり現実的ではないと思います。家をまるごとリフォームすると、新築の7~8割の費用がかかります。それならば、例えば基礎の地面の上に防水シートを敷いたり、通気口を塞いだりするほうがいいでしょう。そのほうが費用を抑えられるし、工期も短縮できると思います」

見えない部分の「合板」にも要注意

 古い家で傷みやすいのは床下だけではありません。正やんさんは、「合板を使った場所も要注意」と言います。

「床材は、合板を貼った上に無垢材を重ね貼りして仕上げることが多いんです。最近の合板は丈夫で傷みにくいのですが、30~40年前の合板は接着剤の質が悪く、湿気を吸ったり経年変化したりで、だんだんたわんできたり、剥がれてくることがあります。また、トイレやキッチンなどは合板の上に防水性のあるリノリュームなどを貼って仕上げることがあります。けれど、リノリュームはだんだん黒ずんできますし、水分を含むと合板の強度は落ちてしまいます」

「トイレの床がぶよぶよになった」という話をときどき聞きます。それは、水分で合板が弱くなってしまうからなのだそうです。

「水分を含んだ合板を戻すことは不可能です。そうしたところから周囲も傷んでいくことが考えられますから、きちんとチェックして、早めにリフォームをするといいですね」

 次回は、現代の生活に合わせた間取りについて伺います。

≪お話を伺った方≫

大工の正やん

大工歴50年のベテラン。数年前から、自分が携わる物件の作業の様子を、新築・リフォーム問わずYoutubeで配信。登録者数64万人。
https://www.youtube.com/@CarpenterShoyan

取材・文◎坂井淳一

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