実は初夏に多い! ひょうから「身」も「家」も守る備え[第1回]

初夏は要注意! 危険なひょうの被害

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ひょうはどうしてできる?

 そもそも、ひょうは氷なのに、なぜ気温が高い初夏に降ってくることが多いのでしょう。それは、ひょうができるしくみを知ると理解できます。

「まず、ひょうができる場所には、発達した積乱雲があります。夏と冬は雲ができる高さが違って、夏場は大気が暖められて膨張するため、地球の大気圏内にある対流圏と成層圏の境界領域である“対流圏界面”の高度が上がります。積乱雲は対流圏界面まで発達することができるので、夏場はとても背が高い積乱雲ができやすくなるのです。上空のほうへ行けばいくほど氷点下になるので、積乱雲が高くなればなるほど雲の上の方は冷やされることになります。

 一方で暖かい空気ほど上に上がります。この動きを上昇気流と呼びますが、この動きは上空と地上の温度差が激しい夏場ほど強くなります。

 夏場の暖かい空気ほど勢いよく上昇してそれが積乱雲となり、さらに上空へ上がり、寒気に急激に冷やされます。そして氷の粒になるのです。氷の粒は重力で落ちてきますが、夏は上昇気流が強いので、また煽られて上空へと上がります。こうした動きを繰り返す中で、氷の粒のまわりに凍った水蒸気や粒がくっつき、粒はどんどん大きくなります。

 そして、いくら強い上昇気流でも上がらないほど大きくなると、一気に落ちてくるのです」

「ひょう」ができるメカニズム

「このときの氷の粒は、上昇流を打ち破るほどの強さなので、とても勢いよく降ってきます。さらに、氷の粒はまわりの冷たい空気も巻き込みながら降ってくるのですが、冷たい空気は重たいので、下に落ちる流れである下降気流がより強まります。そのため、非常に激しい降り方をすることが多いです」

ひょうとあられの違い

 ひょうと同じく、上空から氷が降ってくる現象として「あられ」が挙げられます。

「ひょうとあられの違いは、一言で言うと大きさです。5mm以上の氷の粒をひょうと呼び、5mm以下の場合をあられと呼びます。両方とも同じように水蒸気が上空で冷やされて氷が固まって落ちてくる現象ですが、落ちてくる過程で地上に近づけば近づくほど空気の温度は上がるので、どんどん氷は解けていきます。最終的に地上に降ってきた大きさで名前を分けています」

「夏にひょうが降ることが多い一方で、冬の日本海側などではあられが降ることが多いです。冬は地上と上空との温度差が激しくないので夏のように上昇気流の勢いが強くなく、“対流圏界面”の高度も低いので、背の高い積乱雲が生まれません。そのため、氷の粒が上昇気流に煽られてどんどん大きくなる現象は起こりにくいのです」

「大気の状態が不安定」なときは要注意

 5mm以上の氷の粒が勢いよく上空から降ってくるひょうは、やはりとても危険です。注意するポイントは「大気の状態が不安定」なときだそうです。

「過去に埼玉県の熊谷で直径30cm近いひょうが降ったという記録もあります。そんな氷の塊が直接人に当たったら……と思うと恐ろしいですよね。
 天気予報などで『大気の状態が不安定』のときは、要注意です。こうしたときは、地上が暖かく、上空に普段以上の冷たい空気が入り込み、温度差が激しく、積乱雲が発生しやすいのです」

ひょうでどんな被害が予想される?

 ひょうの被害というと、2022年6月に関東で起きた被害が記憶に新しいです。
 住宅や車の窓ガラスが割れたり、ガレージの屋根が破損したり、畑の農作物が全壊するといった被害がありました。

「私も子どもの頃にひょうの被害にあったことがあります。そんなに大きなひょうではなかったのですが、氷の粒が体に当たるのでとにかく痛かったです。でもこれが数十センチを超える大きな塊で頭などに当たったら、大怪我になることもあるでしょう。また、ひょうで割れた窓ガラスなども危険です。建物や車などへの物的な被害もあります」

 第2回はひょうの被害を防ぐためにできる対策について、お届けします。

≪お話を伺った方≫

飯沼孝さん

気象予報士。気象防災アドバイザー。株式会社ウェザーニューズなどに20年間勤め、その後、フリーの気象予報士として独立。現在は、一般財団法人日本気象協会の予報技術者として従事し、その他、気象予報士試験講座の講師や個別指導、気象防災や気象環境のアドバイザーとして講演活動などを行っている。

文◎濱田麻美
写真◎Shutterstock、O-DAN

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