酷暑を乗り越えるサバイバル術![第1回]

夏の酷暑にご用心!
体温調節のメカニズムとは?

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夏は「危険な季節」である

「近年の夏は、普通に生活しているだけでも危険を伴う、厳しい季節になってきています」
 永島先生はこう語ります。

 なんでも「日本の夏が暑くなったのは、主に地球温暖化による気温上昇が原因とされていますが、実は気温自体が極端に上がっているわけではない」とのこと。

画像◎shutterstock

「『暑さ』は気温だけでなく、周囲の環境によっても変化します。空気中の湿度や道路からの照り返し、建物にたまった熱など、気温だけでは測定できないものが複雑に絡み合って『酷暑』が構成されているのです。特に都市部はこうした暑さの要因に当てはまるものが多く、より夏が厳しく感じられるでしょう」

 また、危険なのは「暑さ」だけではないのだとか。

「気候変動も問題視されています。最近は季節が変わるときの気温変化が顕著になっているのです。『春が短く、いきなり夏が来る』と表現されるほど急に暑くなるため、気温差によって体調を崩す人が増えています」

外出自粛は暑さへの適応を難しくする

 新型コロナウイルスの感染拡大で、外出自粛を余儀なくされることも多くなっていますが、こうした状況は、暑さへの適応にどのような問題をはらんでいるのでしょうか。

「人間が暑さに対処するためには『発汗』を軸とした体温調節機能を高めることが大切なのですが、屋内にいる時間が多くなるとそれが難しくなります」

 その理由として、「運動不足」が挙げられるようです。

「自粛によって歩くことが減りますし、意識しなければ運動不足に陥る人が大半です。運動は血流を促進させ、発汗を促し、体温調節機能の活性化につながります。暑さ対策としても非常に重要といえるのです」

 また、もう一つ重大な問題があるのだとか。

「『快適な空間にいる時間が増える』ことも見逃せません。室内で過ごすとき、暑いからと必要以上にエアコンで冷やしがちです。そうした環境に慣れ切ってしまうと、人間の体は周囲の環境に合わせて体温調節することを怠り始めるのです。そうして気温の変化に弱くなり、特に季節の変わり目に体調を崩すことにも繋がります」

 では、暑さをひたすら我慢して過ごせば良いのでしょうか。

「それは大きな間違いで、換気や空調を用いて、家の中を『不快ではなく、快適すぎない』程度の状態に調節することが大切なのです。掃除をする、勉強するなど家の中での暮らし方や作業の種類によって快適な室温は異なりますが、冷房の設定温度としては、衣服を着ていてやや暑く感じる28°C程度にしてみてはいかがでしょうか」

 これで気温差によって体調を崩さずに済みますし、体温調節機能も整えられ、暑さに対してある程度の耐性をつけることができるというわけですね。

「人間の体温調節機能」VS「暑さ」

 人間の体温調節機能は2種類存在します。

「人間には、体内の過剰な熱を血流によって皮膚に集め、環境へ放熱することで体を冷やす『皮膚血流調節』と、汗を蒸発させることで熱を逃がす『発汗調節』があります。これらの機能は連動して働き、効率よく体温調節を行っているのです」

 人間の体温調節機能は非常に優れており、条件によっては、気温が100℃でも1時間ほどなら生きていられるのだとか。しかし、この優れた機能が働かなくなる場合もあるのだそうです。

「外気温が高すぎる状況が続くと、皮膚血流調節で体内の熱を外気に逃がすことができなくなるため、体が冷えなくなります。ただ、こうした状況でも発汗調節が働き、体温は維持されるのである程度問題はありません。ですが、『湿度が高い環境』や『短時間に大量の汗をかいてしまった状態』では、汗を蒸発させることができないので体温が下がらず、体温調節できない状態に陥るため、注意が必要です」

 さらに危険なのが「脱水状態」だと永島先生は言います。

「人間は脱水状態になると、体温調節を犠牲にして、脳などの重要臓器に血を送り、必死に機能を守ろうとするのです。その結果、汗はかけないし血流が巡らず、うまく体温を調節できなくなり、全身のコンディションが悪化していくことにつながります。酷暑下では脱水状態になりやすいので、特に危険です」

 人間の持つ体温調節機能にも限界があり、さまざまな要因で正常に働かなくなることがわかりますね。次回はその異常事態として挙げられる「熱中症」について、引き続き永島先生にお話を伺います。

■お話を伺った方

永島計さん

博士(医学)。専門は体温・体液の調節機構の解明を中心とした生理学。85年京都府立医科大学医学部医学科卒業、95年同大学大学院医学研究科(生理系)修了。同大学附属病院研修医、米イェール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員などを経て早稲田大学人間科学学術院教授。著書に『体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』『体温の「なぜ?」がわかる生理学』など。

文◎熨斗秀信 撮影◎平野晋子

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