酷暑を乗り越えるサバイバル術![第2回]

突然かかってもおかしくない!
迫る熱中症の危険

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熱中症の危険性と予防

 さまざまなメディアで危険性が取り上げられている熱中症ですが、ちょっと頭がボーッとする程度のものと思っていませんか。実はこの熱中症、私たちが思っている以上にリスクが高いと永島先生は言います。

「熱中症は症状の判断が難しいうえ、短時間で危険な状態になってしまう病気です。重症化した場合の有効な治療方法はないため、まずかからないよう、各自がリスク管理をする必要があります」

 危険を回避するためには、この病気の原因を知る必要がありそうです。熱中症は「暑いから」かかってしまうと思われがちですが、実は違う原因もあるのだとか。

「一番の原因は、脱水状態になることです。体の水分が足りないと体温調節機能が働かなくなり、体温が上昇し続けてしまいます。そうして、臓器の機能が落ち、全身のコンディションが悪化するのです」

 脱水状態にならないためには、どのように対処するべきなのでしょうか。

「日常生活では、1時間に一度をベースとして、水分を頻繁に取ることが不可欠です。コップ1杯の水やお茶で水分を補給しましょう。ただ、激しい運動などをしている人は脱水量も多く、もちろん定期的に水分補給するだけでは摂取量が足りません。追加でスポーツドリンクなど電解質を含む水分を意識して多めに取る必要がありますね」

水分だけでは不十分

 ただ、水を飲むだけではしっかりと水分補給したことにはならないのだそうです。

「人間は、食事からも水分を取っています。食事が足りないと、水を十分に飲んでいたとしても、脱水状態になる可能性が高くなるのです」

 暑さに負けず、しっかりと食べることも熱中症対策として効果的なようですね。夏バテ気味だからと、冷たいものや素麺などのあっさりしたもの、水気の多いものばかり食べていると体の水分の維持に必要なナトリウムをはじめとするミネラル、タンパク質が不足してしまいます。例えば香辛料を含んだものを食べる、梅干しなどの食欲を増進させるとともに塩分が補給できるようなものを加えるな工夫が有効といえるでしょう。

 また、他にも身を守る術はあるのだとか。

「自宅やオフィスなど、長い時間を過ごす室内の気温や湿度を記録・管理することも有効です。暑さを計る指針として『WBGT(暑さ指数)』というものがあり、これは気温だけでなく、湿度や日射の影響を加味して『暑さ』を算出したものです。最近では暑さ指数を測定できる器具が一般向けにも販売されているので、それを使って記録していくと良いでしょう」

日常生活における熱中症予防指針

WBGTによる
温度基準域
注意すべき
生活活動の目安
注意事項
危  険
31℃以上
すべての
生活活動で
おこる危険性
高齢者においては安静状態でも発生する危険性が大きい。外出はなるべく避け、涼しい室内に移動する。
厳重警戒
28℃以上31℃未満
外出時は炎天下を避け、室内では室温の上昇に注意する。
警  戒
25℃以上28℃未満
中等度以上の
生活活動で
おこる危険性
運動や激しい作業をする際は定期的に充分に休息を取り入れる。
注  意
25℃未満
強い生活活動で
おこる危険性
一般に危険性は少ないが激しい運動や重労働時には発生する危険性がある。

※日常生活における熱中症予防指針(日本生気象学会「日常生活における熱中症予防」より)

「暑さ」を体感ではなく、データとして把握することで、より対策を立てやすくなるということですね。

年齢や性別で対処法が変わる

「どの年代も熱中症へのリスク管理を行うことは大切ですが、やはり年齢によって対策が変わってきますね」と永島先生は言います。

 環境の変化に対応しづらい人たちは用心しなければならないようです。

「特に子どもやお年寄りは、体温調節がうまく働かないため外気温の影響を受けやすいのです。水分補給だけでなく周りの環境に気を付けなければ、大事になってしまうことも考えられるため、自身はもちろん周囲の人が気にかけてあげましょう」

 さらに、お年寄りは「暑さ対策」が原因で体調を崩してしまうこともあるため、特に注意が必要なのだとか。

画像◎shutterstock

「例えば、暑い中水を必要以上に摂取すると、むくみなどの軽い心不全の症状が起こり、体調を崩してしまうことがあるのです。お年寄りは体全体の機能が若い人と比べると落ちているので、一般的に推奨されている暑さ対策をする中でも体が『おかしい』と感じる場合があります。何か異常を感じたらすぐにやめて、別の方法に切り替えたほうが良いでしょう」

 また、年齢だけでなく性別によって対処が変わることもあるようです。

「女性の場合は、更年期を境にホルモンバランスに変化が生じ、自律神経が乱れ体温調節がうまく働かなくなることがあります。その変化に気付かず『自分は大丈夫』と判断してしまう可能性があるのです。自分が『快適に』過ごせる環境がどのようなものなのか、常に意識しておきましょう」

 では、男性はどうでしょうか。

「仕事を退職した人は体を動かす機会が減り、体温調節機能の働きが落ちてくることが考えられます。極力、体を動かすようにして、暑さに対する体の機能を落とさないことが大切です」

 暑さに弱くなる原因が異なるため、それぞれ適切に対処していくことが大切なようですね。

 次回は暑い夏を乗り切るためのライフスタイルについて、引き続き永島先生に解説いただきます。

■お話を伺った方

永島計さん

博士(医学)。専門は体温・体液の調節機構の解明を中心とした生理学。85年京都府立医科大学医学部医学科卒業、95年同大学大学院医学研究科(生理系)修了。同大学附属病院研修医、米イェール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員などを経て早稲田大学人間科学学術院教授。著書に『体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』『体温の「なぜ?」がわかる生理学』など。

文◎熨斗秀信 撮影◎平野晋子

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