
厳しい暑さをしのぐ方法はいろいろありますが、何が正しいのか、何をしたら良いのかわからない場合もあるのではないでしょうか。今回は、夏を快適に過ごすためのコツを、早稲田大学人間科学学術院教授の永島計先生に解説いただきました。
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「現代の酷暑には、立ち向かうのではなく、極力避けるのが望ましいですね。いつも冷房のある環境とは限りませんので、工夫して暑さを回避していくべきです」と永島先生は語ります。
「なるべく、暑くない状況に身を置くことが重要になります。ごく簡単な対策としては外では日傘を差したり、日陰などの涼しい場所を歩いたりするのが良いでしょう。空調の効いた建物などで適宜休憩を挟みつつ、移動していくことも効果的です」
一方自宅の中ではどういった対策をとれば良いのでしょうか。
「大きな窓には日よけを使うのが良いでしょう。直射日光や照り返しをシャットアウトできるので、室内の温度が上がりすぎるのを防いでくれますよ。特に高齢者は直射日光から受ける影響が大きいため、積極的に取り入れることをおすすめします」
直射日光を家に入れないことが、家の中の温度を上げすぎないポイントのようですね。
リクシルでは、“室内温度”に着目し、省エネかつ健康・快適な暮らしを実現するために住まいでできることを、学びや体感を通じてお客さまとともに考え取り組む「THINK HEAT」活動を推進しています。
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家の中を涼しく保つには「風」を利用することが重要なのだとか。
「人間は体温が高いため、体の周りに暖かい空気の層ができています。そのため、いくら室温を下げても、涼しく感じられない場合があるのです。風を使って暖かい空気の層を吹き飛ばすことで、室温と同じ温度に身を置くことができます」
風が吹くと涼しく感じるのは、このような原理なのですね。
「扇風機や空調で風を起こし、屋内の空気を循環させることは、暑さ対策として効果的な方法といえます。この時、風を体に直接当てる必要はなく、あくまで『空気を循環させること』が重要です」
屋内の暑さを管理するには、空調の使い方にコツがあるそうです。
「『暑さ』には気温と湿度が関係しています。これらを空調でコントロールすることで、暑さを軽減できますよ」
部屋を冷やすのに冷房機能を使うのはわかるのですが、湿度の調節はどうすれば良いのでしょうか。「除湿機能を使う」などが思い浮かびますが……。
「除湿機能は電気代がはね上がるわりに室内が冷えず、効率が良くありません。冷房機能は部屋を冷やすだけでなく、ある程度除湿機能も兼ねているので、しっかりと暑さのコントロールができます」
冷房機能は気温だけでなく湿度も下げられるため、積極的に使って、暑さの管理をしていきましょう。ただし、快適すぎる環境に慣れると、暑さへの対応が難しくなるので、適度に外気に当たることもまた重要とのことです。
夏を快適に過ごすための冷感グッズはたくさんありますが「むやみに使いすぎないほうが良いでしょう」と永島先生。
「冷感グッズの中でも、体を直接冷やすアイテムは、注意して使わねばなりません。体内から出る熱を調節するための機能がそもそも人体には備わっています。冷却スプレーなどを使って暑さをごまかすと、それらの機能が正常に働かず、かえって体調を崩す要因になることもあるのです」
最近では携帯式の扇風機など手軽に持ち運びできる冷感グッズもありますが、いかがでしょうか。
「実は携帯式扇風機やファン付きジャケットは、残念ながら体の冷却機能には大きな期待を寄せることはできません。『涼しさを強く感じるようになるだけ』であって、体温調節に強く寄与しているわけではないのです。暑さ対策として一番効果があるのは、『汗をかくこと』。人間の発汗による温度調節機能に頼ることで、健康的かつ快適に過ごせると思います」
先生が言うには、発汗機能を促す「衣類の素材」が暑さに対して効果的なのだとか。
「例えば最近のスポーツウェアは汗を上手にかける工夫がされています。よく使われるポリエステルなどの素材は発汗機能を正常に機能させてくれるとともに、さらっとした快適感を与えてくれるので、暑さ対策にはうってつけでしょう。また、汗をかいているときは通常よりも自然風を涼しく感じるため、グッズをやたらと使うよりも快適に過ごせるはずです。ただし、汗をかきすぎると、不快に感じるのでこまめに軽く抑える感じで拭いていくと良いですね。また、汗をたくさんかけるからとサウナスーツを運動中に着るのは絶対いけません。これは、汗の蒸発を妨げ、熱中症のリスクを上げてしまいます」
また、ここで気を付けなければならないポイントがあります。
「汗をかくということは水分を失うということ。これまでもお伝えしてきましたが、水分と食事が極めて重要です」
きちんと水分や栄養を取り、汗をしっかりかくことが、暑さへの一番の対処法ということですね。
普通に生活するだけでも危険な季節となりつつある夏ですが、しっかり対策すれば健康的に過ごせるはずです。「暑さ」を甘く見ず、適切な対応をして、夏を楽しんで過ごしましょう。
博士(医学)。専門は体温・体液の調節機構の解明を中心とした生理学。85年京都府立医科大学医学部医学科卒業、95年同大学大学院医学研究科(生理系)修了。同大学附属病院研修医、米イェール大学医学部ピアス研究所ポスドク研究員などを経て早稲田大学人間科学学術院教授。著書に『体温の科学から学ぶ猛暑のサバイバル術』『体温の「なぜ?」がわかる生理学』など。
文◎熨斗秀信 撮影◎平野晋子