片づけられないのには理由(わけ)がある 第3回

言い訳せずに頭と身体を動かし、家族みんなで整理整頓から挑戦

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家族に自立を促す
甘えのない「お世話」が大切

 専業主婦の方に多いのは、夫にも子どもにも「過剰にやってあげる」のが特徴の「世話焼きタイプ」です。中村さんがセミナーなどでアンケートをとると、5~6割の方がこのタイプに該当するといいます。

 駅まで15分の道のりは「歩く」つもりで購入したマイホームなのに、いつの間にかクルマでの送迎が日常化してしまったというご家庭も、決して少なくないでしょう。片道5分の運転であっても、家事の手を止め、着替えたり、髪を整えたりして送れば、朝の忙しい時間帯に20~30分のロスタイムができることになります。これが毎日となると大仕事です。

 お子さんのいる家庭では、お弁当を詰めて、忘れ物がないかのチェックをしてあげて、着替える洋服を決めてあげる……。こうした「やりすぎお世話」の積み重ねが体力を消耗させ、家の片づけまで力が及ばないという悪循環を生み出しているケースは、意外と多いものです。

 でも、学校の持ち物にも指定席があり、着替えも普段着の数セットが決まっていれば、お子さんは悩まずに自分で朝の準備ができるようになります。
「うちの息子は小学生の頃からトップスとボトムスは洗い替えが必要なため季節ごとに2着ずつ。それに上着は薄手と厚着のパーカー、真冬のダウン1着という、13着の洋服だけで生活しています。まもなく高校生になるので、もう少し増やすことも考えています」という中村家。

 お嬢さんが小学生のとき、学校給食がなくお弁当だったそうです。幼稚園生の時から自分でカバンに詰めさせていましたが、小学校4年生の時に“私だけがいつも寄り弁”と言うので理由を聞くと、クラスの半数以上はお母さんが一旦ランドセルから教科書類を全部出してお弁当を底に入れてから、また教科書を入れ直してくれているということを知ったといいます。お世話焼きタイプの人が子どもに対してやりすぎている。これでは、「自分でやる」という習慣は身に付きません。

 また、結婚するまで片づけということ知らなかったご主人のためには、通勤用の靴下をすべてデザインが同じものにそろえたそうです。これなら、組み違えることも、左右の区別もありません。そんなご主人が単身赴任。心配で赴任先のアパートに行ってみると、想像以上に部屋が片づいていたそうです。洗濯が終わったら靴下専用、下着専用と決めたそれぞれの引き出しに「放り込む」というやり方を自ら編み出していました。これには中村さんも感心したそうです。

 こんなエピソードを伺うと、一つずつの行動に手をかけるのではなく、夫や子どもが自立しやすい環境を用意してあげることが本当の「お世話」だと気づかされます。

片づけができなかった中村さんのご主人ですが、いまでは元の場所に戻すことができるようになったそう。習慣は定着する。

 一方で、「『苦手意識タイプ』『怠け者タイプ』の方なら、普通の人以上にシステム作りが必要になる」のだとか。
洗濯機を回している間に、食器とリビングの片づけを終わらせておくなど、朝の限られた時間は、タイムスケジュールなどで管理するのも有効的かもしれません。

「定位置を決める」という指定席方式は片づけの基本は共通ですが、「どうしてもリモコンが片づけられない」などという場合は、機械の近くでではなく、ソファーなど皆がくつろぐ場所を定位置にして、リモコン専用のトレーを用意してそこに収める。慣れてきたら引き出しの中にリモコンをしまうというように、段階を追って片づける習慣を定着させていく方法もあります。

 定位置が決まり、動線と伴って動きがシステム化されれば、リバウンドを防ぐ効果にもつながるというものです。

家中のモノに一つずつ「持つ」理由を与える

「収納とは在庫管理」という中村さんは、「基本的にストックは不要であることを知ってほしい」といいます。筆記用具のように、他にも代用できるのであれば、インクがなくなって書けなくなった時に、次の1本を選んで購入するというスタイルで十分。トイレットペーパーや洗剤など「切らしたら困る必需品」であっても、明確な理由を持って数を管理していきましょう。

「物欲タイプ」の方にありがちなのが、「安かったから」「送料無料だったから」という理由で在庫を増やすこと。これが続けば、一つひとつは小さなモノでも、やがて大きなスペースを埋めることになってしまいます。
 そして、一番厄介なのが「モノが多すぎて、どこに何があるのかわからない」という状態に陥ることです。

 このような状態を招いてしまうと、探しているモノが見当たらないから新しいモノを買ってしまい、さらにモノが増えるという悪循環がはじまります。

モノは必要最小限にとどめる。玄関には外出時にもっていくものを整理。このボックスにはクルマや自転車のキーやサングラスが格納されている。

 残すモノと処分するモノを仕分けするときのコツは、「捨てるモノを選ぼう」と思わないこと。なぜなら、捨てるモノ選びは気持ちが辛くなるだけで、はかどらないからです。
 いらないモノを選ぶのではなく、本当に使いたいモノ、必要なモノ、好きなモノだけを「選ぶ」というスタイルで分別していくほうが、気持ちも楽になるのだそうです。

 厳選したモノだけを種類ごとに仲間分けをして「文房具はここ」「工具はここ」と決めておけば、探す手間もかかりません。悩みに悩んで選び抜いたわずかなアイテムなら、何がいくつ残っているのかを忘れてしまうこともないでしょう。

「ついつい買いすぎてしまうという方は、『家の中のモノが、どこにいくつあるのか?』ということを把握できるまで、徹底的に自分の持っているモノと向き合ってください。最初は本当に辛い作業だと思いますが、この経験があれば、むやみに不必要な品を家に招き入れる習慣もなくなるはずですから……。これからの人生で、お金の使い方も変化するはずです」(中村さん)

言い訳は部屋も気持ちが片つかない元凶?

「片づけは身体を動かすことからはじまりますが、それ以上に頭を最大限に使わなくてなりません。『わかっている』『やろうと思っている』と言うだけでは、いつまでたっても片づかないのは当然ですよね。学んだことは、素直に挑戦してみる。苦手でも苦しくても努力する。そんな素直さが何かを学ぶ上で一番大切になる」という中村さん。
 これまでたくさんの片づけサポートをしてきた結果、素直な人ほど片づける技術を吸収して、自分の生活に生かすことができているということに気づいたそうです。

「素直な心で受け入れると身に付く」という中村さんの考え方は、すべてのことに共通するように思います。まずは、頭と身体を動かしてスッキリ生活できる空間を目指して、家族で整理整頓から挑戦してみてはいかがでしょうか。

お話を伺った方

中村美香さん

整理収納アドバイザーとして、収納に関する著書多数。ブログ「美しい暮らしのエッセンス」では、すぐに役立つ収納やハウスキーピングの情報を発信中。

文◎山田章子 撮影◎末松正義

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)