片づけられないのには理由(わけ)がある 第2回

収納は「体力勝負」ではなく「頭脳戦」と心得る

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すべてのモノに指定席設ける

「『世話焼きタイプ』『逃避タイプ』の人の多くは、『家族が汚すから部屋が片づかない』と言いますが、家族のせいにする前に、まずは片づけやすい環境ができているのかを確認してください」と、なかなか厳しい指摘をするのは「美的ハウスキーピングサロン」を主宰する中村美香さんです。

 もともと部屋やテーブルの上が散らかっている環境であれば、子どもに片づけの習慣はつきません。おやつを食べたら食べっぱなしになるし、カバンも放り投げて出かけて行くかもしれません。
 読みかけの雑誌や学校のプリントが何枚も食卓にあれば、ご主人も読み終わった新聞を放置していいと思ってしまいます。
でも、キレイに片づいた部屋で「新聞はここ」とスペースを決めておけば、読み終えたその場に置きっぱなしにすることもなくなるのではないでしょうか。

 すべてのモノに定位置を決めてあげることで、家族は置き場所に困ることがなく、探し物で無駄な時間を費やすこともなくなります。定位置が決まっていない部屋で「汚さまいで!」「片づけて!」と言っても家族は混乱するだけなのです。
「定位置」を決めるポイントは、家族の動きをよく観察して、動線を配慮してあげることが重要になります。「ここなら取り出しやすく、片づけやすい」という最適な定位置を、家族と一緒に考えるのもいいかもしれません。

美しい収納を実践するなら中身は5~6割にとどめる

 前回ご紹介した通り、「物欲タイプ」や「逃避タイプ」の方は、収納の適量を見極める技術が必要になります。
「過去に片づけを手伝ってきたお宅の中には、何百本ものペンや、同じようなメモ帳がリビングの引き出しを占領していたというケースもありました」と、中村さん。

「このような場合は、1本1本のペンについて、『これは何に使うのか?』と考え、使うモノが残ったらそれを同種の仲間で集めます。こうして、使わないモノを選別したら、引き出しがまるまる空いたというケースも珍しくありません」

 空いたスペースには、もっと使用頻度の高い厳選したモノだけを入れておくよう、中村さんは指導しています。引き出しを開けたときに綺麗に整頓されているだけで、気分も上がります。
 もちろん、仕事や趣味で使うモノならば捨てる必要はありませんが、それは個々のパーソナルスペースを確保して、そこに収めればいいのです。

中村家の文房具入れ。たったこれだけで、用は足りるという。

 今回の取材では、中村さんが「スーパーゴールデンゾーン」と呼ぶケースを見せていただきました。
 家族全員が使う文房具を、最高に使いやすいスペースに入れるケースです。用途の異なる筆記用具が3本と、セロハンテープやのりなどが、1つずつ綺麗に並んでいます。
「家族がリビングで使う文房具はこれだけです。学校や仕事で使う個々の文房具は各自の部屋で管理してもらっています」とのこと。

 モノの本には「収納は2割の余裕を残し、8割に留めるといい」とありますが、「引き出しを開けたときにより美しさを追求するならば、収納は5~6割までがいい。さらに、色や質感を統一すればより美しい収納といえるでしょう」と、中村さんは言います。

 洋服や靴も同じです。限られた収納スペースだからこそ、収まる数でやりくりする工夫を家族で協力しながら決めていきます。キャンプや釣りの道具など、たまにしか使わないモノは、片づけ後にできたスペースにしまいます。

 スペースに余裕がないからと、レンタル収納ボックスなどを利用するということは考えないでください。「私は大反対です。お金を支払ってまで、それを保有する価値があるのかどうか」と考えてみましょう。

「『安かったから』『収納が少ないから』といっても、モノを買ったのは自分、家を選んだのも自分です。その家に合った生活を心がけさえすれば、無駄が排除されてスッキリ暮らすことができるはずです」と、少し厳しい中村さんの言葉にも、納得せざるを得ません。

「うちの娘はいま、自分で衣服を選んで購入してくる年頃ですが、新しいモノを買ってくると『お母さん、大丈夫。古いのを捨てるから』というように、購入後の収納のことを考えられる習慣がついてきました」

 中村家のお嬢さんは、決して片づけが得意でないそうです。でも、収納場所はどこなのかを頭の中でしっかり計画する習慣をつけることで、何とかできるようになったのだと言います。

リビングから片づけると失敗する

 いざ片づけようと決心したとき、どこから手を付ければいいのでしょうか?
「片づけには順番があります」という中村さん。
「多くの人は、まず、リビングをスッキリさせたいとおっしゃいますが、実はリビングは後回しになり、最後に整理する場所になるケースが非常に多いです」

 リビングの引き出しは雑然としがちです。子どものシール、お土産のストラップ、クレジットカードのような貴重品……。それらが一緒くたにされている、ブラックボックスと言えるでしょう。
みんなが使う空間なので、最初にキレイにしたいと思うかもしれませんが、実は片づけの難易度は最も高いのです。

範囲もアイテム数も限られ玄関まわりは、片づけが苦手な人でも比較的取りかかりやすいスペースだと中村さんは言う。

 リビングでありがちなのが、「小さいモノはすべて引き出しに入れる」というグループ分け。実はこれが、片づけを難しくしています。
 サイズが同じでも、用途が異なるモノが混在していては、整理されているとは言えません。しかし、細かなモノを分別するのは、簡単そうに思えて、意外と神経を使う作業になるのだそうです。

 モノには定位置がありますが、こうした雑多なモノから定位置を決めていくよりは、クローゼットや押し入れなど、広いスペースで、比較的同じ種類のモノが保管されている場所から手をつけるほうが、スムーズに事が運びます。

 そして「すべてに共通するのが、本当に使えないモノを捨てるのは単なるゴミ捨て。使えるけれど使わないと判断したモノまで片づけてこそ、本当の整理」とも、中村さんは言います。
 まずは種類ごとに集めて、使用頻度の高いモノから順に、取り出しやすい位置に配置していきます。

 たとえば、子ども部屋にシールの保管場所をつくったら、家じゅうのシールはこの中に収まります。当然、リビングの引き出しにあったシールもお引越しです。
 洋服はクローゼットに、かばんは各自の決められた場所にというように定位置を決めておけば、おのずとリビングに残るモノは限られてきます。

 リビングは、家族全員が集うスペースだからこそ、厳選した必要なモノだけを納めて、スッキリ過ごせる空間を維持したいものです。
 また「苦手意識タイプ」「怠け者タイプ」の方なら、まずは、玄関まわりからはじめるのも良いかもしれません。範囲もアイテム数も限られているので、片づけが苦手な人でも比較的取りかかりやすいスペースだと中村さんは言います。

 整理整頓とは、体力勝負ではなく頭脳戦なのです。

(第3回につづく)

お話を伺った方

中村美香さん

整理収納アドバイザーとして、収納に関する著書多数。ブログ「美しい暮らしのエッセンス」では、すぐに役立つ収納やハウスキーピングの情報を発信中。

文◎山田章子 撮影◎末松正義

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)