わが子に伝授「片付け術」[第1回]

片付けは「自分で決める」の
練習になる

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子どもにこそ「片付け」が必要な理由

 モノが散らかっていると大人でも落ち着かない気持ちになりますが、それは子どもにとっても同じこと。そもそも、なぜ散らかっていると落ち着かないのでしょうか。

「モノの量が多いということは、情報量が多いということです。しかも子どものモノは、戦隊フィギュアやぬいぐるみ、電車や車、絵本など、色が派手。だから、余計にごちゃごちゃして見えるのです。さらに子どもは、情報を瞬時に処理する力がまだ育っていません。多すぎる情報は、子どもの頭を混乱させることになります。
 数が多いだけでなく、散らかっていたらどうでしょう? そんな空間で何かに集中しようと思っても難しいですよね。もともと子どもは大人に比べ、集中力が長時間続きません。子ども向け番組が長くても15~20分くらいなのは、子どもの集中力に合わせているからなんですよ」

 だからこそ、大人以上に子どもの片付けは大事なのだそうです。

 限られたスペースをすっきり使うには、おもちゃを与えすぎないことが肝心。
 しかも「落ち着きのある・なし」と「おもちゃの多い・少ない」には因果関係があると言います。

「共働きなどで子どもと遊んであげられない罪悪感のせいなのか、ねだられるままに多くのおもちゃを買ってしまう親御さんがいます。おもちゃメーカーの戦略にまんまとハマり、シリーズものを揃えた経験がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし子どもに与えるなら、『創造性を育む』という観点で、折り紙、ブロック、積み木など、その子の工夫しだいで遊び方が広がるおもちゃを厳選して選ぶといいのではないかと、私は思います。
 ただし、『買い与え過ぎ』には注意が必要です。私が相談を受けるご家庭でも、『うちの子は落ち着きがない』と話すご家庭のほうが、おもちゃが多い傾向にあります。おもちゃが多ければ、飽きたら次へといくらでも変えられるので、集中力は養われません。それに量が多ければ、お片付けも大変ですよね」

「いる、いらない」を自分で判断する

 すでにおもちゃがたくさんあるケースでは、どのように改善すればいいのでしょうか。
 石牟礼さんは、「おもちゃを減らすには、お子さんと一緒に考えていったほうがいい」と説明します。

「私がお客さんのもとへ出向き、子ども部屋を片付ける場合は、必ずお子さんに立ち合ってもらい、一緒にやるようにしています。そのモノがいるか、いらないかは、本人でないと判断できませんからね。意外にも子どもは、遊び尽くして興味がなくなったモノはすんなりと手放します。むしろ親のほうが『去年買ったばかりじゃない……』といった具合に執着が出て、捨てられないことが多いんですよ(笑)」

 加えて、おもちゃの選別を自分で考えさせることは、子どものさまざまな能力を鍛えることにもつながるのだそうです。

「子どもは自分の気持ちに素直です。“いる、いらない”を自分で決めることは、お子さんの判断力や決断力、先を見通す力など、さまざまな要素を鍛えるのにうってつけです。だから、おもちゃを選別するときには、親御さんにはなるべく見守ってもらいたいものです。何かを決めるときに親が口を出しすぎてしまうと、『私はいらないけど、ママがまだ買ったばかりだって言うから……』といった思考が癖になり、常に親の顔色を伺うようになってしまいます。
 こうなると、成長してからも『どうせ自分の意見は通らないし、考えてもムダだ』『最初から自分で考えないほうが傷つかず、ラクでいい』といった考え方に凝り固まってしまうかもしれません。片付けにおいて“自分で決める”ということは、判断力、決断力を鍛える絶好のレッスンにもなるのです」

「自分で決める」ことが自己肯定感を育てる

 片付けと同じように、おもちゃを買うときも、なるべく自分で選ばせることが大事です。

「選ぶという行為はその子の個性をつくっていきます。今は多様性が尊重される時代なので、男の子が人形で遊び、女の子が戦隊好きになることもあるかもしれません。自分でおもちゃを選び、それで思いっきり遊ぶことで、子どもは自分らしさを形成していきます。また、自ら気に入って買うと愛着が湧くので、モノを大事にする子になります。
 子育てで目指すところはいくつかありますが、その一つに『自立』があると思います。そのためには、子どもの頃から自分で自分のことを決める習慣を身につけていただきたいと思います。自立の第一歩として、片付けを習慣づけてみてはいかがでしょうか」

受験中は散らかったままでOK?

 片付けは忙しいとつい後回しにされがちです。
 ただ、忙しいからこそ、片づいた状態を心がけると効率がアップすることも多いそうです。

「最近は中学受験を見据えて、小学校低学年から受験勉強を始めるご家庭も増えています。そういうご家庭でときどき見かけるのは、個室はもちろん、リビングまで問題集や塾のプリントで埋め尽くされ、家全体が受験モードで殺伐としている状態です。受験は長期戦です。家族が協力するとはいえ、家じゅう受験モードでは、子どもも苦しくなるでしょう。集中するときと、リラックスするときというメリハリは大切でしょう」

 石牟礼さんは、勉強に忙しい受験中こそ、片付けをしっかりしてほしいと指摘します。なぜなら、片付けが一つの区切りになるからです。

写真◎Shutterstock

「例えば、算数のドリルが終わったら一旦片付けて、机の上をすっきりさせます。すると『ここまで終わらせたな』という達成感が生まれます。その後は気持ちがリセットされて、『また次を頑張ろう』という気持ちになるのです。逆にドリルが途中の状態で、別の問題集に取り組んだりすると、すべてが中途半端になってしまいます。一つとして終えることなく、何をどこまでやったのかもわからなくなってしまうのです。これでは頭の中も混乱してしまいませんか? 仕事でもそうですが、小さな作業でも『終わった』という達成感を味わうのはとても大切です。それが効率アップにつながってきます」

 教育において、片付けが多くの役割を果たすことがよくわかりました。
 次回は「片付けられる子の育て方」についてお伺いしていきます。


(第2回に続く)

≪お話を伺った方≫

石牟礼ともよさん

整理収納アドバイザー。愛知県犬山市出身。整理収納アドバイザー1級、ライフオーガナイザー1級、福祉住環境コーディネーター3級。片付けを仕事にして10年。お片付け訪問・相談実績は延べ750軒以上。整理収納・ライフオーガナイズの知識と、家事代行業の経験を生かし、「ママだけが頑張らなくていい、家族が自分で自分のことを完結できる家づくり」をサポートしている。

文◎濱田麻美

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)