地震に強い家具のレイアウトと収納[第1回]

命を守るため寝室の防震対策は最優先

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レイアウトを考えるときに最も大事なこととは?

「私が防災について考えるようになったのは、1995年1月17日に起きた阪神・淡路大震災がきっかけです。当時の私の住まいも神戸にありましたが、震源地からは少し離れていたので、揺れは震度3~4くらいでした。それでも奥行き45センチの和ダンスが前に5センチほど移動したり、食器が割れたりしました」と語るのは、防災士・救急救命士の資格を持つライフスタイリストの土谷尚子さんです。

 それ以来、土谷さんは、部屋のレイアウトをプランニングするときに、「ある程度大きな地震が来てもなるべく被害が出ないように」を念頭に置くようになったそうです。

「プランニングするときに考えるのは、まず死亡事故が起きないようにすること。次いでケガをしないようにすること。そして、ある程度大きな地震が来ても家具が倒れたり、物が壊れたりしないようにすることです。だいたい震度6弱くらいの揺れまでは物的被害が起こりにくい家具のレイアウト、収納の仕方を考えます。それ以上の揺れでも生命の危険やケガを極力防ぐように対策をします」

震度と揺れの状況
震度0人は揺れを感じない。
震度1室内で静かにしている人の中には、わずかに揺れを感じる人もいる。
震度2室内で静かにしている人の大半が揺れを感じる。
震度3室内にいる人のほとんどが揺れを感じる。
震度4ほとんどの人が驚く。吊り下げたものが大きく揺れ、座りの悪いものが動く。
震度5弱大半の人が恐怖を感じ、ものにつかまる。棚にある食器や本などが落ちることがある。固定していない家具が動き、不安定なものは倒れることも。
震度5強ものに捕まらないと歩くことが難しい。棚から落ちる食器や本などが多くなる。補強されていないブロック塀が倒れることがある。
震度6弱立っていることが困難になる。固定していない家具のほとんどが動き、倒れることもある。壁のタイルやガラスが破損することがある。耐震性の低い建物の瓦が落ちたり、建物自体が傾いたりすることがある。
-----ここまでは極力被害が出ないようにしやすい。-----
震度6強這わないと歩くことができない。人が飛ばされることがある。固定していない家具のほとんどが動き、倒れることが多くなる。耐震性の低い木造の建物は傾いたり倒れたりする。大きな地割れや地滑り、山林の崩壊が起こる。
震度7耐震性の低い木造の建物は倒壊したり傾いたり倒壊するものが多くなる。耐震性の低い鉄筋コンクリートの建物では、倒れるものが多くなる。

※気象庁「震度とゆれの状況」(www.jma.go.jp/jma/kishou/know/shindo/)を元に作成。

眠っているときにも地震は起きる!

「キッチンやリビングにいるときに地震が起きても、よほど震源地に近くない限り、初期振動を感じたらすぐに身構えることができます。けれど、寝室でぐっすり眠っているときに地震が起きたら、本震がきてから飛び起きることもありますよね。ですから寝室の防震対策は最優先。大きな地震が起きてもベッドの上に物が飛んできたり、棚やタンスが倒れてきたりしないようにしなければいけません。

 例えばタンスのような壁に寄せてある背の高い家具は手前に倒れますから、もしそうした家具があるなら、倒れやすい方向にベッドを配置しないこと、そして家具をしっかり壁などに固定することが大切です」

新しい家のほうが安全度は高い

 近年発生した大地震で家具の転倒や落下によってケガを負った人の割合は、東京都耐震ポータルサイトによると、およそ30~50%というデータがあります。

「新しい家ほどクローゼットなどの造り付けの収納がありますから、背の高いタンスのように倒れやすい家具を置いている家よりも安全度は高まっています。背の高いタンスをお持ちのご家庭は、洋服などを整理して荷物を減らし、背の低いタンスに替えることもおすすめです」

防災もおしゃれも諦めない!

 安全度を高めるためには寝室になるべく物を置かないほうがいいのでしょうが、何もない、味気ない部屋になってしまうのは避けたいものです。おしゃれな空間にしつつ、安全度を高めるにはどうすればいいのでしょうか。

「大丈夫です。工夫ひとつで、しっかり防災対策した上でおしゃれな空間にすることは可能ですよ」と土谷さんは言います。

「寝室はリラックスをする空間ですから、絵や写真などを掛けたいと思う方は少なくないでしょう。ベッドの頭のほうに絵を掛けたい方もいると思いますが、そうした場合は落ちてこないようしっかり固定してください。また、ベッドの足側に飾れば、万一落ちてきてもケガをする危険は減ります」

 ベッドに横になって過ごす時間が長い寝室は、座ったり立ったりするリビングやキッチンより目線が低くなるので、家具をそれに合わせた高さにすることも、おしゃれに見せるポイントのようです。

「ベッドサイドテーブルやドレッサーなども高さが抑えられたものを選べば、安全性とおしゃれ感を両立できます。そして上にこまごました物をなるべく置かないこと。空間が広く感じられ、落ち着いた雰囲気を醸し出せます。インテリアのアクセントになる読書灯なども、背が高くて倒れやすいフロアタイプのものではなく、ベッドサイドテーブルに置ける小さいものや、壁に固定できるものを選ぶといいでしょう」

 次回はリビングなどの家具の固定についてお伝えします。

≪お話を伺った方≫

土谷尚子さん

株式会社ビケンコーポレーション代表取締役。インテリアコーディネーター歴22年。インテリアや暮らし方、インテリア写真の撮り方などをテーマに、のべ220団体の企業や行政機関での講座開催実績を持つライフスタイリスト。防災士の資格を持ち、「インテリアでできる地震対策」などの講演も行う。

文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真◎Shutterstock

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