地震に強い家具のレイアウトと収納[第3回]

割れものが多いキッチン。食器をどう守る?

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地震後に一番危ないのはキッチン!

 大きな地震がやってきた! 家具が倒れたり物が飛んだりしたけれど、家族は全員無事が確認できた! となれば、まずは一安心ですが、その後は家の中の片付けが待っています。

「本などの片付けも大変ですが、キッチンはもっと大変で、なおかつ非常に危険です。刃物や、割れた食器やグラスの破片が飛び散っていたり、調味料の瓶が割れて中身もばらまかれていたりしたら、途方に暮れてしまうでしょう。それでもなるべく早く片付けないと、ケガをする危険は増すばかりです。片付ける際は、決して素足で歩いてはいけません。スリッパなどを履いていても慎重に動いてください」

 土谷さんは、そんなキッチンを地震に強くするために取るべき対策の基本は、割れものを極力割れないようにすること、すなわち「割れものを上に置かない」ことだと言います。

「調味料やお酒などの瓶ものをキッチンの高い位置に置いていると、落ちたときに割れやすく、人にも当たりやすいので非常に危険です。割れものを低い位置に置くようにするだけでも、地震が来たときの安全性はかなり高まります。例えばシンク下のスペースにしまうようにするといいですね。扉が閉まる場所ならば、より安全性が高まりますし、地震後の片付けも楽になりますよ」

食器棚から食器が飛び出さない工夫

 同時に食器棚の工夫も必要だそうです。

「背の高い食器棚の場合、本棚と同じく壁などに固定することから始めましょう。加えて、ガラス扉の場合はガラス部分に透明の飛散防止のフィルムを貼るといいでしょう。開き戸タイプのものならば、開口部にかかるロックなどを付けるのもおすすめです。ロックを付ければ食器を出すときにいちいち外さなければならず、ほんの少し使い勝手は悪くなりますが、地震が起きて食器が飛び出し、割れて床に散乱することを考えると、はるかにいいと思います」

 飛散防止のフィルムや扉に付けるロックなどは、ホームセンターや通販などで買うことができます。取り付けも簡単ですから、ぜひやってみてください。

「繊細で割れやすい高価なワイングラスなどは、たいてい箱が付いていると思いますので、使用後に拭き上げたら箱にしまうほうが安全です。ずらりとグラスが並んでいるのは美しいですが、いざ地震が来ると、さほど大きな揺れでなくとも、全部割れてしまいます。割れたガラスの上を歩くのは危険ですし、きれいに片付けたつもりでもどこかにかけらが落ちていてケガをする危険性があります」

 さらに、食器を減らして、食器棚そのものを低いものに替えることもおすすめだと言います。

「実は、食器はどのお宅でも必要以上に多いものなんです。普段使う食器と、特にお気に入りの、ごちそうなどを盛る食器を選び抜いて、それ以外は処分してしまってはどうでしょうか。数を減らした上で、重いものや割れやすいものはなるべく下のほうにしまいましょう」

使わない食器を処分して買い換えた低い食器棚(写真提供:土谷尚子)。

 土谷さんは、実際にご自宅の食器を整理し、背の高い食器棚を1本処分して、腰くらいの高さのものに買い換えたそうです。

「たくさん収納するためには背の高い食器棚が必要、と考えがちですが、逆に、物を減らして低めの食器棚にすると、防災面でとても安全性が高まりますよ。背の低い家具にすることで、狭いダイニングキッチンもゆとりが感じられるようになるというメリットもあります」

冷蔵庫もしっかり固定を

 食器棚と同じく冷蔵庫も、大きな揺れで倒れたり、大きく移動してしまうそうです。

「ダイニングテーブルや椅子などは、たとえ倒れたり移動したりしても、さほど大きな被害は発生しませんが、冷蔵庫などの大型の家電が倒れると非常に危険です。倒れるまでにはいかなくとも、大きく揺れれば上に置いてあるものが落ちてきます。缶詰のストックなどを置いているご家庭は多いですが、そんな硬いものが落ちてきたら本当に危険です。ですから、冷蔵庫の上にはなるべく物を置かない。そして、テレビや本棚同様に固定するといいでしょう。冷蔵庫を固定するには、転倒防止用のベルトや金具付きのストラップがあります」

 転倒防止ベルトなどの固定器具には、手軽に接着パッドで貼り付けられるものから、壁などにアンカーボルトを打ち込むものまでさまざまなタイプがあります。石膏ボードなどの壁にアンカーを打ち込む場合は、下地がある位置に打ち込むと、よりしっかりと固定できます。下地がある場所を探すには、数千円から1万円くらいで買える「下地センサー」という道具があります。

 土谷さんは、こうした大型家電や重量のある家具を置く場所についても注意が必要だと言います。

「例えば、トイレの入り口の前に置くのは避けましょう。昔から、トイレは四方を柱や壁などに囲まれているので揺れに強く、大きな地震が来たらトイレに逃げ込めば安心と言われてきました。たしかにその通りなのですが、もし逃げ込んだあとに大きな家具が倒れて入り口を塞いでしまうと、外に出られなくなってしまいます。まず家の中の避難経路を考えてみて、そこが塞がらないように家具や大型家電を配置すれば、大地震が来てもしっかり安全を確保できます」

 地震はいつやってくるか予測できません。早め早めに自分の家を見直して、安全な空間をつくっておきましょう。

≪お話を伺った方≫

土谷尚子さん

株式会社ビケンコーポレーション代表取締役。インテリアコーディネーター歴22年。インテリアや暮らし方、インテリア写真の撮り方などをテーマに、のべ220団体の企業や行政機関での講座開催実績を持つライフスタイリスト。防災士の資格を持ち、「インテリアでできる地震対策」などの講演も行う。

文◎坂井淳一(酒ごはん研究所)
写真◎Shutterstock

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