昭和55年仕様で建てられた住宅の
冬の室内温度を体感
今回訪れたのは、大阪市住之江区にある「LIXIL 住まいStudio大阪」。実際に古い家とリフォームした家の温度を体感できるショールームです。ディレクターの門脇一彦にお話を聞きました。
「この施設は、住宅の断熱性能の違いによる冬の室内温度の感じ方、夏の強烈な日差しの対処方法など、一年を通して快適な暮らしを送るために必要なことを学んでいただける“体験型ショールーム”です。今回は、日本の冬を想定し、0℃に設定した巨大な冷凍空間に建てられた『昔の家』と『リフォーム後の家』の温度の違いを感じてもらいます。
最初に入ってもらうのは、日本で省エネルギー法基準の住宅が最初にできた昭和55年の仕様で建てられた『昔の家』です」
それでは「昔の家」に入ってみましょう。
昭和55年「省エネルギー基準」がスタートした頃の家
0℃に設定された空間に「昔の家」が再現されている
足を踏み入れてまず感じたのが「ひんやりする」ということ。でもエアコンを見ると、20℃に設定されていて、エアコンからは勢いよく温風が出ています。ただ、部屋はそこまで暖かくて心地よいという感じではありません。
より床の温度を体感するために、スリッパを脱いで室内を歩き回ってみました。スリッパを脱ぐと思った以上に冷たい! さらに窓際に行くと床の冷たさはグッと増します。
古い家が寒い原因①「窓」
では、昔の家は、どうしてここまで底冷えするのでしょうか?
1つ目の大きな要因は、窓のつくりです。
昔の家の窓辺は単板ガラスにアルミサッシが一般的
「室内の暖かい空気の大半は窓から逃げると言われています。昔の家の窓は薄い単板ガラスで、窓枠は熱を伝えやすいアルミサッシが使われています。そのため、暖房で暖めた室内の暖かい空気が、冷たい窓辺で一気に冷やされてしまうのです。
さらに、単板ガラスを使っていると室内外の気温差で結露が発生し、部屋にカビが発生しやすくなります」
実際に窓ガラスに触ってみると、とても冷たいのがわかります。体感を温度で示す特殊な温度計で窓辺付近の温度を計ってみたところ、窓のそばの温度はわずか8.8℃。さらに窓下のサッシ部分周辺の温度に関しては、なんと部屋の中なのに3.5℃しかありません。窓辺の下にいくほど、冷えていることがわかります。また、部屋の端のほうの床も5.4℃と冷たく、スリッパなしだと辛くなってきます。
ここで実際に窓辺に設置された椅子に腰を掛けてみました。しばらく座っていると、背中からくる窓辺の冷気でゾクゾクしてきます。ブランケットなどを羽織らないと、座っているのが辛くなりそうです。こうして実際に昔の家に入ってみると、窓から部屋が冷えているのがよくわかります。
古い家が寒い原因②「隙間風」
(画像:Shutterstock)
昔の家が寒い2つ目の原因として、隙間風が挙げられます。
「現在の戸建て住宅は、高気密化によって隙間風が入らないような仕組みになっていますが、古来の日本家屋は小さな隙間から冷気が入り込み、一向に室内が暖まりません。経年劣化が原因で建物がへこんだり、ゆがんだりすると、さらに冷気が入ってきてしまいます。だから部屋の中でも息が白いような状態になってしまうのです」
古い木造住宅には、外気が床下から家の中に入らないようにするための設備である「気流止め」がないことも多く、床下の冷たい空気は室内の空気に暖められると壁の中の隙間を上昇していきます。その際、壁の中の冷たい空気が室内の温度を奪うため、暖房を入れても室内が温まらないのです。
古い家が寒い原因③「断熱材」
「昔の家」の構造と壁の断面図。壁の間やコンセントまわりのすき間から冷気が入りやすい
3つ目は断熱材です。
「昔の家は断熱材が使われていない、または使われていても現在のものに比べると薄く、壁の中に隙間が生まれてしまうのです。そして冬はその隙間から床、壁、天井に冷気が入り込むため、家全体が暖まりにくくなります」
この「昔の家」に入れられている断熱材のグラスウールは、一般的な基準の約5cm。厚みがなく、壁や床下、天井の間に隙間が生まれ、冷たい空気が巡回しやすくなってしまうことがよくわかります。
昔の家が底冷えするのには、このようにいくつかの原因があります。これではエアコンだけで部屋を快適な温度に保つのは、なかなか難しそうです。
さらに、古くて寒い家に暮らすことは、単純に「寒くて不快」という以外にも、実はさまざまなデメリットがあります。第2回では、それらのデメリットについて考えていきたいと思います。
(第2回に続く)
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