犬との暮らしは、心・体・頭に効果絶大! 第1回【子ども編】

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子どもの心を豊かに成長させてくれる

 この春、医学や獣医学などの専門家で結成された「人と動物の関係学研究チーム」が、ペットが人にもたらす効果について国内外の科学的エビデンスを総ざらいしたところ、驚くべき結果が分かったのです。1回目の今回は、犬との暮らしが子どもにもたらす効果について、研究チームの統括を務めた東京都立大学名誉教授の星旦二さんに伺います。

 ペットと暮らすと、優しく思いやりのある子に育つ――。

科学的にも、体験的にも、ペットと暮らすと、優しく思いやりのある子に育つと語る星さん。

 古くからいわれていることですが、最新の研究でもそれを裏づける結果が出ていると星さんは言います。それが、イギリス・スコットランド地方に住む7~12歳の1,000人以上の子どもを対象に行った調査です。

 この調査では、80%の子どもがペットを愛し、83%がそのことを幸せに感じ、76%がペットを最愛の親友だと答えています。そして、ペットへの愛着が強いほど、子どもたちはペットの世話をし、友だちとの関係が深まり、物事に対する熱意が生まれ、人に思いやりを持って接することが分かったのです(*1)。

「つまり、ペットと暮らすことで、ペットだけでなく周りの人への思いやりも生まれ、ひいては子ども自身の精神面や情緒面の成長につながることが科学的に証明されたわけです」と星さん。

 星さんご一家も、お子さんたちが公園で拾ってきた柴犬の雑種と18年間過ごしたそうです。犬を拾ってきた後も、お子さんたちは死にそうな捨て猫をたびたび拾ってきました。動物病院の治療費もかさみ、星さんは「どうして死にそうな猫ばかり拾ってくるんだ!」と叱り飛ばすのが常だったといいます。

「しかし、後に分かったのは、子どもたちは数匹の捨て猫の中でもっとも死にそうな猫を拾ってきていたということでした。そのことを知ったとき、子どもたちを責めた自分に赤面したことを覚えています。3人の子どもたちは心優しく育ってくれましたが、それは18年間をともに過ごした犬のおかげだと思います」

 さらに、犬との暮らしは、発達障がいや自閉症、ADHD(注意欠陥多動性障がい)などの症状の改善にも有効という調査結果もあると星さんは言います。

 その一例が、アメリカ・カリフォルニアで行われた研究です。ADHDをもつ24人の子どもを「犬を用いて治療するグループ」と「犬を用いずに治療するグループ」に分け、12週間にわたって治療する実験を実施。その結果、犬を用いて治療したグループでは、問題行動が低下することが分かりました(*2)。

犬と一緒に学ぶと、
言語能力が高まる

犬に読み聞かせをすると、読書の速度や正確性、理解力が高まるというデータがある。犬がいることでリラックスができ、課題への集中力が増すからではないかと星さんは分析する。

「犬との暮らしは、子どもの心だけでなく、頭にもよい効果があるのです」と星さん。それを明らかにしたのが、小学校3年生を対象に行った読み聞かせの研究です。

 小学校3年生102人を「犬に読み聞かせるグループ」「大人に読み聞かせるグループ」「熊のぬいぐるみに読み聞かせるグループ」「普通に読むグループ」に分けて10週間読書をしてもらいました。すると、犬に読み聞かせたグループは他のグループに比べ、読書の速度や正確性、理解力が高まるという結果が出ました(*3)。

「犬がいることで子どもたちがリラックスし、課題への集中力が増したことで、読み進めるスピードが早くなり、読み間違えも少なくなったと考えられます」と星さん。犬と暮らすことは、子どもたちの学習面でもメリットがあるのですね。

喘息などのアレルギーを予防する

 子どもが喘息などのアレルギーをもっていたら、犬や猫などのペットは飼わないほうがいいと多くの方が思っているでしょう。しかし、じつは犬を飼ったほうが、喘息などのアレルギー体質になりにくいことが分かったのです。

アレルギーへの心配からペットを飼うことを躊躇する人が多いが、実は生後の時点からペットを飼ったほうがアレルギーが出にくいことが分かった。

 アメリカの子ども835人を対象にした調査によると、誕生したばかりの年に2匹以上の犬や猫と触れ合った子どもたちは、触れ合っていない子どもたちに比べ、喘息などになりにくいことが明らかになりました(*4)(※)。

「これは、生まれたばかりのころに犬や猫と接し、自然に細菌に触れることで、喘息などのアレルギーにかかりにくくなる抗体ができるためと考えられます。ペットを排除するよりも、逆に子どもが生まれたときからペットと触れ合う環境をつくったほうが、よりアレルギーを予防することにつながるのです」

 さらに、イギリスで5~11歳の子ども265人を対象に行った調査では、幼いころから犬などのペットを飼うと子どもの免疫力が高まりやすいことが明らかになっています(*5)。

「命は永遠ではない」ことを学ぶ

子どもたちの身の回りで「死」を経験する機会が少なった核家族のいま、命は永遠ではないことを経験させる上でも、ペットを飼う意義はあると星さんは語る。

 このように、犬などのペットと暮らすことは子どもによい影響を与えてくれますが、ペットの死も子どもたちに大切なことを学ばせてくれると星さんは言います。一般的に、犬の寿命は15年程度が多く、長くても20年前後。つまり、子どもたちは思春期のころにペットの死を経験するわけです。

「日本では核家族化が進行し、子どもたちが人の死を身近で経験することは極めて少なくなりました。そうした中、家族の一員であるペットの死を思春期に体験することは、デス・エデュケーション(死への準備教育)としてとても意義があることだと思います。愛するペットを亡くすことは、子どもたちにとってつらい経験でしょう。しかし、それは同時に、『命は永遠ではない』ことを学ばせてくれる貴重なチャンスでもあるのです」

 犬との暮らしが子どもたちにもたらすさまざまな効果について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。次回はビジネスパーソンなど成人にとってのメリットについて、星さんにお話を伺います。

(第2回に続く)

※喘息をもつ子どもが、犬や猫を飼うことで症状が改善するという研究結果ではありません。
※この記事は、星さんへの取材と「人と動物の関係学研究チーム」(ペットフード協会委託事業2020)(研究代表者:星旦二、研究メンバー:谷口優、山本和弘、小林真朝、柴内裕子、藤原佳典、西村亮平)がまとめた『動物介在療法に関する世界研究論文レビュー報告書』に基づいています。

出典
1…Roxanne D. Hawkins., et al.(2017). Childhood Attachment to Pets: Associations between Pet Attachment, Attitudes to Animals, Compassion, and Humane Behaviour. Public Health, 14, 490;
2…Schuck S., et al.(2015). Canine-assisted therapy for children with ADHD: preliminary findings from the positive assertive cooperative kids study. J Atten Disord, 19(2), 125-37.
3…Marieanna C., et al.(2014). The Effect of an Animal-Assisted Reading Program on the Reading Rate, Accuracy and Comprehension of Grade 3 Students. A Randomized Control Study, in Child Youth Care Forum, 43: 655-73
4…Dennis,R., et al.(2002). Exposure to Dogs and Cats in the First Year of Life and Risk of Allergic Sensitization at 6 to 7 Years of Age. JAMA 28,288(8), 963-72.
5…McNicholas, J., et al.(2004). Beneficial effects of pet ownership on child immune functioning. 10th International Conference on HumanAnimal Interactions.

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お話を伺った人

星旦二さん

東京都立大学名誉教授 放送大学客員教授
1950年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業後、東京大学で医学博士号を取得。東京都衛生局、厚生省国立公衆衛生院、英国ロンドン大学大学院留学などを経て、現職。公衆衛生を主要テーマとして「健康長寿」に関する研究と主張をつづける。著書に『ピンピンコロリの法則「おでかけ好き」は長寿の秘訣』(ワニブックス)、『ピンピンコロリの新常識』(主婦の友社)、『人生を変える住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『新しい保健医療福祉制度論』(日本看護協会)など多数。

文◎桑原奈穂子 インタビュー撮影◎平野晋子

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