犬との暮らしは、心・体・頭に効果絶大! 第3回【高齢者編】

犬と一緒に健康長寿を目指そう!

空間
リビング・寝室・居室
関心
老後健康

体を動かす時間が増え、
足腰が丈夫になる

 犬と暮らすと、日課になるのが犬の散歩です。「犬の散歩と聞くと、人間が犬を散歩に連れていくというイメージですが、じつはその逆で人間が犬に散歩させてもらっているんです。その証拠に、犬の散歩は私たちの健康に大きなメリットをもたらしているんですよ」

 そうした研究の一つに、犬の散歩と高齢者の運動機能についての調査があります。アメリカのメンフィス、ピッツバーグ、ペンシルバニアに住む72~81歳までの2,533人を対象に行った調査では、犬の散歩を週3回、150分以上行うグループは犬の散歩をしていないグループに比べ、歩行速度が速く、運動機能が優れていることが明らかになりました(*1)。

さまざまなデータから、犬と暮らすことで老いても健康が維持できると言う星旦二さん。

「愛犬と散歩に出かければ、自然と体を動かす機会が増え、足腰が鍛えられる。それが歩行速度や運動機能の向上につながっているのです」と星さんは言います。

 日本で65歳以上の高齢者339人を対象に行った研究でも、犬を飼っている人は飼っていない人に比べ、調理や家事、洗濯、買い物などのIADL(手段的日常生活動作)が高いことが判明。犬を飼うことは、高齢者の健康維持につながる可能性があると報告しています(*2)。

 さらに、犬の散歩は、人とのコミュニケーションを活発にしてくれる効果もあります。オーストラリアで行われた調査では、犬を飼っている人の50%が愛犬をきっかけに近所の人と知り合いになれたと答え、犬の散歩に行く人の83.8%が他の犬の飼い主とおしゃべりをすると答えています(*3)。

認知症とうつの症状がともに改善する

 厚生労働省の調査によると、2012年時点で認知症を発症している人は約462万人。そして、2025年には730万人に達し、65歳以上の5人に1人が認知症を発症すると推計されており、認知症をいかに予防するかが重要な課題となっています。

犬と過ごすことで、うつや認知症の予防はもとより、認知症患者の問題行動が減ることが報告されている。

 そうしたなかで、星さんが注目するのは、犬がうつや認知症の予防・改善に貢献してくれるという研究です。

「韓国で高齢者94人を2グループに分け、一方は犬などのペットを用いた動物介在療法を行い、もう一方は通常の療法を行ったところ、動物介在療法をしたグループではうつも認知症も改善したという結果が出たのです(*4)」

 また、別の研究でも犬などのペットがいると認知症患者の問題行動が減ることが分かってきており、今後のさらなる研究が期待されています(*5)。

犬を飼うと長生きできる

 2016年、星さんと望月友美子さん(国立がん研究センター)は共同研究により、「犬を飼うことと健康寿命には大きな関連がある」ということを世界で初めて発表しました。

犬や猫の世話をよくする人は「自分は健康だ」という前向きな気持ちになり、外出も多くなり、結果的に健康長寿につながると思うと星さん。

 星さんたちは、全国16市町村に住む高齢者約2万人を対象に、犬猫の飼育の有無や飼育状況など調査し、その後2年間の追跡調査を実施。その結果、犬や猫を飼っている人は飼っていない人に比べ、累積生存率が明らかに高いことが分かりました(*6)。

 さらに、高齢者の生存と要介護状況を約13年間追跡調査したところ、犬や猫の世話をよくしている人ほど累積生存率が高く、要介護になることも予防できることが明らかになったのです。

「犬や猫の世話をよくする人は、性別に関わらず、『自分は健康だ』という前向きな気持ちがあって、外に出かける機会も多くなっており、こうしたことが結果的に健康長寿につながっているのだと思います」と星さん。

 犬を飼うと長生きできる――。星さんたちの主張を裏づける追跡研究が、その後スウェーデンでも発表されました。40~80歳のほぼすべての住民343万2,153人を対象に12年間の追跡調査を行うという世界最大規模の長期追跡調査研究で、ここでもやはり犬を飼っている人は飼っていない人よりも累積生存率が高いことが分かったのです(*7)。

「犬を飼っている人は、改めて自分の幸せを感じてほしい」と星さんは言います。

「犬を飼えるということは、経済的に余裕があり、犬を飼える家に住み、そして動物を愛せる優しい心がある人ということです。そして、そういう人が元気で長生きできるということなんです。だから、犬を飼っている人は自分の幸せを噛みしめてほしいですし、飼っていない人はぜひ犬との暮らしを検討してほしいですね」

※この記事は、星さんへの取材と「人と動物の関係学研究チーム」(ペットフード協会委託事業2020)(研究代表者:星旦二、研究メンバー:谷口優、山本和弘、小林真朝、柴内裕子、藤原佳典、西村亮平)がまとめた『動物介在療法に関する世界研究論文レビュー報告書』に基づいています。

出典
1…Trorpe RJ Jr., et al.(2006). Dog ownership, walking behavior, and maintained mobility in late life. J Am Geriatr Soc. Sep, 54(9), 1419-24.
2…齊藤具子,岡田昌史,上地勝,菊池和子 他(2001).在宅高齢者におけるコンパニオンアニマルの飼育と手段的日常生活動作能力(Instrumental Activities of Daily Living;IADL)との関連 茨城県里美村における調査研究. 日本公衆衛生雑誌48(1)47-55.
3…Wood, L., et al.(2005). The pet connection: pets as a conduit for social capital? Social Science & Medicine. Sep, 61(6), 1159-73.
4…Ko, H.J., et al(2016).Effect of pet insects on the psychological health of community-dwelling elderly peaple: A single-blinded, randomized, controlled trial. Gerontology, 62(2), 200-9.
5…鈴木みずえ 他(2002). 痴呆性老人を対象とした動物介在療法の個別の効果と経過の分析. 保健の科学, 44(8), 639-46
6…星旦二, 望月友美子(2016). 我が国の高齢者における犬猫飼育と二年後累積生存率. 社会医学研究, 第33巻1号.
7…Mwenya M et al.(2017) Dog ownership and the risk of cardiovascular disease and death ? a nationwide cohort study Sci Rep. ; 7: 15821. Published online Nov 17.

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お話を伺った人

星旦二さん

東京都立大学名誉教授 放送大学客員教授
1950年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業後、東京大学で医学博士号を取得。東京都衛生局、厚生省国立公衆衛生院、英国ロンドン大学大学院留学などを経て、現職。公衆衛生を主要テーマとして「健康長寿」に関する研究と主張をつづける。著書に『ピンピンコロリの法則「おでかけ好き」は長寿の秘訣』(ワニブックス)、『ピンピンコロリの新常識』(主婦の友社)、『人生を変える住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『新しい保健医療福祉制度論』(日本看護協会)など多数。

文◎桑原奈穂子 インタビュー撮影◎平野晋子

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)