犬との暮らしは、心・体・頭に効果絶大! 第2回【成人編】

犬がいると、家庭も職場も幸せになれる!

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見つめ合うだけで幸せになれる

 愛犬と見つめ合うと、なんとも言えない幸せな気分になるという人も多いはず。それは、私たちの体内で「愛情ホルモン」ともいわれるオキシトシンが増加するからです。

 オキシトシンは、母親が子どもと接したときに分泌される授乳ホルモンとしてよく知られており、心を癒やしたり、体の痛みを和げたりする働きもあります。これまでオキシトシンは同じ種の動物同士が見つめ合ったり、触れ合ったりしたときにだけ分泌されると考えられてきました。

 しかし、最近の研究では、愛犬と飼い主が見つめ合ったとき、お互いの体内でオキシトシンが分泌されていることが分かりました(*1)。人と犬という種の違う動物間でもオキシトシンを分泌し合い、絆や愛情を深めることがはじめて確認されたのです。

 また、犬がいると人との会話が増えるという研究結果もあります。

「アメリカ・ミシガン大学で行われた研究で、学生120人を『犬がいるグループ』と『犬がいないグループ』に分けて広告を作成する作業をさせたところ、犬がいるグループのほうが活発な議論ができ、学生の満足度も高かったということです(*2)。犬が話のきっかけになることで、より深い会話ができることが分かったのです」と星さん。

血圧を安定させ、
心血管疾患のリスクを下げる

さまざまな科学的な研究結果に基づき、アメリカ心臓協会は「犬を飼うことが心血管疾患のリスクを下げるという声明」を出した。

 次に、犬との暮らしが私たちの体に与えるよい影響について見てみましょう。注目したいのは、犬を飼うことと血圧の関係です。

 加齢に伴って気になりはじめるのが高血圧。自覚症状がないため気づきにくく、しかもそのまま放置すると心血管疾患を助長し、ある日突然命を脅かすため「サイレント・キラー(静かなる殺人者)」とも呼ばれています。そして、なんとこのサイレント・キラーに犬との暮らしが効くというのです。

「犬か猫、あるいは犬猫両方を飼っている50歳以上の32人に対し、24時間の連続血圧測定を行った研究があります。それによると、家庭内で犬が一緒にいるときは収縮期血圧・拡張期血圧のいずれも低下することが分かりました(*3)」と星さんは言います。

私たちの年齢相応以上の高血圧すら、低下させる効果があるという犬との触れ合い。さらに、コレステロール値を抑え、心血管疾患のリスクを下げると、星さんは語る。

 また、アメリカ心臓協会では、血圧に加えて、犬を飼っている人は飼っていない人に比べてコレステロール値が低い、犬を飼っている人は肥満になりにくいなどの研究結果に基づき、犬を飼うことが心血管疾患のリスクを下げるという科学的な声明を出しています(*4)。

職場の人間関係がよくなり、
生産性も向上

オフィスに犬がいると得られる心への効果は絶大。結果的に生産性までも向上するようだ。

 では、犬が職場にいるとどのような変化があるのでしょう。「職場に犬を連れていった人」「犬を連れていかなかった人」「犬を飼っていない人」の3グループに分け、職場でのストレス反応について調査した研究があります。

 それによると、出社時のストレスは3グループともほぼ同じでしたが、時間が経つにつれて、犬を連れてこなかった人、犬を飼っていない人のストレスは増加し、逆に犬を連れてきた人のストレスは下がったのです(*5)。この調査から、犬が職場にいることで、職場のストレスが緩和されることが明らかになったと言えるでしょう。

 また、ミシガン大学の研究者の報告によると、職場で犬が寄り添っていたチームでは、犬がいなかったチームに比べ、チームメイトへの信頼やチームの結束力を高く評価するという結果が出ており、このことから職場に犬がいると生産性が向上すると推定しています(*6)。

「オフィスに犬がいたらみんなのストレスが緩和され、人間関係も良好になり、さらに生産性も上がる。まさに、いいことずくめです」と星さん。

 今回は、犬との暮らしが成人に与えるさまざまな効果についてご紹介しました。次回は、高齢者にとってのメリットについて星さんにお話を伺います。

(第3回に続く)

※この記事は、星さんへの取材と「人と動物の関係学研究チーム」(ペットフード協会委託事業2020)(研究代表者:星旦二、研究メンバー:谷口優、山本和弘、小林真朝、柴内裕子、藤原佳典、西村亮平)がまとめた『動物介在療法に関する世界研究論文レビュー報告書』に基づいています。

出典
1…菊水健史(2015).オキシトシンと視線との正のループによるヒトとイヌの絆の形成.Science,348,333-6
2…Alusheff, A.(2012). Canine Coworkers.
3…Erika Friedmann, et al.( 2013) .Pet's Presence and Owner's Blood Pressures during the Daily Lives of Pet Owners with Preto Mild Hypertension. Anthrozoos 26(4) 535-50
4…Levine GN, et al. (2013) Pet ownership and cardiovascular risk: a scientific statement from the American Heart Association. Circulation.11;127(23):2353-63
5…Barker, R., et al(2012). Preliminary investigation of employee's dog presence on stress and organizational perceptions. International Journal of Workplace Health Management, 5(1), 15-30
6…More from The Economist(2010) My Subscription Log in or register Subscribe World politics Business & finance Economics
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お話を伺った人

星旦二さん

東京都立大学名誉教授 放送大学客員教授
1950年、福島県生まれ。福島県立医科大学卒業後、東京大学で医学博士号を取得。東京都衛生局、厚生省国立公衆衛生院、英国ロンドン大学大学院留学などを経て、現職。公衆衛生を主要テーマとして「健康長寿」に関する研究と主張をつづける。著書に『ピンピンコロリの法則「おでかけ好き」は長寿の秘訣』(ワニブックス)、『ピンピンコロリの新常識』(主婦の友社)、『人生を変える住まいと健康のリノベーション』(新建新聞社)、『新しい保健医療福祉制度論』(日本看護協会)など多数。

文◎桑原奈穂子 インタビュー撮影◎平野晋子

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