99%の飼い主が知らない「猫的町並み」のヒミツ [第1回]

「猫用の何か」を置くだけでは、猫はまったく満足しない

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ライフスタイルリフォームDIY

 猫と暮らす家の設計を真剣に考えるなら、何か確実なロジックを知りたいと思うのは当然のことです。

 どこかで見たような「猫用の何か」を普通の家に取り付けたとしても、それは「猫のために家をつくった」ことにはなりません。何もなかった部屋に「何か」が置かれたぐらいの意味にしか、猫は受け取ってくれないでしょう。

 猫は人間と同じように空間をとらえているのか? あるいは、居心地の良さを人間と共有しているのか? この問いに答えられるのは、猫本人しかいません。

 とはいえ私は、猫は人間と同様の心を持っていると疑わない人間の1人で、猫に寄り添いながら、たくさんの家を実際につくってきましたから、ある程度はそれがわかります。

 良き飼い主が猫にプレゼントする家は、フィジカルとメンタルの両方が健康になるものであってほしいと思います。ともに遊べ、猫の身体能力が発揮され、小気味好い刺激をもたらし、わかりやすく、見えやすい家です。

なぜ猫の家が必要か?

 猫は外に出さず、避妊・去勢をして一生を家の中で暮らすのがよいと最近は考えられています。いわゆる完全室内飼育です。交通事故や病気の感染、近隣への迷惑を防ぐためには、そのようにするしか方法はありませんし、もうそれは、都市生活者にとっては常識のレベルになっていると思います。

 でも、家の中では刺激が不足します。猫が楽しめるような工夫を家の中に凝らしてあげたいと思うのは、飼い主の共通した望みです。

 猫に必要な刺激は日々の居場所と移動の中にあります。移動に関しては、多頭飼育の家をたくさん設計してきた経験で、私は猫の動線を「交通整理」する重要性を知っています。

 交通整理ができていない中途半端な猫の家では、進路妨害によるケンカなど、小さなトラブルがよく起きます。その小さなトラブルは、やがて大きな問題につながりかねません。つまり、家庭内の秩序と平和が維持できなくなるのです。

 猫の居場所を快適に設け、そこに至る動線の交通整理をするのは、ちょうど都市計画の手法に似ています。

 米国の都市計画家ケヴィン・リンチ(Kevin Lynch, 1918‐1984)は著書『都市のイメージ』の中で、都市を構成するエレメント(要素)を下の5つに整理しました。

 1.パス(道筋)
 2.エッジ(縁)
 3.ディストリクト(地域)
 4.ノード(接合点・集中点)
 5.ランドマーク(目印)

 この5つのエレメントは都市を「計画」するために考案されたものではなく、都市を「分析」するために考え出されたものですが、新しく計画した都市を(ここでは猫の家の内部空間を)自己採点するのに役立ちます。

 5つのエレメントが相互に関係していることを猫の家の計画者が自覚し、リンチが都市にとって最も重要な課題と位置付けた「わかりやすさ・見えやすさ」を猫の家にも実現できるなら、この5つのエレメントは猫の家の内部空間、すなわち「猫的町並み」を計画するための強力なツールになります。

 以降、ケヴィン・リンチが考えた都市の5つのエレメントを用いながら、猫の家に必要な設計のロジックを述べていきます。

猫的町並みを構成する5つのエレメント

パス

 パスは都市計画では「道筋」のことを指します。猫的町並みでは、キャットウォークや猫用階段など、屋内にある猫用通路に相当します。

 パスは移動手段ですが、複数存在するパスの位置や形状によってはパス自体が娯楽の装置になりえます。例えば高い位置にあるパスは、猫にとって楽しい装置になるでしょう。ジャンプを伴う運動が必要なものも、猫にとってうれしいものです。

 ここで大切なのは、パスは「場所」ではなく、「線状の連続した方向性」のあるものだということ。よって、高い場所に垂直方向に移動してから、どこか別の場所に水平移動できなければ、有効なパスにはなりません。後でも触れますが、市販のキャットタワーは、単独ではパスになりえないのです。

エッジ

 エッジは都市計画では「縁」のことを指します。言い換えると通行上の障壁や境界線のことです。

 猫的町並みでは、部屋の壁やドアなど、線状に存在する境界や障害物がエッジに当たります。エッジは猫の行動範囲を決めるものなので、広義の「テリトリー」と考えてもよいでしょう。

 猫は爪とぎによるマーキングでテリトリーを主張します。猫が爪とぎを行いやすい場所というのは、エッジの性質を持つということになります。

ディストリクト

 ディストリクトは「地域」のことで、特定の用途がある場所を指します。
 猫的町並みでは、陽当たりの良い昼寝場所や見晴らし台、窓辺、食事場所、トイレなどに該当します。

 複数のディストリクトを巧みにパスで結ぶことができると、ディストリクトは活性化します。つまり、猫が頻繁に使ってくれるようになります。

ノード

 ノードは、都市計画では「接合点・集中点」のことで、道路が交差したり集中したりする場所を指します。集中点のノードはディストリクトの焦点、別の言い方をすれば縮図ともなりえるため、ディストリクトとノードは別々に存在するのではなく、不可分なものとして存在すると考えられます。

 猫的町並みでは、キャットウォークが交差する場所や、猫ステップからキャットウォークに乗り移る場所、たくさんの猫用通路が1か所に集まる場所などに該当します。

 ノードには猫たちが自然と集まります。また、すれ違いざまの猫たちの行動には、各家庭で異なる特徴が見られます。ノードにおける猫たちのふるまいが穏やかであることが、猫的町並みには必要です。

ランドマーク

 ランドマークは都市計画では「目印」のことを指します。
 猫的町並みでは、単純に視覚を拠り所としたものではなく、感覚的に広範囲に定義されます。嗅覚や聴覚によるランドマークもありうるということです。

(第2回に続く)

●本稿は以下書籍の一部を再編集したものです

『猫がうれしくなる部屋づくり、家づくり』廣瀬慶二著、プレジデント社
「猫と暮らす家の設計」を専門とする著者が、猫のための部屋づくり、家づくりのコツを紹介。実際に著者が六畳一間のアパートを借り、DIYにチャレンジした中から生まれたアイデアは身近な知恵として気づきを与えます。さらに、マンションのリフォームや戸建て住宅の新築など、著者がこれまで設計してきた家の実例写真をたくさん使い、「猫のためのもっといい家」を考えるための材料を提供します。

画像提供◎PIXTA

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