99%の飼い主が知らない「猫的町並み」のヒミツ [第2回]

猫が喜ぶ装置のコツは「わかりやすさ」と「見えやすさ」

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イメージアビリティー

 キャットウォークや猫用階段などのパスを考えるときには、「わかりやすさ・見えやすさ」に配慮する必要があります。

 猫が床より高い位置にいるとき、どこに前足をかければ、あるいはどこにジャンプすれば、次の場所にスムーズに移動できるのかをわかりやすくしてあげなければいけません。
 そして、ある程度の移動に関する、ひとかたまりのルートが読めるように、全体を見えやすくしておく必要があります。

 人間の場合も同様で、都市のわかりやすさと見えやすさのことをリンチは「イメージアビリティー」と呼び、有益な都市の構造と、それ自身のありようを定義しました。イメージアビリティーが強い都市は、すべての人にとって好ましいというわけです。

 イメージアビリティーの強い都市では、道に迷うことがなく、迷ったとしても手がかりがあり、自分が都市の中の「どこにいるのか」を都市の構造の秩序の中から見つけ出しやすく、鮮明なイメージを持つことができます。

 話を家の中の猫に戻しましょう。

 イメージアビリティーの強い猫用通路のネットワーク、すなわち複数のパスは「わかりやすさ」という点で猫の安心感につながり、途中の動作で迷うことがありません。

 イメージアビリティーをおろそかにし、不規則なリズムの猫ステップや先の見えないトンネルなどを計画してしまうと、どこに行っていいのかわからず、猫の不安につながりますから、避けたほうがよいでしょう。

 ただし、イメージアビリティーは5つのエレメントの相互作用によって強くも弱くもなるものです。決して、少ないパスやディストリクトのみで評価できるものではありません。

 ですから私は冒頭に、「どこかで見たような『猫用の何か』を普通の家に取り付けたとしても、それは『猫のために家をつくった』ことにはなりません」と書いたのでした。(第1回参照

進入禁止エリア

 人は猫と昔から、住居という名の空間をシェアしてきました。それでも、猫に入ってほしくない部屋や場所というのはあるものです。ですから猫の進入禁止エリアをしっかりと定めましょう。

 間取りであれば、キッチンや洗面所など。部屋であれば、クロゼットなどが該当すると思います。
 観葉植物がお好きな方は、猫の安全と、観葉植物の保全を考えると、それを置く場所も進入禁止エリアになります。

 あらかじめ進入禁止エリアを定めておくと、パスとエッジを意識することができます。

 特にエッジに関しては、猫が自分でドアを開けてしまって、エッジを無効化し拡張することがあるので、両面サムターン鍵(内側からも外側からも施錠できる保育所などで用いられる鍵)が必要になってきます。

 レバーハンドルを縦に付けるアイデアや、猫が開けにくいハンドルもありますが、猫のために人間が不自由をするのは設計のアプローチとしては間違っていると私は思います。
 レバーハンドルにぶら下がってドアを開けようとしても、両面サムターン鍵がかかっていれば開きません。どうしても開かない状態が続くと、猫はその行動を起こさないようになります。それは行動分析学の用語で「消去」と言います。

 いくら自分が行動しても、環境に変化がない場合(=環境に無視された状態)が続くと、その行動は減少していきます。
 犬の「しつけ」ではおなじみの手法ですが、猫にも適用できるので、覚えておいてください。

猫の家のロジック

 ここまで、猫の居場所や猫用通路の計画手法を都市計画にたとえて話をしてきました。
 家の中で暮らす猫には、家の中が「町並み」であり、それを可能な限り魅力的にした「猫的町並み」では、人間の都市と同じように、イメージアビリティーが強い必要があるという内容です。

 しかし、ただ、わかりやすく、見えやすいことだけを重視すると、猫の探索欲求や、窓の外に何かがたまたま横切ったのを見るような意外性がなくなり、完全室内での生活が退屈なものになってしまうかもしれません。

 私はパスをつくるときに、猫が「最初の1歩」を自発的に踏み出すように考えてデザインしています。

 猫は、室内に存在するパスの全行程を完璧に覚えているわけではないので、進んでは止まり、進んでは止まりを繰り返します。慣れてくれば、止まる時間が短くなり、スムーズに動いているように見えますが、基本的には、何度も「最初の1歩」を繰り返しているのです。

 ですから、最初の1歩を踏み出す動機となる好奇心を抱かせる「神秘や迷路や意外さ」が必要なのかもしれません。

 人間も、目的地までまっすぐ遠くまで見渡せてしまう道を行くよりは、路地を散策してみたいと思うことがあるでしょう。

 私は、「完全室内飼育の猫が退屈しないように、家を工夫しましょう!」と主張していますが、それだけではいけないことを承知しています。
飼い主とともに暮らす時間こそ、猫にとってのQOL(quality of life)を高める大きな要素です。

 その前提で、家の中に差し込む太陽の光や、それがつくり出す影、聞こえてくる鳥のさえずり、雨の音など、次々と、猫の興味を引くように家がつくられていれば、飼い主と一緒に遊ぶ時間はもっと楽しいものになるはずです。

 キャットタワーだけがぽつんと置かれている家は、家族が遊んであげていたとしても退屈な住まいです。
 猫の目線で、5つのエレメントを意識しながら、いろんな工夫を家の中に凝らしてみませんか?

(第3回に続く)

●本稿は以下書籍の一部を再編集したものです

『猫がうれしくなる部屋づくり、家づくり』廣瀬慶二著、プレジデント社
「猫と暮らす家の設計」を専門とする著者が、猫のための部屋づくり、家づくりのコツを紹介。実際に著者が六畳一間のアパートを借り、DIYにチャレンジした中から生まれたアイデアは身近な知恵として気づきを与えます。さらに、マンションのリフォームや戸建て住宅の新築など、著者がこれまで設計してきた家の実例写真をたくさん使い、「猫のためのもっといい家」を考えるための材料を提供します。

画像提供◎PIXTA

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