99%の飼い主が知らない「猫的町並み」のヒミツ [第3回]

室内飼いの猫にとって「窓」はテレビのような存在

空間
リビング・寝室・居室
関心
ライフスタイルリフォーム事例DIY

キャットウォークの5原則

 私は以下の5原則を守ってキャットウォークをつくっています。
 1.「そこにある理由」が必要である
 2.「一方通行で行き止まり」はダメ
 3.清掃できなくてはいけない
 4.「猫が歩いている姿」を楽しめること
 5.猫がすれ違えるだけの幅があること

「1」の「そこにある理由」については、違う見方をすると、キャットウォークの適切なレイアウトが猫にとって特別な場所、第1回で述べた「ノード」を生み出すということです。
 複数のキャットウォークが交差したり集中したりする場所には活気が生まれます。それを計画するのです。

 建築家としては、「4」の「猫が歩いている姿」を楽しめるデザインにはかなりの労力を費やします。
 例えば、リビングのソファーから見える姿はどんな感じになるのか、3Dの設計ソフトで検討しています。その角度や高さの調整で人から見た風景も、猫から見た風景も変わってくるからです。

 そしてキャットウォークは、単独でもインテリアとして成立するものにしたいと思っています。

猫の道のバリエーション

 猫の通る道には様々なバリエーションを持たせます。もちろん人が歩く床の上も猫は通りますが、それ以外に猫専用の道「パス」を様々なカタチで用意してあげる必要があります。

 窓辺、キャットウォーク、壁に設置されたステップ、トンネル、家具の上、階段などのいろんな要素を、まるで都市の構成要素のように家の中に配置するのですが、大切なことはその道の「規則性」と「連続性」です。
 それらが規則的に存在し、猫にとって予測可能で不安を感じさせないものであれば、猫は驚くべきスピードで道を移動します。

 移動は猫にとっての娯楽です。また本能的に必要なものです。猫は階段を駆け上がる身体を持っていますし、ジャンプする能力もあります。そして急いでいるときもあれば、ゆったりとした歩調で移動したいこともあるでしょう。
 それらの気分を満たせる空間を用意してあげなくては、完全室内飼育に適した猫のための家とは言えません。

 猫の通る道を考えることは、すごく難しいことで、決して、形態だけを真似て満足されるべきものではないのです。きちんとしたロジックのもとに、それらは構築されるべきだと私は考えています。

猫の階段のバリエーション

 私が家を設計するときにいちばんワクワクするのは、階段のデザインをしているときです。特に猫専用の階段は構造上の制約が少ないゆえに、とても楽しいものです。

 壁から突き出す形のものは「猫ステップ」と呼びます。螺旋階段は「キャットツリー」で、人間の階段と同様のものは「猫階段」と名付けています。

 階段のリズムが一定であることは当たり前の話なので、誰も気に留めていないかもしれませんが、止まっているエスカレーターを上り下りしたことがある人ならわかるでしょう。
 段差が途中で変わると、前のめりになって体勢を崩してしまいます。猫も人間と同じで、気持ちよく使ってもらうためには、段差のリズムを一定にしなくてはいけません。規則性はとても大切です。

 それから階段の使い分けも大事です。日常の動線として頻繁に使う経路には、段差が20cm程度の階段を用いた方がよいと思います。それはちょうど人間用の階段と同じ角度です。
 逆に、アトラクションとしての階段は段差を30cm以上にしてしまいましょう。そうすれば猫は、飛び跳ねるように元気に階段を駆け上がってくれます。

多層空間を目指す

 2階建ての家には床が2枚。ロフトがあれば3枚。これは人間が暮らす家の話で、猫にとっては、家具の上やテレビの上、階段の途中、窓の縁など、いくらでも床があります。
 でも普通の家だと、ちょっと幅が狭いので居心地があまり良くない。のびのびとできないのです。

 だからもっと多層空間を意識して設計するのがよいでしょう。

 キャットウォークがあれば床は1枚増えます。異なる高さにそれが複数あって、幅も60cmぐらいとっていれば、いくらでも多層にできます。居心地はぐんと良くなって、用途も発生するでしょう。
 といっても相手は猫ですので、昼寝の場所になるくらいのものですが……。

 多層空間をつくると猫の居場所が増えるのですが、もうひとつ、大きなメリットが生まれます。縦方向の動きがダイナミックになるのです。

例えば、1階から2階、そしてロフトまでを一気に貫く螺旋階段をつくったとしましょう。その高さは6mほどのものになります。これを颯爽と上っていく猫の姿は、なかなか見ごたえがあります。

 いろんな高さに猫がいる光景は楽しいものです。猫がいっぱいいるなら、呼べば一斉にこっちを見てくれます。

猫のための窓の計画

 猫にとって窓はとても大切です。外部との唯一の接点という意味で大切なのは言うまでもありませんが、完全室内飼育の猫にとって、窓はテレビみたいなものです。

 かつて、猫の視覚はモノトーンの世界だと思われていましたが、最近そうでないことがわかりました。でも、人間ほど、あざやかな色彩や、細かい形状を見ることはできませんから、窓から見る景色は、猫と人間とでは随分と違うのです。

 猫の眼は近いものには焦点を合わすことができません。一方、2mから7mぐらい先で動いている「獲物」に対しては、とてもよく反応する捕食動物特有の視覚を持っています。

 そのような視覚の特徴を持つ猫ですが、家の中にいれば、外に獲物がいたとしても窓の向こう側には手が届きませんし、実際に捕食しなくても、ごはんが容易に手に入る生活なら、外界に見えるものの実体なんて、どうでもよくなっているのではないでしょうか。

 そんな理由で、猫にとっての窓から見える景色は、テレビの画面のようなものだと私は考えるのです。

 猫が窓の外を眺める様子には「放課後の教室の窓から校庭で走る誰かを眺めているアンニュイさ」があります。鳥がやって来ると夢中で窓の前に集まったりしますが、だいたいは、ぼんやりと外を見ています。それがアンニュイさを連想させるのでしょう。

 何が見えているにせよ、猫は窓が大好きです。1匹につきひとつ以上、窓があったほうがいいと思います。なぜなら、窓の前は、猫にとっての最小単位のテリトリーになるからです。そしていろんな向きや高さに窓があるのが好ましいと思います。

 すべての窓に違う景色が映っていると、テレビのチャンネルが多いのと同じで、それはきっと好ましいのです。たくさんのチャンネルがあれば、どれかひとつくらいは面白い番組をやっているでしょう。

 完全室内飼育の猫にとって最大のストレスは「退屈」ではないか、と最近は考えられています。
 やっぱり猫にとって窓は大切な存在なのです。

●本稿は以下書籍の一部を再編集したものです

『猫がうれしくなる部屋づくり、家づくり』廣瀬慶二著、プレジデント社
「猫と暮らす家の設計」を専門とする著者が、猫のための部屋づくり、家づくりのコツを紹介。実際に著者が六畳一間のアパートを借り、DIYにチャレンジした中から生まれたアイデアは身近な知恵として気づきを与えます。さらに、マンションのリフォームや戸建て住宅の新築など、著者がこれまで設計してきた家の実例写真をたくさん使い、「猫のためのもっといい家」を考えるための材料を提供します。

画像提供◎PIXTA

リクシルオーナーズクラブ(年会費無料)