妻のアトピーで自然由来の内装資材を開発
「妻と知り合った当初、彼女がアトピーで悩んでいました。建築業の自分にできることはないかと考えていたとき、シックハウスがアトピーにも影響するということを知り『妻のためにも安全な住宅を作りたい』と思ったのが自然素材の建材を開発しようとしたきっかけです」
こう語るのは、アトピッコハウス株式会社社長の後藤坂さん。26年前のことです。当時は、シックハウスという言葉すら知らなかったとか。
それでも、奥様と同じようにアトピーや体調不良で悩む人には、自然のものが身体に良いのではないかと模索しはじめました。社名の「アトピッコハウス」は、アトピーがきっかけだからだそうです。
最初に着手したのが、寝室として使う和室の畳でした。当時はもう中国産の畳が主流になっていましたが、粗悪なものが多く、防虫剤や防カビ剤の成分も今よりずっと危険なものが使われていました。だからといって、和室をフローリングに変更するにはコストがかかりすぎますし、畳ならではの感触は得られません。そこで、安全な畳を開発します。
日本古来の本物の畳を復活させる
「昔から日本人が使っていた畳は凄いんですよ!」
こう熱く語るのは、アトピーで苦しんでいた、ごとうひろ美さん。社長の奥様です。
「畳表はイ草、芯にあたる畳床は稲ワラでできているのですが、どちらも1年草ですから毎年刈り取ることができます。イ草は表側で5年、裏をひっくり返して5年、合わせて10年は使えます。畳表を10年置きに張り替える表替えを行えば、軽く40年は気持ちよく使うことができるんです。『稲(イネ)は命の根(イノチノネ)』と言われるように、稲を育ててお米にして、収穫した後の稲わらを畳の床に使い、最後はまた肥料として土に返すこともできます。こんなに効率の良いものはないと思いませんか?」
当時の中国産畳は、歩くと畳表からイ草が剥がれよく靴下に付いたものです。品質が悪いので畳の部屋をフローリングにしてしまう家庭も増えました。
本来、日本の畳は、柔道場でも使われるくらい丈夫で、クッション性も優れています。それに比べて外国産の安い畳は、木材チップの圧縮板で発泡スチロールを挟んだ芯の部分である「床(とこ)」、藁と藁の間にポリスチレンフォームを挟んで作られた床など、軽い畳床が使われます。薬品を使って着色しますから、均一で鮮やかな緑色をしています。
この厚みからは想像がつかないほどの稲藁を使う。およそ40センチ積み重ねたものをぎゅっと圧縮。40年はもつという秘密はここにある。
「薬で着色したイ草の畳の上で過ごしていることの怖さに気が付いてしまったら、これではいけないと……。良いイ草を育てている農家さんを探すために、思わず電話を手に取ったのが始まりでした」(ひろ美さん)
同社の『ほんものたたみ』という製品は、クッションになる稲ワラをふんだんに使い、イ草で覆うという昔ながらの製法で作られています。減農薬のイ草と人の手で刈り取った稲ワラを使い、あらたに防虫剤を使わない代わりに1年かけて発酵熱で虫を全滅させるそうです。
製品化においては、防虫シートの代わりに、麻シートを使って防虫効果を高めているそうです。麻の防虫効果は、薬剤に比べたら物足りないと感じるかもしれませんが、薬品の効き目はせいぜい2年くらいとか。しかし、古くから生活のあらゆる場面で重宝されてきた麻には調湿性や殺菌効果があるといわれ、その効き目は長く持続するという特徴があるそうです。
「とはいえ、自然素材ですから限界はあります。使いはじめは、イ草と稲ワラの弾力で少々段差ができたり、たるみができたりします。夏と冬では大きさも変化しますし、色も均一ではありません。ただ、使っているうちに段差も色むらも馴染んできます。反面、この自然の特性が適度な弾力と調湿性というメリットでもあるのです」(後藤さん)
部屋の空気を入れ替えれば特別なメンテナンスは不要
日本古来から伝わる方法で再現した畳。有毒なガスを発生される化学製品は一切使っていない。
「防虫剤や防カビ剤を使っていないので、空気を流してあげることが重要になります。24時間換気が完備されているお宅でも、外の新鮮な空気を1日1回、取り入れてあげてください。カビやダニの心配は激減します」
これは、自然由来の壁紙や床材にも共通しているメンテナンスの一つです。普段のお掃除はフローリングワイパーか掃除機をあてる程度で十分。畳の目に沿うようにお掃除するのが、畳を長持ちさせつつ、キレイに保つポイントだそうです。
「最近は外国産の畳も品質がずいぶん良くなっています。それでも一手間も二手間もかけた国産品の柔軟性と耐久性には及びません。家と素材を労わりながら共存していく。そんな価値観を持って、長くお付き合いいただける方に使っていただきたいと思っています。一度、ほんものの畳でゴロゴロしてみてください」とお二人
お茶席などで正座をするときに、弾力ある本物の畳の良さが実感できるそうです。気になるお値段は、畳の材料代と工事代となり、格安の外国産と比べるとおよそ2倍。ここ10年間で畳の生産量は半減したといいますが、和室はいらないけれど、畳のある部屋が欲しいという声は増えているそうです。
自然素材は高いといわれていますが、ローンを組んだ場合、月当たり500円ほどアップするくらいで実現できる場合もあるそうです。本格リフォームの前に、本物の畳だけでも合板フローリングの上に何枚か敷いてみて、自然素材の快適を味わってみるのもいいかもしれません。
(第2回に続く)
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