「快適」を手に入れる「自然素材」の選び方 [第2回]

ビニールより丈夫な「布」の壁材で、風合いのある住空間に

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健康で快適に暮らすために、人は衣食住の充実を求めます。過敏症肌の方なら、着心地や素材を吟味して着るものを選ぶでしょう。食に関しても、無農薬や有機栽培の食材が好まれる時代になってきました。しかし、住宅に関しては依然として、外見ばかりが重視され、素材の吟味までは行き届かないのが現状です。ただ、その一方で、若い世代を中心に自然素材を意識して丁寧な暮らしを取り戻したいという人も増えています。アトピッコハウスでは、畳に次いで自然由来の壁の建材を開発しました。

自然素材の壁紙や塗り壁素材を開発

 安全なイ草と稲ワラを探すことから始めて作り上げたオリジナルの畳を世に送り出した後藤さんが、次に開発を着手したのが無薬品処理の織物壁紙でした。

「『自然素材で家を作りたい』という同じ志を持つクロス製造工場の協力のもと、織物壁紙を開発、試行錯誤ののち製品化にこぎつけます。しかし、まったく反応なし。そんななか、専務である妻ひろ美が『すっぴんクロス』という商品名を付けたところ、親しみやすさもあってか、少しずつ興味を持ってもらえるようになりました」(後藤坂さん)

 日本は戦前から気候風土に合った布の壁紙を使っていました。しかし、高度成長期に防火基準が設けられ、布だけでは基準を満たすことができなくなりました。そこで布の上から防火性能を上げるための難燃剤を使用するようになったのです。

 しかし、その薬品のせいで布が傷み、数年でシミが浮き上がるという“副作用”に悩まされることになります。
 このような経緯もあって、いつしか「布の壁紙=みすぼらしい」というイメージができあがり、結果としてビニールクロスが日本住宅の主流になっていきまました。

ビニール製の壁紙(上)は指で簡単にちぎれるが、織物壁紙(下)はまったくちぎれない。

 ビニールクロスは大量生産できるので価格も安く、難燃性が高いので、集合住宅をはじめ、いまでも多くの住宅で使われています。しかし、静電気が埃を吸い寄せるという弱点がありますし、長年使っているとベトベトしてきます。
 そこで、これらの欠点を解消したのが同社の難燃性の織物壁紙なのです。

「本来、clothといえば布ですよね。高温多湿の日本の気候には織物が適しているんです。しかも、布の壁紙はどこか優しくて、織物独特の高級感が漂います。強度も布はビニールのものに比べたらずっと丈夫ですから、手で破こうと思っても簡単には破れません」(ごとうひろ美さん)

 このクロスは同社オリジナルのでんぷん糊を使って壁に貼るのですが、これは小麦やタピオカなど食品にもなる材料だけで作られているそうです。有害なガスを発散させる接着剤は使っていないので、環境へも身体へも安心。あえて弱点と言えば水拭きができないところかもしれません。

「当社のクロスは全てが防災認定の基準を満たしているわけではないので、防災認定を受けた一部のクロスを除いては、マンションなど防災基準によっては使えない住宅もあります。ジョイントといって壁紙の継ぎ目が少し気になる方がいるかもしれません。でも本来、クロスってそういうものなのです」(後藤坂さん)

自然素材が普及しにくいユーザーのクレーム?

 自然素材を使ったものは、畳に段差はできるし、壁のジョイントが目立つものなのですが、きちんと説明すれば施主さんは『味がある』と理解してくれる方が増えているそうです。その一方で、施工業者の方がクレームを気にして本物を使いたがらないという現実もあるようです。

「ユーザーの多くがビニール製の壁紙しかご存じないので、均一に仕上がらないのはおかしい、なんで水拭きできないのかというクレームがあるのです。ユーザーのこうした声に対して、『わずかですが段差がでてしまうことがあります。そのかわり安全だし、高級感がありますよ』という説明をするのが苦手な職人さんがいらっしゃる。そんな対応をしなければならないのなら、従来のビニールは面倒がなくていいということもあるようです」(後藤坂さん)

 一方、若い世代を中心に、本物を丁寧に使いたいという風潮は徐々に広がっているように感じているというひろ美さん。クレームが起きにくい事前の説明と丁寧な施工で、「自然素材のメリット」をよりアピールして、ユーザーもさることながら施工する方々への啓蒙活動も進めたいといいます。

珪藻土や漆喰などの塗り壁も増えている

 珪藻土は調湿性が高く、漆喰は意匠性が高いことから、最近は珪藻土や漆喰の塗り壁に興味を持つ方も増えてきているようです。これを受けて、アトピッコハウスさんは独自の塗り壁を開発しました。

「当社の珪藻土塗り壁は、主原料の珪藻土に酸化マグネシウム(マグネシア)と苦汁(にがり)を加えて固めています。マグネシアは胃薬などにも使われるくらいですから、人間が口にすることもできる自然素材100%で作りました」(ごとうひろ美さん)

同社のオリジナル壁材。こすっても粉が落ちることがないばかりか、調湿性が一般的な漆喰の6倍、JIS規格の3倍という。

 一般的な珪藻土には、ポロポロと壁が崩れやすくなるため接着剤が含まれているそうです。ただ、接着剤を入れると気泡が埋まってしまい、調湿性が損なわれカビの原因になりかねません。せっかくの自然素材も化学製品を併用することで、本来の“性能”を発揮できなくなります。

 ですがポロポロと粉が落ちる自然素材の欠点をマグネシアと苦汁の作用だけで解消、しかも調湿性が一般的な漆喰の6倍、JIS規格の3倍という高機能を実現しました。

 さらに、同社では漆喰調の壁材も開発しました。

「原料はマグネシアと粘土鉱物の一つであるモンモリロナイトで消石灰は使っていないため、正式には漆喰とは言えませんが、本来の漆喰以上に調湿性が高いことと、泥洗顔や消臭剤として使われるモンモリロナイトを使用することで、消臭効果はアップしています」(後藤坂さん)

 一般的に高価といわれる自然素材の価格ですが、案外常識的な範囲に収まっているようです。

「クロスや塗り壁も1平米あたり1000円台から商品を揃えています。大手メーカーのビニールクロスと比較しても決して高価なものではないと思います。ただ、施工には少々時間と手間がかかります。その分、割高だと感じるかもしれません。ただ、家じゅうをぐるっと囲う壁ですから、キッチンやお風呂を選ぶのと同じくらい慎重に選んでいただけると嬉しいです」(ごとうひろ美さん)

(第3回に続く)

お話を伺った方

後藤坂さん

アトピッコハウス株式会社代表取締役。自然素材の塗り壁3種ほか、無垢材ローリング、自然素材クロス、国産ワラ畳といったオリジナル建材を販売するメーカー。新聞掲載回数155 回以上。自然素材を取り入れた家づくりが「当たり前の選択肢」となるように情報発信を続けていることから建て主からの問い合わせが多い。建て主の声を活かせるように、自然素材に理解のある建築会社の育成もしている。建築会社支援の1つとして開発した「住宅営業お便り当番」が地域密着工務店に浸透することが、次の目標。

ごとうひろ美さん

アトピッコハウス株式会社専務取締役。後藤坂社長の奥様にして、製品のネーミングなど担当する社長の右腕。自らのアトピー体験から、おしゃれで、色柄も選べ、普通の人も使える素敵な商品を目指す。理想はふっと気付くとそれが化学処理されていない自然由来の製品。

文◎山田章子 撮影◎平野晋子
取材協力◎アトピッコハウス https://www.atopico.com/

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