会話が生まれる「大鍋料理」は
作ってそのまま食卓へ!
「日々の料理をすることを苦痛に感じている。そんな方がとても多いんです」
これまでに1,500ほどのキッチンで出張料理をつくってきた志麻さんは、「料理をすることにマイナスのイメージを持っている方が多い」と言います。
献立はどうしよう、買い物もしなきゃ、子どもをこの時間までに食べさせて……、ということを考えると、確かに料理は憂うつになってしまいがち。
「日本料理をちゃんとつくろうとすると、一汁三菜が基本ですし、一品ずつ味付けしなくてはなりません。忙しいと、盛り付けも手間に感じてしまいますよね。一方フランスの家庭料理は、実は調理法も調味料も至ってシンプル。たいしてスゴイ料理をしているわけではないんです」と、志麻さんは、「忙しいときこそフランス流で」と提案します。
たとえば肉料理は、塩で味つけをしたら煮込むだけ、または焼くだけ、という調理法がほとんど。
ソースがかかっている料理も、それほど複雑ではありません。まず、塩を振った肉をフライパンで焼いて、焼き上がった肉をお皿に移し替えて休ませている間に、フライパンに残ったうまみにワインを入れて煮詰めれば、簡単ソースの出来上がり。
メインのほかは、季節の野菜をゆでるだけ。
そのまま出して肉のソースをつけたり、バターで和えたりします。
「わが家では、肉じゃがでも麻婆豆腐でも、大鍋で調理して、そのまま食卓にドンと出して取り分けます。この方法はラクなだけではなく、食卓に会話が生まれるのでおすすめです」
ホームパーティでも大鍋が基本。志麻さん宅にて。
たとえば、子どもに「どれくらい食べる?」とたずねて、子ども自身に食べる量を決めさせたり、「それは嫌い」と言ったら「なんで嫌いなの?」と聞きながら、食材の話をしたり。
「フランスのお母さんたちは、作ることも楽しんでいるし、食べることも楽しんでいます。食事は毎日のことですから、それを楽しめるか楽しめないかというのは、人生に大きな影響を与えるのではないかと思うんです」
食材も調味料も調理器具も、
あるもので十分!
志麻さんのつくり置き料理。左は夏、右は秋の食材でつくったもの。
志麻さんの出張料理は、3時間で1週間分のつくり置き料理をするのが基本。多いときは15品もつくることがあるそうです。
依頼先では「そのご家庭の好みや家族構成、生活リズムに合った料理を心がけています」という志麻さん。
「たとえば、冷蔵庫を開けたとき、減塩しょうゆや減塩みそなどを発見したら、塩分の取り過ぎに気をつけていることがわかるので、薄味調理にします。会話以外のところから食の嗜好をキャッチするようにしています」
料理が憂うつだと語る方には、気楽になれるよう、フランスの食生活スタイルを話したり、料理に苦手意識はないという方には盛り付け方の工夫などを話したり、さまざまな会話を心がけているそうです。
志麻さんがスゴイのは、事前にメニューの打ち合わせや、食材・調味料の在庫状況、調理器具の有無を確認することなく、当日依頼先のキッチンに立ち、“出たとこ勝負”で立派な料理をつくること。
「持参するのはエプロンだけです。調味料や食材が足りないことはよくありますが、買い足しすることはなく、そのご家庭にあるものでつくります」
料理人時代、何でも揃っている調理場で料理をしていたので、最初はとまどいがあったそうですが、いまでは慣れて、あるもので何ができるかを考えるようになったとか。
たとえば、コチジャンがなければ、味噌としょう油と砂糖で代用したり、チンジャオロースをピーマンとタケノコではなく、もやしと小松菜でつくったり、という感じです。
志麻さんの場合、依頼先には、「1週間分の食材の用意」をお願いするのですが、行ってみると、1日分の食材しか用意されていないケースもあるそう。
「そんな場合も買い足しません。もしも1枚の鶏もも肉しかなければ、3つに切り分けて3種類の料理をつくります。その代わり、お豆腐でボリュームを出すなど工夫します」
調理器具にもこだわらず、オーブンがなければ、フライパンで焼いてからグリルに入れて焼き目をつけるなど、代用品ですませます。
「下ごしらえ」「計量」は省略しても大丈夫!
志麻さんは、料理をラクにするには、「まずは段取りよくすること」と言います。
「段取りよく」とは、料理の順番を効率よく進めるということ。そのためには、レシピに書いてあっても“やらなくてもよいこと”は省略します。
たとえば、レシピにはたいてい下準備が書かれていますが、志麻さんは、「あえてする必要はない」と言います。
「たとえば下準備として“野菜を切る”と書いてあった場合、その通りにやると、野菜を切っている間はコンロを使わず、料理も進みません。実際に料理をするときは、先に炒めはじめてから、“下準備”として書かれている野菜の皮むきをすると、料理を同時に進められます。これが段取りのコツです」
もうひとつ、志麻さんが「していない」と言うのが計量です。
「私はお菓子づくり以外、計量したことがありません。測ることに集中すると、それだけで手間がかかるし、測った時点で安心してしまうので、いつまでたっても自分で覚えられないんです」
たとえば、計量カップの代わりにキッチンに置いてあるコップを使ったり、計量スプーンではなく、いつも使用するスプーンを使ったりと、“目盛りのないもの”で測ってみることを志麻さんはすすめています。
さらに「時間」についても、自分の五感を活かしてほしいといいます。
「レシピに『弱火で30分煮込む』とあったとき、弱火といっても、中がフツフツ沸騰しているのか、ユラユラしているのか、いろんな状態があります。鍋の大きさによっても変わりますし、どういう状態まで煮ると自分たちがおいしいと思う料理になるのかは、まさに自分の感覚が頼りです」と、レシピ通りに忠実にやらなくてもいいといいます。
「もっと気楽に、自分の感覚で料理するのが、楽しく料理をするコツです。レシピと同じものがゴールではなく、自分や家族がおいしいと感じる料理をつくることが一番!」
そう聞くと、肩の力が抜け、料理に前向きに取り組めそうです。
(第3回に続く)
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